レポート

最近の物価動向と物価高対策

物価高の主因は「食品」、物価高対策の中心にすべき ~ 政策と企業実務の両輪で対応、食品に効く対策を最優先に ~

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

厚生労働省が11月6日に発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、2025年9月の実質賃金は前年同月比1.4%減と9カ月連続で前年を下回り、賃金の伸びが物価上昇に追いついていない状況が続いている。そのため、政府の経済政策は物価高への対応が喫緊の課題となる。高市政権を含む与野党6党は、ガソリンの暫定税率を年内に、軽油の暫定税率を来年4月1日に廃止する方針で合意した。本レポートでは、直近の消費者物価を確認し、最大の押し上げ要因である食品価格の動向を整理する。

  1. 2025年9月の消費者物価、エネルギー価格の上昇転化と食料の高止まりが押し上げ

消費者物価指数(総合、以下CPI)の前年同月比は、2023年11月以降、おおむね+2%台で推移してきた(図1)。しかし、2024年秋頃からCPIの約22%を占める食料の上昇幅がじわりと拡大したことが主因となり、2025年1月には前年同月比+4.0%と、2023年1月以来の+4%台まで上振れした構図である。

直近の2025年9月は、総合が同+2.8%、生鮮食品を除く総合(コア)が同+3.0%となり、8月の同+2.7%からともに再加速した。エネルギー価格の上昇転化と、食料価格の高止まりが主な押し上げ要因である。

【図1 消費者物価の動向】

図1 消費者物価の動向

食料高には複数の要因が重なる。第一に、2024年夏の高温などの天候不順でキャベツなどの野菜の生育が不良となり、2025年初にかけて生鮮野菜の価格が急騰した。第二に、2024年夏以降に上がり始めたコメの価格が上昇基調を強め、2025年5月には前年比で2倍超に達した(図2)。第三に、コメ価格の高騰を受けて、2025年初からおにぎりやパックご飯、すし弁当などの調理食品で値上げ幅が広がった。第四に、物流費・資材価格の上昇が重なり、菓子類や飲料、肉類など幅広い品目で価格改定が相次いだ。

【図2 食料品(生鮮食品を除く)物価の動向】

図2 食料品(生鮮食品を除く)物価の動向

コメ価格の推移をみると、銘柄米とブレンド米で水準差はあるものの、平均価格は2025年4月におおむね横ばい、5月半ば以降にやや反落した。さらに、6月以降は随意契約で売り渡された政府備蓄米の効果が徐々に表れ、抑制圧力が働いたとみられる。

もっとも、こうした政府備蓄米の売渡し効果はCPIに直ちに反映されない点には留意する必要がある。CPIの基礎となる総務省「小売物価統計」におけるコメの調査銘柄は単一原料米(代表的なコシヒカリと、その他の単一品種)に限られる。2025年3月以降に買い戻し条件付きで売り渡された政府備蓄米を含む複数原料米(ブレンド米)は調査対象外であり、5月末以降の随意契約による売渡し分も含まれない。

同質商品を継続的に追うというCPIの特性上、政府備蓄米の価格抑制効果をCPIだけで捉えるのは難しい。実勢把握には、POSデータや各種統計を併用し、コメを含む食料品価格の動きを総合的に点検する姿勢が欠かせない。

  1. 物流コストの上昇、人手不足を背景に運賃が上がり、価格転嫁が進む

帝国データバンクの調査[1]によると、食品メーカーの価格引き上げ要因は、一貫して「原材料高」が9割を超え最大である(図3)。しかし、構図は変わりつつある。2023年は相対的に「エネルギー」の影響が目立った一方、2025年にかけては「物流費」や「人件費」の重要性が大きく増してきたことが確認できる。

【図3 値上げ要因の推移(品目ベース)】

図3 値上げ要因の推移(品目ベース)

物流費については、運輸業の人手不足が63%超[2]に及ぶなか、賃上げを背景に貨物自動車運送費が上昇基調を続けている。その結果、コストの販売価格への転嫁が進行しているとみられる[3]。人件費については、食料品製造業の人件費比率は13.6%と全産業平均(27.7%)ほど高くない[4]。それでも、33年ぶりの高水準の賃上げが続く環境下では、同業でも人件費の価格転嫁が着実に進展していると判断できる。

おわりに

価格転嫁は「原材料高」から「エネルギー」「物流費」「人件費」へと重心を移しながら続いている。要因が変化する局面では、政策対応を含む複合的な手立てが求められる。足元の物価上昇は食品の寄与が大きい以上、まずは食品価格にダイレクトに効く対策を優先すべきであろう。

同時に、企業は単発の値上げで終えるのではなく、毎日の業務手順のなかで調達・在庫・価格設定の運用を更新していく必要がある。「何が上がっているか」だけでなく「次に効いてくるコストは何か」を前提として折り込み、利益確保と顧客対応の両立を図ることが肝要である。


[1] 帝国データバンク、「『食品主要195社』価格改定動向調査-2025年11月」(2025年10月31日発表)
[2] 帝国データバンク、「人手不足に対する企業の動向調査(2025年7月)」(2025年8月19日発表)
[3] 2025年7月における一般貨物自動車運送業の価格転嫁率は27.6%にとどまる(全産業の価格転嫁率は39.4%)。帝国データバンク、「価格転嫁に関する実態調査(2025年7月)」(2025年8月28日発表)
[4] 2020年産業連関表(総務省)における国内生産額に占める雇用者所得のシェアに基づく。

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