レポート変化に立ち向かい、人を育む-アジャイルとウェルビーイングで挑む新時代経営-

2025/01/23
景気動向  コラム

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

ここ数年でビジネス環境はめまぐるしく変化し、特に中小企業においては柔軟な対応力と従業員の持続的な成長が同時に求められるようになってきました。そこで注目されているのが、「アジャイル経営」と「ウェルビーイング経営」です。

まず、アジャイル経営とは、市場ニーズや顧客要求の変化に合わせて迅速に意思決定を行い、プロジェクトや組織の進め方を小さな単位で検証しながら素早く調整していく手法を指します。大企業だけでなく、中小企業こそが組織の小回りを生かし、変化に対応するスピードを高められる点が大きな利点です。

一方、ウェルビーイング経営は、従業員の健康や幸福感を経営戦略の中心に据える考え方です。近年は心理的安全性や多様な働き方への配慮が企業価値を左右する重要要素になっており、たとえ企業規模が小さくとも、その理念を徹底すれば優秀な人材の確保や組織の活性化につながります。

アジャイル経営とウェルビーイング経営

実際、帝国データバンクが実施した調査など[1],[2]をみると、アジャイル経営はマーケティング分野でしばしば用いられるイノベーター理論における“アーリーアダプター”に位置しているほか、特にウェルビーイング経営については「“アーリーマジョリティ”へと<キャズム(深い溝)>を越えて、より広く一般的に受け入れられる段階に達している」と指摘されています。急激なデジタル化や社会の価値観の変化にともない、自社の強みに合わせた迅速な経営判断と人材のケアが、事業の継続と発展にますます重要になると言えます。

このような流れは今後、中小企業にとって「変わらないものを守り続ける」だけでは不十分で、「変わり続けることのできる力」が求められることを示しています。みなさんも、自社の組織がどれほど速やかに行動を起こせるか、そして従業員の心身の状態にどこまで配慮できているかを、改めて見直してみてはいかがでしょうか。

アジャイル経営の実践により、少人数だからこそ可能な素早い意思疎通や試行錯誤を武器にでき、ウェルビーイング経営の導入で、従業員一人ひとりの幸福感を高めながら長期的な成長を実現できます。日本の中小企業がこれからも輝き続けるためには、変化に対応するアジャイルな視点と、人を大切にするウェルビーイングの視点、この両輪をうまく回していくことが新時代の経営としてより大きな意味を持つでしょう。


[1] 帝国データバンク、「2025年の注目キーワードに関するアンケート」(2025年1月17日発表)
[2] 帝国データバンク、「2025年、キャズムを越える注目キーワードとは」、TDBレビュー No.40, January 20, 2025

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