ビジネス講座

2008/12/01中小企業のM&A活用法第8回 : 中小企業のM&A事例(3)
〜事業譲渡による多角化のケース〜

前回、前々回にわたって中小企業のM&Aにおける典型的な成功事例を紹介しました。ともに株式譲渡によるオーナーリタイアのケースでしたが、退職金支給の有無や社長続投の可否など、目的に応じて取り得る手法の組み合わせも変わってくることをご理解いただけたと思います。

今回は、最近の景気低迷下で増加している「飲食店の譲渡」を例にとって、中小企業のM&Aで多くみられる事業譲渡について紹介します。

なお、「事業譲渡」は旧商法で「営業譲渡」とも呼ばれていたが、会社法の施行以降、法人の譲渡に関しては「事業譲渡」という用語に統一されています。

事例その(3)〜事業譲渡による多角化のケース〜

【譲渡側企業(F社)の概要】
所在地 : 東京
従業員 : 10名
売上高 : 3億円
事業内容 : 飲食店経営

【譲受側企業(G社)の概要】
所在地 : 関東地区
従業員 : 200名
売上高 : 約100億円
事業内容 : 通信機器販売

背景事情

F社は、東京都内で和食、居酒屋など数店舗を展開する飲食店経営会社で、社長の飲食店勤務時代の経験を生かして最初の和食店を港区で開店以来、さまざまな和食業態での出店を進めていた。折からの外食ブームや立地の良さもあって業容は拡大していったが、その一方で、開店資金や運転資金などの借り入れ負担も増加するなど、財務面での問題を抱えていた。

G社は関東地方をベースに営業展開を行っている通信機器・電子機器の販売会社で、携帯電話の普及とPCなど電子機器の販売拡大により、事業を拡大していった。一方で事業の多角化にも積極的に取り組み、サービス業を中心にさまざまなM&A案件を検討するなかで、飲食店の経営にも自社で培った顧客サービスノウハウを提供できると考え、飲食店のM&Aを積極的に進める意向を持っていた。

M&Aのプロセス

M&Aスキーム

ポイント

事業譲渡の場合、オーナーシップが移動する株式譲渡と違って、法人のオーナーは変わらず、法人の事業の一部(または全部)を譲渡することになります。この場合の譲渡対象は、単なる貸借対照表上の資産ではなく、「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)」と解されています(旧商法)。すなわち、設備や内部造作のみを譲渡するだけでは、「事業譲渡」とならない(「造作譲渡」または「居抜き譲渡」と呼ばれます)。 そのため本件では、実際に営業を継続している店舗を資産や在庫、顧客との取引関係や従業員ごと引き受け、G社(新設子会社)がそれぞれの取引関係や雇用関係を個別に引き継ぐ手続きを取っています。

事業譲渡の場合、この引き継ぎ作業がスムースに進まないと、得意先の減少や社員の退職などの問題が発生する可能性があるため、十分な注意が必要です。

中小企業のM&Aの動向と今後

近年、後継者難を背景とした「事業承継型M&A」が増加していることは本連載の第1回でも触れましたが、一方でサブプライム問題に端を発する不動産関連会社の苦境と、原油高騰や消費低迷を背景としたさまざまな業界における「再生型M&A」の相談も増加傾向にあります。

業種別では、不動産や建築工事関連業のほかにも、原油高騰の影響が直接的に経営を圧迫しているプラスチック成形・加工会社や運送業、さらに、消費低迷や購買・生活習慣の変化を背景としたアパレル小売業や美容系サービス業、小規模飲食業の売却案件も多く見られます。

これら構造的な問題を主因としたケースでは、業界全体が落ち込む場合が多いため、同業者を買い手としたM&Aスキームの策定は困難であるが、多角化を目的とした異業種からの進出や、業界の勝ち組によるシェア拡大などの需要に対しては、事業譲渡をベースとしたM&Aスキームが有効でしょう。

一方、依然として深刻さを増している中小企業の「事業承継問題」については、政府も相続税法の見直しなどの対策を講じているが、M&A仲介・助言会社の上場などによるM&Aという手法の認知度向上もあり、今後もM&Aは「事業承継問題」の有効な解決策として、また、多角化や事業拡大のための一手法として引き続き増加していくものと考えられます。

終わりに

今回まで8回にわたって、中小企業のM&Aについてその目的や具体的手法、事例紹介を交えて解説をしてきました。一口に「M&A」といってもさまざまな目的や形態があることをご理解いただけたのではないかと思います。 また、特に中小企業におけるM&Aでは、買い手企業が譲り受けた会社(事業)や従業員一人ひとりをいかに生かして、自社の事業展開にプラスに活用していくかも成功のための大きなキーポイントです。 M&Aの意味や目的、プロセスを十分検討・理解した上で、「会社(事業)の引き受け手が、引き受けた会社(事業)を根気強く育てていく」という意識を持っていれば、M&Aを有効な経営戦略の一つとして活用していくことができるでしょう。

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