レポート

地域の強さは、よそと争うことだけでは生まれない

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

地域経済の活性化というと、「地域間競争に勝つこと」という文脈で語られがちです。たしかに、人も企業も観光客も動く時代ですから、選ばれる地域になるための努力は欠かせません。ただ、競争とは補助金や施設の大きさを競うことではないはずです。大切なのは、その土地ならではの資源や技術、人のつながりを、どう事業の力に変えるかという知恵比べでしょう。

目先の誘致合戦や一時的なにぎわいだけでは、地域の底力はなかなか育ちません。競争の本当の意味は、ほかと同じことをするのではなく、自分たちの地域ならではの役割をつくることにあるのではないでしょうか。

歴史が教える地域振興の本質

この点で思い出されるのが、江戸時代の幕藩体制です。各藩は財政を支えるため、農業だけでなく特産品の育成に力を注ぎました。阿波の藍、肥前の陶磁器、米沢の織物などは、その代表例です。地域の資源を見極め、加工し、販路を広げることで、藩の経済基盤を厚くしていったのです。いまの言葉で言えば、地域資源の高付加価値化にほかなりません。

昔も今も、地域振興の本質は、外から目新しいものを持ち込むことよりも、足元の強みを磨き上げることにあります。歴史を振り返ると、地域が伸びるときには、必ず地元の産業と市場を結びつける工夫がありました。地域の特産を育てるだけでなく、それを売れる形に整える視点があったことも見逃せないでしょう。

中小企業と行政がつくる次の一手

現代において、その主役は中堅・中小企業です。地域に根ざした企業は、雇用を支えるだけでなく、地元の素材、技術、文化、取引先を結びつけ、新しい価値を生み出す結節点になれます。いわゆる「地域未来牽引企業」の発想も、まさにそこにあります。地域の特性を生かし、周囲の企業や雇用に波及効果を及ぼす企業が増えるほど、地域経済は厚みを増していきます。大企業誘致だけに頼らず、地域の中から伸びる企業を育てる視点が欠かせません。

そこで、行政が果たすべき役割とは何でしょうか。まず必要なのは、「この地域は何で稼ぐのか」を明確にすることです。看板政策が多すぎる地域ほど、結局は何も尖りません。そのうえで、地元企業が挑戦しやすい環境を整えることが重要です。たとえば、補助金や許認可の窓口を分かりやすくまとめること、商工団体や金融機関、大学との連携を促すこと、事業承継や人材確保、デジタル化を後押しすることなどです。

さらに、観光、文化、農業、ものづくりを縦割りで扱わず、地域の歴史や食、工芸を一体で磨く視点も欠かせません。行政には、制度を整えるだけでなく、人と事業をつなぐ役割が求められています。販路開拓や情報発信を支え、域外需要を取り込む後押しも大切でしょう。

地域間競争は、隣の自治体に勝つためだけにあるのではありません。地域の可能性を企業の稼ぐ力へ変え、その成果を雇用や暮らしに返していくためにあります。よそと同じことを上手にやるよりも、この地域ならではの価値を育てること。その積み重ねが、結局は最も強い地域づくりにつながるのではないでしょうか。

20260423_主観客観