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2012/09/07IFRS実務対応 1 最新情報第22回:国際監査基準の動向等

今回は、会計基準とならんで、国際化・共通化の進む監査基準を取り上げたいと思います。

「監査基準」は監査実施者である監査法人・公認会計士側にとってのルールが中心となりますが、監査の当事者には財務諸表作成者である企業(被監査会社)も含まれますので、その影響は企業にも及びます。
わが国でも、2012年4月1日以降開始事業年度の監査より、国際監査基準(ISA)に準拠した、新しい監査基準委員会報告書(*1)が適用になっています。今回のメールマガジンでは、まず、これらの監査基準委員会報告書の改訂の背景や特徴、そして財務諸表作成者である企業に及ぼす影響について概観したいと思います。
また、わが国における実務での採用という意味では少々先になるかもしれませんが、海外(アメリカ・EU)では、法定監査(特に上場会社監査)のルールに関する大胆な見直しが現在も議論されています。ここで議論されている事項がわが国の実務にも導入された場合には、監査実務に甚大な影響をもたらすことになりますので、その動向・概略をご紹介したいと思います。

(*1)後発事象・監査報告書に関する基準等は2012年3月期から先行適用がなされていました。

日本の監査基準の改訂について‐改訂の背景等

それではまず、わが国において、監査基準の国際化・共通化が必要となった背景について考えてみましょう。
国際監査基準(ISA)の設定主体は、国際会計士連盟(IFAC)の国際監査・保証基準審議会(IAASB)ですが、IAASBは2004年に世界各国での国際監査基準の適切な運用をめざし、既存のISAの全面的な改正作業を行ってきました(いわゆる「クラリティ・プロジェクト」)。現在ではイギリスを含むEUの多くの国、オーストラリア・カナダ等でクラリティ版ISAが採用されています。
翻って、日本企業の発行する財務諸表が海外からも信頼されるためには、会計基準だけではなく、監査(基準)も海外の投資家から信頼されるものである必要があります。
この点を踏まえ、わが国の監査基準も、リスク・アプローチの導入や、不正対応手続の導入、ゴーイング・コンサーン問題への対処などこれまで国際的な監査基準(*2)の動向を踏まえた改正がなされてきました。
2007年以降、日本公認会計士協会は、IAASBが公表したクラリティ版の国際監査基準を参考に、既存の監査基準委員会報告書の改正を行い、2011年12月に最終報告書を公表するに至りました(本稿では、以下「クラリティ版報告書」とします)

(*2)アメリカの監査基準SAS及び国際監査基準ISAを指しています。かつてはわが国の監査実務指針はアメリカのSASを参考にすることも多かったのですが、2000年代中盤以降はSASよりもISAを参照することが多くなっています。

クラリティ版報告書の特徴

クラリティ版報告書の特徴としては以下の点が挙げられます。

まず、各報告書の記載が、目的・定義・要求事項・適用指針(付録含む)という統一的な体系をとっている点です。これはよくみるとIFRSの基準と似通った記載体系であることに気が付くと思います。

また、クラリティ版報告書の基になっている、ISAは、特定の国・地域での監査を前提としていないため、クラリティ版報告書報告書の記述も、いわゆる「原則主義」による記述を中心としています。これはまた、J-GAAPだけでなく、IFRSやUSGAAPあるいは業種特有の会計基準に基づいて作成された財務諸表の監査においてもこの監査基準を適用できるよう、特定の財務報告の枠組みを前提としない記述となっていることとも整合しています。

さらにリスク・アプローチの徹底として、グループ監査に関する体系的なリスク・アプローチの指針の導入、増加する会計上の見積り項目や公正価値評価の監査におけるリスク・アプローチの精緻化、関連当事者との取引についてのリスク・リスクアプローチの導入といった点が盛り込まれています。

