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2012/09/27IFRS実務対応 1 最新情報第23回:日本・米国のIFRSへの取り組み

今回は、IFRS最新情報としてわが国と米国のIFRSへの取り組みについて取り上げます。

具体的には、わが国の企業会計審議会が公表した「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方についてのこれまでの議論(中間的論点整理)」(2012年7月公表)と米国SEC主任会計室スタッフが公表した「最終スタッフ報告書」(“Work Plan for the consideration of Incorporating International Financial Reporting Standards into the Financial Reporting System for U.S. Issuers”)(2012年7月公表)を読み解くことで、両国が今、IFRSに対してどのような姿勢を示しているかを考えてみたいと思います。

日本の対応‐金融庁企業会計審議会

では、最初に2012年7月に金融庁企業会計審議会が公表した「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方についてのこれまでの議論(中間的論点整理)」(以下「論点整理」とします。)を概観してみましょう。
この論点整理は序文(総括)を含めて大きく以下の8つのパートに分けられています。

はじめに−総括

  1. 1会計基準の国際的調和
  2. 2国際会計基準の適用(経済活動に資する会計、会計基準における基本的概念、わが国資本市場のあり方、その他)
  3. 3わが国としての意見発信
  4. 4単体の取扱い
  5. 5中小企業等への対応
  6. 6任意適用
  7. 7原則主義への対応等(原則主義と比較可能性、作成者に対する要請、監査人に対する要請、関係者間の連携、当局に対する要請)

以下では、この8つのパートの中で特に重要と考えられる点を概観してみましょう。

はじめに−総括

ここでは、「国際会計基準のあり方について、・・・最もふさわしい対応を検討すべきである。」とされており今後のわが国におけるIFRSへの取り組みは「IFRSをどう適用するか?」が中心となることが述べられています。つまりこれは、「IFRSを適用するか否か?」の問題は既に決着済みであるとの理解を示しているといえます。

2. 国際会計基準の適用

ここでは、諸外国が各国の制度や経済状況を踏まえた多様な対応がなされていることを踏まえて、わが国においても制度や経済状況などに最もふさわしい対応の検討が行われるべきであると述べられています。具体的にはIASBの日本からの意見発信に対する対応を踏まえて実務的に検討すべきとされており、今後のIFRS対応においては会計実務家が中心となって取り組むことが示されています。
なお、この項においては「市場開設者において、IFRSを適用する市場と日本基準を適用する市場とを区分することについて検討してほしいとの要望が聞かれた。」という記述が盛り込まれています。

4./5. 単体の取扱い/中小企業等への対応

単体財務諸表の開示及び中小企業等へのIFRSの適用について、論点整理の中では一定の結論を示しています。
まずいわゆる連単分離の問題については、「既に連結での米国基準やIFRSの使用が許容されているように、・・・いわゆる連単分離が許容されることが現実的であると考えられる。」としています。
次に、単体開示については、「会社法の開示をも活用して、企業の負担軽減に向け・・・検討を行うことが適当である。」とし、単体開示の省略ということも念頭において今後の検討を行うべきとの方向性を示しています。
さらに、非上場企業については(2012年2月に中小企業庁から、「中小企業の会計に関する基本要領」が公表されたこともあり)「IFRSの影響を受けないようにするというこれまでの方針を維持することが適当である。」としています(*1)。

(*1)中小会計要領の中では「本要領は、安定的に継続利用可能なものとする観点から国際会計基準の影響を受けないものとする」と明記されています。

6. 任意適用

ここでは、IFRSの任意適用(*2)について「現行制度の下で、IFRS適用の実例を積み上げるとともに、・・・どのような点が具体的にメリット・デメリットとなるのかを十分に把握」と述べられており、現行制度に基づくIFRSの任意適用を推進しているように思えます。また、IFRSの適用について、わが国で認められているのはいわゆる「ピュアIFRS」の任意適用であり、米国が検討しているインコーポレーション方式やEUにおけるカーブアウト(適用除外)といった適用方法は念頭に置いていないことが読み取れます。

