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2010/09/14IFRS実務対応 1 最新情報第5回:非上場株式の評価(2)〜「公正価値」とは何か?〜

前回「非上場株式の評価(その1)」では、IFRSを適用した場合、非上場株式は公正価値で測定しなければならず、取得原価=公正価値とみなせるケースは限定的であることを説明しました。これを受けて、今回は、非上場株式に関して、公正価値の定義、測定の前提、具体的な測定方法、関連する開示を説明します。

J-「公正価値」とは何か?

IASB(国際会計基準審議会)は、公開草案「公正価値測定」(ED/2009/5)をリリースしています。2010年3月までには正式に発行される予定ですので、少し先回りしておきましょう。

ED/2009/5では、公正価値を「価格が直接観察可能なものであろうと、評価技法を用いて見積られるものであろうと、測定日に最も有利な市場において資産を売却することにより受領する、又は負債を移転することにより支払うであろう価格(出口価格)」と定義しています。非上場株式については、その価格を直接観察できるのはまれです。したがって、非上場株式の公正価値は、評価技法を用いて見積もることが一般的です。

非上場株式は金融資産 → 単独で評価する

次に、非上場株式の公正価値測定の前提を確認しておきましょう。IFRSでは(そしてJ-GAAPも)非上場株式を金融資産に分類します。また、ED/2009/5 第24項には、「企業は、金融資産の公正価値を測定するときに交換の評価前提を用いる。」とあります。したがって、非上場株式の評価は「交換」を評価の前提とするわけです。

この「交換の評価前提」(*1)はで「資産が基本的に単独で、市場参加者に最大限の価値を提供する場合の公正価値を算定するための基礎」と定義しています(ED/2009/5 下線は筆者)。このため、非上場株式は、その他の資産や負債と組み合わせて評価することは許されず、単独で評価しなければならないことが読み取れます。

わが国では、安定的な取引関係の継続など、事業上の理由から非上場株式を保有する企業も多いと思われます。このため、経営者は、非上場株式への投資はその他の営業用資産を一体として機能してキャッシュ・フローを生み出すもの、といった感覚を持っているかもしれません。しかし、非上場株式は金融資産であり、その他の営業資産と組み合わせて評価することは許されないのです。

評価技法のタイプ

ED/2009/5は、公正価値を見積る評価技法を3つのアプローチに分類しています。非上場株式の評価を想定して、それぞれのアプローチを説明しましょう。

1. マーケット・アプローチ

非上場株式の過去の取引価格や、類似上場企業の株価を利用するアプローチです。

代表的な手法であるマルチプル法では、類似上場企業の株価純利益倍率(PER)、株価EBIT倍率、株価純資産倍率(PBR)などの倍率に、非上場企業の対応する財務指標(純利益・EBIT・純資産など)を乗じて、非上場企業の株価を推計します。

たとえば、非上場のA社株式の株価をマルチプル法で推計するとしましょう。A社の類似上場企業(B社)の株価純利益倍率(株価/1株あたり純利益)が10倍であり、A社の当期純利益が200百万円であるとします。この場合、A社の株主価値は、A社の当期純利益(200百万円)にB社の株価純利益倍率(10倍)を乗じて、2,000百万円と推計されます。マルチプル法では、参照する類似企業の範囲を決定することが重要になります。

2. インカム・アプローチ

将来のキャッシュ・フローや利益など、将来のインカム(フロー変数)の流列を適切な資本コストで割り引いて、公正価値の推定値を得る方法です。このアプローチには、フリー・キャッシュ・フロー法、残余利益法、配当還元法、利益還元法、リアルオプション法などの技法があります。ここでは、代表的な方法であるFCF法と残余利益法を簡単に説明しましょう。

いずれの方法でも、将来のフロー変数を予測することと、適切な資本コストを推計することが重要です。

3. コスト・アプローチ

資産の用役能力の再調達原価を反映するアプローチです(*2)。再調達原価とは、買手の購入コストから劣化分を差し引いた金額です。劣化には、物理的劣化や機能的劣化の他に経済的劣化も含まれ、財務報告や税務上の減価償却より広範なものになります。コスト・アプローチに含まれる主な技法には、簿価純資産法、修正簿価純資産法があります。

複数の評価技法の利用

ED/2009/5では、複数の評価技法を利用することが適切な場合には、各評価技法による結果を評価して、ウェイト付けすべきことを求めています(39項参照)。最近の取引価格が入手できない場合など、評価技法を一つに限定できないケースもあります。この場合、非上場株式については、複数の技法による結果を吟味した総合評価が、最終的に測定されるべき公正価値となると考えられます。

開示(注記)にも注意が必要

非上場株式について取り組むべき問題は、貸借対照表(本表)での公正価値測定に留まりません。IFRS7「金融商品-開示」は、評価技法への重要なインプットに応じて公正価値ヒエラルキーを設定し、このうち最も低いヒエラルキーの公正価値測定(レベル3)については、残高調整表や感応度分析など特に詳細な開示(注記)を求めています。したがって、非上場株式の公正価値測定レベルと各レベルの要開示項目を理解し、実務負担を早期に把握しておくことも重要です。

非上場株式の公正価値測定について、レベルをどのように分類するのか、いかなる開示が必要とされるのかは、次回「非上場株式の評価(その3)」で解説します。

(*1)ちなみに、「交換の評価前提」のほかに、他の資産及び負債と組み合わせグループとして使用することを評価の前提とする「使用の評価前提」もありますが、適用対象は主に営業用資産が想定されており、金融資産に適用する余地はありません。

(*2)一見すると、再調達価格はいわゆる入口価格であり、出口価格として定義されている公正価値の測定アプローチに登場するのは、そぐわないようにも思えます。しかし、同一の市場では、買手の入口価格(再調達原価)は売手から見れば出口価格であるとの見解から、公正価値測定アプローチの一つに加えられています。

非上場株式の評価(その2)まとめ

1. 公正価値とは?

2. 測定の前提

3. 評価技法のタイプ

複数の評価技法が併用されるケースも多い

4. 開示(注記)にも注意が必要

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