企業(被監査会社)への影響

さて、クラリティ版報告書の適用により、企業(被監査会社)にはどのような影響があるのでしょうか?
冒頭でも述べていますが、クラリティ版報告書を含む「監査基準」は監査実施者である監査法人・公認会計士側にとってのルールが中心ですが、監査実施のルールが変われば、監査対応にあたる企業の対応も変わってきます。
例えば、クラリティ版報告書の目玉とされている監査基準委員会報告書600「グループ監査」の適用により、特に連結財務諸表の監査のあり方(「重要な構成単位」の識別や「構成単位の監査人とのコミュニケーションなど」)が従来と変更になることが想定されます。
また、監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」により、従来にも増して、企業と監査人との双方向のコミュニケーションが要求される点や、見積り項目(監査基準委員会報告書540「会計上の見積りの監査」参照)、関連当事者取引(監査基準委員会報告書550「関連当事者」参照)等に関して、企業側の説明・立証事項の増加が想定されます。
なお、監査法人によってはこのようなISAの監査アプローチを従前から監査手法に取り入れている場合もありますので、そのような場合には、監査対応での大幅な変更はないと考えられます。しかし、そうではない場合には、従前とは大きく異なる監査対応が求められることも想定されますので、その影響について監査人と十分な協議を行っておく必要があります。

監査に関する海外の動向

さて、ここからは今後の監査ルールに関する国際的な動向について概観したいと思います。現在、アメリカ(公開会社会計監査委員会(PCAOB))及びユーロ圏(欧州委員会(EC)では、会計監査制度に関する様々な見直し・提案がなされています。現在議論されている主な事項には次のような事項があります(*3)。

これらのうち、監査法人(法人自体)のローテーション制度の導入(監査法人の入札制度含む)及び監査報告書の改訂について、その概略をご紹介したいと思います。

(*3)ECでの議論の初期段階では、監査法人に対する共同監査の義務付け、監査報酬の支払いを当局が行う、過去の監査法人の合併の解消という提案もなされていましたが、協議の過程で却下されています。

監査法人のローテーション制度について(監査法人の入札制度含む)

アメリカの公開会社会計監査委員会(PCAOB)は2011年8月26日付で、法定監査人の独立性及び監査法人のローテーションに関するコンセプト・リリースを公表しています。この中では、監査法人の連続監査期間を10年で制限し、監査法人自体のローテーション制度を導入することが提案(*4)されています。
また、イギリスの財務報告評議会(FRC)では、監査法人の入札制度についても議論がなされています。これは、企業による監査人の選定プロセスの透明化の一環として位置づけられるものですが、ここでは、一部の上場企業については、少なくとも10年に1度は監査契約を公開入札することの提案がなされています。仮に公開入札を行わないのであれば、その理由を株主に対して説明することを求めるとしています(いわゆる、comply or explainの発想)。

(*4)欧州委員会(EC)による規制案(2011年11月30日)においては、ローテーション期間は6年とされています。

監査報告書の改訂

PCAOBは、2011年6月21日付で、監査報告書の改訂に関するコンセプト・リリースを公表しています。 この中で提案されている事項のうち、現行の実務からみて大きな変更点となるものについていくつかご紹介します。

1.監査人の検討と分析の記載(Auditor’s Discussion and Analysis)を行う。

ここでは、監査に関する情報として、監査において識別した監査リスク、実施した監査手続、企業の財務諸表に関する監査人の見解等を記載すべきとの提案がされています。
監査報告書においては、(1)監査手続が膨大で記載が不可能、(2)監査手続内容を財務諸表利用者が理解できない、(3)監査人の責任の不明確化という理由から監査人が実施した監査手続は記載しないというのがこれまでの理論・実務ですので、大きな変更といえます。また、企業の財務諸表に関する監査人の見解については、「困難又は議論のあった事項(結果的に財務諸表に反映されたものを含む)」を記載するものとされています。監査人の情報提供機能を副次的なものと位置付ける現行の監査基準・監査実務や監査人の守秘義務という観点から注目すべき点です。

2.財務諸表外のその他の情報に対する監査人の保証を求める。

ここでは、年次決算書に含まれる財務諸表以外の情報(MD&A:Management Discussion and AnalysisやNon-GAAP情報)や決算発表(earnings release)に対しても監査人が保証を提供することが求められています。
これは要するに有価証券報告書の経理の状況以外の記載や、決算短信にも監査人としての保証を要求するもので、監査人の責任範囲を格段に拡大する提案となっています。

なお、監査報告書様式の改訂については日本でも議論が行われていますが、国際的な動向が不明確な中での対応は時期尚早という意見もあり、直ぐに上記のような改訂がなされることはないものと考えられます。

【参考文献】

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