レポート

猛暑に強い会社をつくる-暑さを味方に変える経営の備え-

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

暑さが、企業活動を大きく動かす季節になりました。街では冷たい飲料に手が伸び、家庭ではエアコンの稼働時間が長くなり、労働現場では冷却グッズや空調設備の需要が高まります。猛暑は、人の行動を変え、その先にある商品やサービスの動きも変えていきます。帝国データバンクの調査でも、2024年の猛暑で売り上げが伸びた商品・サービスがある企業は11.4%、小売では30.5%に達しました[1]。暑さは確かに、企業にとって需要創出のきっかけになります。

 売り上げを伸ばす暑さ、採算を削る暑さ

しかし、猛暑は「売れるから良い」と単純には言えません。あまりの暑さに外出を控える人が増えれば、店舗の客足は鈍ります。屋外作業では効率が落ち、配送や建設の現場では休憩時間を増やさざるを得ません。冷房の使用が増えれば、当然ながら電気代も上がります。猛暑は売り上げを伸ばす一方で、採算をじわじわ削る要因にもなるのです。家計でも、冷たい飲料や総菜、電気代などの支出は増えますが、それは楽しみの消費というより、暑さをしのぐための「防衛的支出」に近い面があります。

 企業経営で特に重要なのは、熱中症対策が「気配り」や「福利厚生」の段階を超え、明確な「安全管理」になっていることです。2025年6月1日から、WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間超の作業が見込まれる場合、事業者には報告体制の整備、対応手順の作成、関係者への周知が義務付けられました。暑さへの対応は、もはや現場任せでは済まされない時代に入っています。

 とはいえ、現場の備えはまだ十分とは言い切れません。企業の95.5%が何らかの熱中症対策を実施・検討している一方で、報告体制の構築は15.2%、緊急連絡先の周知は13.0%にとどまります[2]。クールビズや水分補給品の支給は進んでも、「体調不良者が出た時に誰が気づき、誰へ連絡し、どの手順で対応するか」まで決めている企業は多くありません。ここに、今年の夏の経営課題があります。

 さらに、猛暑は電力コストの問題とも切り離せません。エアコンが売れ、空調工事が増えれば景気を下支えする面はあります。しかし、その裏側で、企業自身も冷房費や燃料費の上昇に直面します。2026年6月の景気動向調査では、エアコンなどの季節需要が景気を下支えする一方で、円安やエネルギー高が採算を圧迫していると捉えています[3]。企業が政府に望む政策でも「エネルギー安定供給の確保」が45.0%で最多となり、「電気・ガス料金補助の継続・拡充」も34.0%に上りました[4]。

 中小企業に求められる“備え”

では、企業は何から始めればよいのでしょうか。国や自治体、業界団体の補助金・助成制度は、空調設備、省エネ機器、遮熱対策、労働環境改善などに活用できる可能性があります。ただし、制度は待っていても届きません。商工会議所や業界団体、自治体のメールマガジン、金融機関からの情報提供を活用し、自社に合う支援策を自ら探しに行く姿勢が大切です。

中小企業にとって現実的なのは、大がかりな投資を急ぐことだけではありません。まずはWBGTの確認、休憩と水分補給のルール化、緊急連絡網の整備、空調・遮熱設備の点検、補助金情報の収集から始めることです。小さな備えでも、現場が迷わず動ける仕組みになっていれば、従業員の安全と事業の継続を守る力になります。

猛暑対策は、もはや「暑くなってから考える」ものではありません。人を守り、稼働を守り、利益を守るための経営インフラです。今年の夏、社長が最初に見るべきなのは温度計だけではありません。現場の声と、電気代と、緊急時の動線です。暑さに強い会社は、案外、こうした地味な準備からできていくのではないでしょうか。


[1] 帝国データバンク「<緊急調査>猛暑に関する企業の動向アンケート」(2024年8月15日発表)
[2] 帝国データバンク「熱中症対策に関する企業の実態アンケート」(2025年5月21日発表)
[3] 帝国データバンク「TDB景気動向調査2026年6月度」(2026年7月3日発表)
[4] 帝国データバンク「エネルギー価格上昇に対する企業の政策要望調査」(2026年7月6日発表)

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