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2008/03/07いま注目の企業価値評価第8回:企業価値の向上策(2)〜財務の最適化〜

“Ⅰ 収益性の向上”は損益計算書の視点で、“Ⅱ 効率性の向上”は貸借対照表の左側、すなわち資産側、投資側の視点から企業価値の向上について見ました。今回は貸借対照表の右側、負債・資本側、調達側の視点で見てみます(今回の内容は主に株式公開企業向けです)。

Ⅲ 財務の最適化

“Ⅱ 効率性の向上”で貸借対照表の資産側を見ました。これは調達した資金の使途ですので、調達した資金の源泉を見ることも重要です。負債・資本側から見た企業価値向上策は“財務の最適化”で、これは“資金の源泉と使途のバランスを見ること”とも言えます。コーポレートファイナンスの理論では、このポイントとして“財務レバレッジ”や“負債の節税効果”というものがあります。レバレッジとは“てこ”のことで、財務レバレッジとは、“負債の利用による収益性や価値の向上のこと”や“小額の投資で多額の利益を得ること”です。以下の例で“財務レバレッジ”を見てみましょう。

1 財務レバレッジ

(例1)
A社、B社、C社の総資本は1,000億円であり、A社は全額株主資本、B社は総資本のうち250億円を借入で調達、C社は総資本のうち500億円を借入で調達しています。3社のROA(総資本利益率のことで、下記例では「営業利益/総資本×100」で算出しています)を10%、支払利息率を4%、税率を40%とし、その他の条件は考慮しないこととします。すると3社のROE(株主資本利益率のことで、下記例では「税引き後当期利益/純資産×100」で算出しています)は以下のようになります。

  A社 B社 C社
総資本 1,000 1,000 1,000
借入 0 250 500
純資産 1,000 750 500
自己資本比率 100% 75% 50%
営業利益 100 100 100
支払利息 0 10 20
経常利益 100 90 80
税金 40 36 32
税引き後利益 60 54 48
ROE 6% 7.2% 9.6%
総資本
A社
1,000
B社
1,000
C社
1,000
借入
A社
0
B社
250
C社
500
純資産
A社
1,000
B社
750
C社
500
自己資本比率
A社
100%
B社
75%
C社
50%
営業利益
A社
100
B社
100
C社
100
支払利息
A社
0
B社
10
C社
20
経常利益
A社
100
B社
90
C社
80
税金
A社
40
B社
36
C社
32
税引き後利益
A社
60
B社
54
C社
48
ROE
A社
6%
B社
7.2%
C社
9.6%

以上のようにROEだけを見てみるとC社がもっとも高くなりました。どのようなケースにおいても例1のような結果、すなわち借入が多いほどROEは高くなるのでしょうか。

(例2)
景気が悪化するとして、ROAを3%にしてみるとどうなるでしょうか。

  A社 B社 C社
総資本 1,000 1,000 1,000
借入 0 250 500
純資産 1,000 750 500
自己資本比率 100% 75% 50%
営業利益 30 30 30
支払利息 0 10 20
経常利益 30 20 10
税金 12 8 4
税引き後利益 18 12 6
ROE 1.8% 1.6% 1.2%
総資本
A社
1,000
B社
1,000
C社
1,000
借入
A社
0
B社
250
C社
500
純資産
A社
1,000
B社
750
C社
500
自己資本比率
A社
100%
B社
75%
C社
50%
営業利益
A社
30
B社
30
C社
30
支払利息
A社
0
B社
10
C社
20
経常利益
A社
30
B社
20
C社
10
税金
A社
12
B社
8
C社
4
税引き後利益
A社
18
B社
12
C社
6
ROE
A社
1.8%
B社
1.6%
C社
1.2%

例2ではA社のROEがもっとも高くなることが分かりました。なぜ例1とは逆のパターンになったのでしょうか。これを次の式で説明します。

企業価値の向上策

本式から、ROA>支払利息率であれば、有利子負債を大きくすればするほどROEが高まることが分かります。逆にROA<支払利息率であれば、有利子負債を大きくすればするほどROEは小さくなります。

2 負債の節税効果

有利子負債の支払利息は税法上損金算入されます。従って支払利息に税率を乗じた分、税金を支払わなくてすむわけです。これを“負債の節税効果”と呼びます。節税効果を以下の例で見てみます。

(例3)
Z社とX社はまったく同じ資産と事業内容で、総資産、営業利益は2社ともに2,000億円、300億円、Z社の期待収益率は15%です。Z社は全て株主資本で構成されていますが、X社は、借入を1,000億円(支払利息率8%)しています。両社の企業価値はどうなるでしょうか?なお法人税率は40%とします。

  Z社 X社
総資本 2,000 2,000
借入 0 1,000
営業利益 300 300
支払利息 0 80
経常利益 300 220
税金 120 88
税引き後利益 180 132
資金提供者へのCF 180 212(132+80)
負債の節税効果 32(212-180)
総資本
Z社
2,000
X社
2,000
借入
Z社
0
X社
1,000
営業利益
Z社
300
X社
300
支払利息
Z社
0
X社
80
経常利益
Z社
300
X社
220
税金
Z社
120
X社
88
税引き後利益
Z社
180
X社
132
資金提供者へのCF
Z社
180
X社
212(132+80)
負債の節税効果
Z社
X社
32(212-180)

Z社の企業価値は、 180(資金提供者へのCF)÷0.15(Z社の期待収益率)=1,200億円 X社の企業価値は、負債の節税効果の現在価値の分だけZ社より高くなるため1,200(Z社の企業価値)+32÷0.08(節税効果の現在価値)=1,600億円となります。負債のあるX社のほうが、Z社の企業価値より高くなりました。

例1〜例3のように有利子負債が多いほうが、収益性や企業価値が高まる場合があります。繰り返しになりますが、これを“財務レバレッジ”と言います。しかしこれでは「有利子負債が大きいほど良い」ということにもなりかねません。もちろん有利子負債が大きいほど良いということではありません。例2で示したように、業績によってはROEが悪化する場合もあります。また有利子負債が過剰だと“財務リスク”が大きくなります。この“財務リスク”は“倒産リスク”に近い意味と捉えて良いでしょう。財務リスクが大きくなると、有利子負債の出し手、株式の出資者が要求するリターンもその分高くなり、資本コストが上昇し価値が下落してしまいます。有利子負債はうまく使いこなせば便利なものですが、過剰では意味がありません。

株式公開企業では“財務の最適化”の理論を応用するケースが少しずつ多くなってきました。例えば、余剰資金が多いため企業価値を毀損しており、余剰資金を成長分野への投資や株主に還元するといったケースです。また買収企業の資産や価値を担保に借入を利用して、自己資金より大きな価値の企業の買収を行うLBO(レバレッジドバイアウト)もそのひとつです。

一般的に中小企業は、融資依存度が高く有利子負債過剰なケースが多くあります。また株主からのプレッシャーも公開企業と比較してゆるいものです。従って有利子負債が過剰な企業の場合は、“財務レバレッジ”を意識するのではなく、出来るだけ有利子負債を圧縮し株主資本を増加させるべきですし、現実的です。それには「Ⅰ 収益性を上げる」、「Ⅱ 効率性を上げる」で明記したことを実行することが重要です。

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