(*2)わが国企業のIFRS任意適用について、2013年3月期にはアンリツ・SBIホールディングス・デイー・エヌ・エー(DeNA)がIFRSを適用し、第一四半期報告書を既に公表しています。現時点でIFRSを任意適用しているのは、上記の3社を含め8社となりました。また、日本経済新聞によると、2014年3月期までにIFRSの導入を予定している企業は16社あり、大手商社では三菱商事・三井物産等が導入を予定し、製薬大手では武田薬品工業、エーザイ、第一三共が導入を予定しているとされています(2012年6月19日朝刊)。

7. 原則主義への対応

ここでは、各会計関係者(財務諸表作成者(企業)、監査人、規制当局)における実務的な取り組みについて述べられていますが、特に注目したいのは「当局に対する要請」として「必要に応じたプリクリアランス(筆者注:事前質問)制度の導入や、執行上のガイダンスの策定など、適切な執行を確保するための方策等について・・・検討を深めていくことが必要であると考えられる。」として、IFRS適用について今まで以上に当局が関与するという姿勢を示しているように思えます。
以上をまとめると、(1)IFRSの導入方式は(カーブアウト等を行わない)「ピュアIFRS適用」を想定していること、(2)いわゆる「連単分離」を許容するとしている点、(3)当局がIFRSの適用・解釈に積極的に関与する姿勢を示している点が特に重要な点と言えます。

米国の対応‐SEC

では一方の米国の対応についても「最終スタッフ報告書」(以下「スタッフレポート」とします)を概観しながら考えてみましょう。
まずこのスタッフレポートは「最終報告書」と名打っているにも関わらず、結論の具体性が乏しいという印象を受けます。
スタッフレポートでは、ほとんどの投資家が企業にIFRSの早期適用を認めるべきではないという点についてほとんどの投資家が同意していると述べています。また、米国の会計基準としてIFRSをフルアドプションすることは資本市場関係者に支持されておらず、US-GAAPにIFRSを組み込む(いわゆるIncorporation)方式が多様な側面から支持されていることが述べられています。

このスタッフレポートにおいて、IFRSに対する批判は主として以下の点にあります。  まず、スタッフレポートでは、IFRSの会計基準としての問題として、特定の分野(共通支配下取引等)や特定の業種(公共事業・保険)についての十分な会計基準がないことや、減損会計・棚卸資産・研究開発費といった分野に関して根本的な差異があることを挙げています。
さらに、IFRSの適用に関して、フルアドプションは世界各国が使用している方法と整合しない点をという点を挙げています。これはEUにおいては一部の基準をカーブアウト(適用除外)していることや、中国においていわゆるChina-IFRS(*3)というローカライズされたIFRSが用いられている点を指しています。

全体としてこのスタッフレポートでは、IFRSが概ね高品質の会計基準であると認識されていることを示唆しています(*4)が、上述した@米国基準との根本的な差異が残る領域の存在、(2)IFRSの適用に関する世界各国の状況の不整合の存在という点から、「IFRSの早期適用を認めるべきではない」という点に至っていると考えられます。

(*3)中国の会計事情については「最新情報 中国の会計事情 」で取り上げています。また、今後の連載でも再度取り上げる予定です。
(*4)そうであるからこそ、米国基準にIFRSを取り込む(Incorporation)という発想が生まれてきたのだと思います。

まとめ‐日米の動向と今後のわが国企業の取り組み

さて、以上の日米両国のIFRSへの取り組み状況をみると、わが国においては、2011年6月のいわゆる自見発言以降、IFRSの導入・適用は先送りになっているとはいえ、金融庁がIFRS導入の意思決定に向けて着実に歩みを進めようとしています。他方、米国においてはIFRSの早期適用を認めないなど、意思決定前で足踏みしている状況で、米国の方針に日本が歩調を合わせるという状況にはないように見受けられます。

従って、わが国企業の対応としては引き続きIFRSの適用に向けた情報収集や人材の育成といった準備を着実に進める必要がありますし、特にこのメールマガジンでも再三取り上げている「注記開示」については、開示情報の増大(自社の強みを投資家にアピールできるチャンスとも言えるのですが)という課題は避けて通れません。

この点については、IFRSを任意適用している企業の開示例(ひとつのゴール)を分析し、自社がIFRSを適用した場合には、どのような注記となるのか、またその注記を作成するには社内外からどのような情報収集体制を確立すればよいのかを具体的にイメージすることが重要になります。

【参考文献】

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