Episode File 04企業の 架け橋

九州の支店に所属する箕輪は、調査員歴10年のベテラン調査員だ。大学を卒業してから地元の金融機関に3年勤め、その後帝国データバンクに入社した。調査がうまくいかずに悩んだ時期もあったが、今では箕輪を頼って経営の相談をしてくれる経営者がたくさんいる。
「箕輪さん、電話ですよ。」報告書を書いていると一本の電話が入った。「はい、箕輪です。」「箕輪くん?コタニ書房の小谷です。」コタニ書房は、箕輪が帝国データバンクに入社して初めて調査を担当した書店だ。自分の親と同年代の社長は、創業当時は新しかったマンガ専門の書店を一代で創り上げた。新人時代、箕輪が要領を得ない取材をしていると、「そんなことも知らんのか!」と言いながらも業界知識や財務知識についても教えてくれた懐の深い社長だ。
「実はこのたび店を畳むことにしたよ。」箕輪は内心やっぱりと思った。県内に5つの店舗を展開しているコタニ書房も、近年の古本チェーン店の台頭により、売り上げは低下の一途をたどっていた。「そうでしたか・・・残念です。」「箕輪くんには本当にお世話になったんで、誰よりも早く報告しなくちゃと思って。」涙まじりの小谷の声を聞いていると、箕輪の目にも涙が浮かんだ。「私こそ本当にお世話になり・・・小谷さんのおかげで調査員として一皮むけたと思っています。」電話を切り、箕輪は熱い息を吐いた。
翌日、箕輪はあるベンチャー企業の調査をしていた。「実は今度マンガ喫茶を始めようと思うんだけど、それだけのマンガをそろえるとなると費用がすごいことになっちゃって。」社長の言葉に箕輪はハッとした。「ちょっと待っててください!」あっけに取られる社長を残し、箕輪は走り出した。ビルの外に出ると携帯電話を取り出すのももどかしく、コタニ書房に電話をかけた。「小谷さん!マンガの流通経路には詳しかったですよね?」
数カ月後、箕輪は2週間後に開店を控えたマンガ喫茶の前に立ち、マンガを運び込む業者に忙しく指示を与える小谷の姿を眺めていた。コタニ書房はマンガの小売から中古マンガの卸へと事業の転換を果たし、存続することとなったのだ。シワの刻まれた小谷の笑顔は青年のように若々しい。「小谷さん、ボクよりうれしそうですね。」ベンチャー企業の社長が笑って言った。