レポート

「見る」が「行く」に変わるその先 ―コンテンツが地域経済を動かす

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

地域活性化というと、製造業の集積や観光資源の磨き上げがまず思い浮かびます。もちろんそれらは重要ですが、近年、もう一つ見逃せない力になっているのがコンテンツビジネスです。アニメやドラマ、映画、配信番組は、作品を見て終わるものではありません。舞台となった地域へ人が動き、宿泊、飲食、交通、物販へと需要を広げていきます。4月23日の当コラム「地域の強さは、よそと争うことだけでは生まれないで述べた「地域ならではの価値を磨く」という視点は、実はコンテンツとの相性が非常に良いのです。

聖地巡礼を一過性で終わらせない

地方を舞台にした作品が強いのは、名所をただ眺める観光ではなく、物語を追体験する旅になるからでしょう。いわゆる聖地巡礼では、ファンは景色を見るだけでなく、登場人物の足跡をたどり、店に立ち寄り、写真を撮り、地域で時間を過ごします。大事なのは、それを一過性で終わらせないことです。案内板や周遊マップ、多言語対応、二次交通の整備といった行政の支えに加え、飲食店の限定メニュー、宿泊プラン、土産、体験企画などを地元企業が束ねていけば、作品を入口に地域全体の売り上げの拡大へつなげることができます。

2026年、海外市場でも具体化する動き

こうした動きは、海外でも広がりつつあります。JNTO(日本政府観光局)はシンガポールのアニメ関連イベント「Anime Festival Asia Singapore 2025」の開催時に、日本の観光パンフレットを募集するなど、アニメ聖地巡礼を訪日旅行の入口として活用していました。カナダでは「Anime North」で現地のアニメ愛好家向けに訪日旅行セミナーを実施し、日本のアニメ聖地やアクセス情報を紹介しました。さらに2026年には、JNTOがフランスで開かれる「Japan Expo Paris 2026」に観光パビリオンを出展し、日本各地への訪日旅行を訴求する予定です。加えて、2026年度のフランス向けSNSキャンペーンでは、20~30代に向けて地域ならではの体験やライフスタイルを発信する方針も示されています。アニメやドラマの海外放送・配信をきっかけに、日本の地方へ関心を持つ流れは、もはや抽象論ではありません。作品が海外で見られること自体が、地域にとって静かな営業活動になっているのです。

行政が整え、企業が稼ぐ形にする

海外番組や海外作品のロケ誘致も有力です。ロケ地として選ばれれば、その景色や文化は映像そのものを通じて世界へ届きます。しかも効果は撮影時の消費にとどまりません。放送後には「同じ場所を見たい」「実際に歩いてみたい」という来訪需要が生まれます。行政には、撮影許可や調整の窓口を分かりやすくし、フィルムコミッション、観光協会、商工団体、交通事業者をつなぐ役割が求められます。一方で中小企業は、撮影隊の受け入れや来訪者向けサービスの開発を通じて、地域の魅力を収益に変えることができます。

 要するに、コンテンツビジネスの成否は「人気作品が出るかどうか」だけでは決まりません。行政が来てもらう仕組みを整え、地元の中小企業が稼げる形に仕立てること、その両輪がそろって初めて地域経済を動かす力になります。地域に必要なのは、作品任せの熱狂ではなく、作品をきっかけに生まれた興味・関心を、リピーターの増加と消費に変えていく地道な編集力ではないでしょうか。

20260529_主観客観