Episode File 03握手の コーディネーター

「白石さん、メガネ変えたの?」
先輩の高澤に言われ、入社5年目のデータソリューション企画部・白石はギクリとした。
データソリューション企画部では、お客さまのニーズにきめ細かく対応する、オーダーメイドのコンサルティング・マーケティングサービスを扱っている。
白石と高澤は、このたび開催される「食の商談会」の企画・運営事業に携わることとなった。これは、九州の食品関連企業が集まり、バイヤーに対して自社商品をアピールするイベントだ。九州の3市が共同開催するもので、その企画・運営事業の委託先は、入札で決定される。
提案書の提出期限が1週間後だと知ったときは、一瞬だけ辞退を考えた。期限まで時間がない上に、競合相手として地元の大手代理店が入札に参加することが予想されたからだ。しかし、白石には自信があった。
「高澤さん、やりましょう。絶対に受注できます」
競合に打ち勝つポイントは、優良なバイヤーをいかに多く呼び込めるかにある。そこで白石たちは、TDBがもつ国内最大級の企業情報データベースの活用に加え、食品関連のイベントで高い実績を上げている他の企業と連携し、優良バイヤーを選定するという方法を提案した。
そして、九州でのプレゼンテーション当日の夜。白石が東京へ戻る準備をしていると、1本の電話がかかってきた。
「帝国データバンクの白石さんですか?今回の案件ですが、ぜひ御社にお願いします」プレゼンテーション当日の受注という出来事に、白石は一人で祝杯をあげ、飲みすぎたためにメガネを落として壊したのだった。
1カ月後、白石と高澤は出展企業を集めて勉強会を実施した。目的は、商品の並べ方やキャッチコピーの作成方法、バイヤーと接するときの心構えなどについて学んでもらうことだ。終了後、参加した出展企業から「いい商品を作ればお客さんは自然に集まると思っていたが、こういうところにまで気を配る必要があるのかという驚きと発見の連続でしたよ」と声をかけていただいた。
出展企業の商品紹介パンフレット作成には、最後まで工夫をこらした。掲載する原稿や写真について、出展企業60社と何度も綿密に連絡を取り合った。また、サイズやページの配色・風合いなど細部までこだわり、デザイン会社とも交渉を重ねた。
そして迎えた商談会当日。来場したバイヤーの人数は、想定していた300人をはるかに超え、何と500人にも上った。大盛況の会場を歩いていると、バイヤーにいきいきと商品の説明をする出展企業の表情がよく見えた。会場のあちこちで交わされる握手を誇らしく感じながら、白石は颯爽と会場を進んでいった。