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2008/10/15いま注目の企業価値評価第10回:無形資産の評価方法

「今注目の企業価値評価」は今回で最後になります。今回は、近年経営上非常に重要視されている“無形資産”の評価について、簡単に説明します。

無形資産といえば、会計上の無形固定資産、すなわち特許権や商標権、電話加入権、借地権などがイメージしやすいと思います。会計での無形資産は、自然発生したものは認められず、M&Aなどの売買取引を通じて有償取得したもののみ、資産計上が認められています。近年では、国によって財務諸表への計上を促している場合もあります。

もちろん無形資産は上記の会計上のものだけでなく非常に多岐に渡っています。人、技術、組織、ネットワーク、顧客データ、ブランド、のれん、ノウハウ、ソフトウェアなど、さまざまなものがあります。これらの中には“知的資産”と呼ばれるものがあります。無形資産のほうが広い意味で捉えることが多く、“狭義の無形資産”が“知的資産”と考えれば良いでしょう。すなわち無形資産が“形のない資産”という意味であるのに対し、知的資産は、“形のない経営資源”のような感じです。

Ⅰ 無形資産の評価方法

無形資産の評価方法には、いくつかの考え方がありますが、以下では、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチの切り口で紹介します。どの方法を採用するかは、算出対象となる無形資産の種類や算出状況などによって決定します。また算出した無形資産をどのように考慮するかについても、状況に応じて取り決めます。なお、3つのアプローチについては、第二回〜第六回で企業価値の評価方法としても紹介していますので、参考にしてください。

1 コストアプローチ

コストアプローチは、評価対象の資産を再取得する、または再生産するという考え方に基づき算出されます。それらに必要なコストを当該無形資産の評価額とする方法で、ただコストを合計するだけでなく、インフレ要素や減価要素、マーケットの状況なども考慮する必要があります。インフレ要素については、物価指数を用いて基準日のコストに調整します。減価要素については、当該無形資産の効果が持続すると考えられる期間を仮定し、基準日から現在までの経過分を減額します。コストアプローチは、必要な情報の入手が困難で、コスト合計が当該無形資産の将来の収益を反映しているわけではないといった問題点もあります。

2 マーケットアプローチ

マーケットアプローチでは類似の無形資産の売買事例や、類似のライセンス契約のロイヤリティレートから算出します。例えば売買事例から算出する方法では、評価対象の無形資産と類似の無形資産を定性的、定量的に比較し、乗数(倍率)を決定し、当該無形資産価値を算出します。しかし無形資産のマーケットは皆無に等しいため、類似の事例を発見するのは非常に困難です。そのため類似のライセンス契約のロイヤリティなどから算出されるケースがよくあります。

ロイヤリティレートから算出する方法では、ロイヤリティ収入、すなわち将来キャッシュフローの現在価値合計を無形資産の価値とします。この方法は将来キャッシュフローの現在価値から価値を算出していることから、後述する「インカムアプローチ」に近い方法です。

3 インカムアプローチ

インカムアプローチは、評価対象の無形資産が将来生む出すキャッシュフローや利益の現在価値合計を、当該無形資産の価値とする方法です。

(1) 超過収益法

超過収益法は、実際収益から期待収益を控除したものを超過収益とし、超過収益を資本還元率で除したものを無形資産とする方法です。実際収益は、フリーキャッシュフローやNOPAT、標準経常利益などが使用され、期待収益は投下資本に期待収益率を乗じたものを使用します。投下資本には、株主資本に有利子負債を加えたものや、固定資産に運転資本を加えたものなどを使用し、当該無形資産は当然考慮しません(できません)。投下資本を算出する際は、できるだけ時価を使用します。時価の算出が困難な場合は、簡便に簿価を使用します。投下資本に期待収益率を乗じる場合は、できるだけ運転資本、有形資産、対象外無形資産などに分類し、資産毎に期待収益率を乗じていきます。これは資産によってリスクが異なるためです。簡便に算出する際は、期待収益率にはリスクフリーレートや全自己資本コスト、WACCなどを使用することがあります。キャッシュフローの将来予測年数は、当該無形資産の経済的使用年数、法的耐用年数、契約上の使用年数などを使用します。

なお標準経常利益とは、会社本来の収益力を示すために、財務諸表の各勘定科目の修正を行った後の経常利益のことです。具体的には、特別損益項目の控除、役員報酬の過大分や過小分の修正、交際費の使いすぎや実質役員報酬分の修正、減価償却費の適正金額への修正などを行います。また、地代家賃については、会社と社長の間で賃貸契約があれば、適正な地代家賃に修正します。

実際収益−期待収益(当該無形資産以外の投下資本×期待収益率)=超過収益

超過収益÷資本還元率=無形資産

※NOPAT : 税引き後営業利益

(2) 企業価値差額法

企業価値差額法は、第三回〜第六回で紹介した「マーケットアプローチ」や「インカムアプローチ」で事業価値を算出し、時価資産額を控除した額を無形資産とする方法です。事業価値から有形資産の時価価値、評価対象外の無形資産の時価価値、運転資本の時価価値を控除し算出します。これは既述の超過収益法に類似している点があります。超過収益法は期待収益を超過した収益分の現在価値を無形資産の価値と捉えています。それに対し企業価値差額法は、時価の資産価値を超過した分の価値が、無形資産と捉える考え方です。つまり、先に収益の差額を算出し、後で差額を現在価値に戻すのが超過収益法で、先にキャッシュフローの現在価値である事業価値を算出し、後で差額を算出するのが企業価値差額法です。

キャッシュフローの現在価値合計=事業価値

事業価値−時価資産(有形資産の時価+評価対象外の無形資産の時価+運転資本の時価)=無形資産

Ⅱ DCF法と無形資産

(第4回〜第6回で紹介した)DCF法では、無形資産が考慮されているかという質問をよく受けます。基本的には「考慮されている」と言えます。DCF法は、企業の将来収益(将来のキャッシュフローの現在価値の合計)から価値を算出する方法です。企業の生む収益から算出しているわけですから、当然無形資産の生む収益も含んでいます。従って無形資産を考慮していることになります。これを以下の例で簡単に説明します。

例えば、「ブランド力がある、老舗ののれんがある」というようなことですが、もし「すごいブランド力がある」というのであれば、そのブランド力によって当該企業の収益は良好なはずです。高級ブランド、例えばファッションのエルメスやルイ・ヴィトン、自動車のBMWやメルセデスベンツをイメージすれば分かりやすいと思います。これらは少々景気が悪くても、値段が高くても、その“ブランド力”によって高い収益を上げています。もし高い収益力もないのに、「すごいブランド力がある」というのであればおかしな話で、説得力がありません。ブランド力がすごいかどうかは顧客が判断するもので、顧客が「すごいブランド」と認めていないから、高い収益力がないのです。

また新しい技術のように、その技術やそれを基に作られた商品に対するマーケットの認識が現在はないため、収益には反映されていないが、今後認識され収益に反映されていくというのであれば、将来収益の予測数値にその分を反映させれば良いのです。

以上から、将来収益から価値を算出するDCF法は、無形資産の価値を考慮しているのです。しかし、無形資産は考慮されているものの、直接的に無形資産そのものを算出しているわけではありません。無形資産のみを算出するには、今回ご紹介している方法を使用することになります。

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