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2010/08/03IFRS実務対応 1 最新情報第3回:イギリスにおけるIFRS導入 〜トップダウン方式とボトムアップ方式〜

今回は、イギリスにおけるIFRSの導入とその後の経過や最近の会計トピックについてイギリスに駐在されているBig4の会計士にお話を伺いました。お話を伺った会計士によると、IFRS導入から5年が経過しているイギリスでは最近、連結財務諸表の作成方法としての「トップダウン方式か、ボトムアップ方式か?」ということがあらためて議論がなされているということでした。そこで、今回は、イギリスでの取材を基にIFRSに基づく連結財務諸表の作成方法と個別財務諸表のあり方を考えます。

一般にIFRSに基づく連結財務諸表の作成方法

一般にIFRSに基づく連結財務諸表の作成方法には、在外子会社を含めた各社が各地域のローカル会計基準で個別の財務諸表を作成し、親会社でIFRSへの(連結)修正処理を行うというトップダウン方式と、各社が個別財務諸表の段階からIFRSベースで財務諸表を作成するというボトムアップ方式の2種類の方法があります。

(1) トップダウン方式(注:下記の図ではローカル基準を日本基準と仮定している)

トップダウン方式

(2) ボトムアップ方式

ボトムアップ方式

この「トップダウンか、ボトムアップか?」というテーマは企業の会計システム全体に大きな影響を及ぼすため、わが国でも実務上頻繁に議論がなされますが、上記の2つの方法のうち大手商社等で海外においてIFRSを先行適用している企業では今のところ(1)のトップダウン方式が主流です。

確かに、ボトムアップ方式の方がIFRSに基づく連結財務諸表の作成にあたって親会社の実務上の負担が少なく、グループ全体としての決算作業は楽になります。しかしながら、各国の個別財務諸表(個別決算書)はローカル会計基準での作成が義務付けられている等の理由で単体財務諸表をIFRSベースで作成していない国も多く、また、税務上の課税所得計算上、個別財務諸表をIFRSベースで作成すると、税務調整が今まで以上に煩雑になることも想定されるため、現時点ではトップダウン方式が主流となっています。(より現実的には中小企業では、人的な対応が追いつかないという理由があります)

また、トップダウン方式が主流となっている理由として、IFRSに基づく開示の直前期までは開示をローカル会計基準で行うことが必要だったということがあります。つまり帳簿段階からIFRSを適用するボトムアップ方式においては財務諸表作成のため、一定期間二重帳簿を保持することが不可避になってしまうのです。

しかし、2005年からIFRSが強制適用となっているイギリスでは、強制適用からおよそ5年が経過し、このトップダウン方式が優勢な状況に変化が起こりつつあります。
IFRSの強制適用後、イギリスでは個別財務諸表および税務申告にもIFRSを選択利用できるように制度設計が変更されました。このことから、今回お話を伺った会計士によると、日本大手商社等の在外子会社は個別財務諸表の段階からIFRSに基づく財務諸表を作成するボトムアップ方式を近々試験的に開始するようです。

現在日本でもIFRSに基づく連結財務諸表と個別財務諸表のあり方について「連結先行か連単分離か、あるいは連単一致か」の議論がなされています。
これまでわが国では、金融商品取引法(証券取引法)・会社法(商法)・税法が三位一体として機能する「トライアングル体制」によって会計制度が運用されてきました。しかし、税法あるいは会社法との関わりを切断したIFRSの導入はわが国の会計制度のあり方に再考を迫るものです。
またこの問題には、金融庁だけでなく、経済産業省や中小企業庁さらには国税庁といった各省庁の思惑が交錯し、制度設計は混迷を深めています。

今回、イギリスのIFRS導入の現場のお話を伺ってみて、IFRSの導入は粛々と進む一方、個別財務諸表や税法といった会計制度の運用は思ったよりも柔軟な対応がなされていることを感じました。イギリスの例からも明らかなように、IFRSは導入すればそれで完結ということではなく、会計制度として継続的に、そして企業や社会の実情に応じて弾力的に応じて運用される必要があります。

グローバルに信頼される財務報告を行い日本へと世界の投資を呼び込むために、また、財務諸表利用者である投資家への情報提供のための会計基準というIFRS本来の趣旨を没却しないためにも、イギリスをはじめとしたEU諸国の事例に学び、各省庁の利害を超えた議論がなされる必要があるように思われます。

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