レポート信用調査データを用いた雇用傾向の把握(2024年12月データ)

景気良好の宿泊飲食サービス業と2024年問題に直面する運輸業・建設業の動向 ~需要は高まる一方で人手不足は深刻化~

2025/02/21
雇用・人材

滋賀大学データサイエンス学部
田原弥
滋賀大学データサイエンス研究科博士前期課程
天正寛人
滋賀大学データサイエンス研究科博士後期課程
中谷太洋
株式会社帝国データバンク プロダクトデザイン部
プロダクトデザイン課 大里隆也

【要約】

  1. 帝国データバンクが保有する信用調査データにおいて、2014年から2023年の10年間で毎年調査があった宿泊飲食サービス業、運輸業、建設業を対象に、従業員数の変動を集計した。
  2. 宿泊飲食サービス業界では景気回復に伴い、従業員数に関してもコロナ禍による落ち込みから回復傾向が見られ、非正規社員では、コロナ禍前の水準を超えた指標もある。
  3. 運輸業界では正社員、非正規社員ともに雇用の変動が横ばいで推移しており、2024年問題への対応に遅れを取っていると考えられる。以前から続くドライバー不足に2024年問題も相まって、人手不足の更なる深刻化が懸念される。
  4. 建設業界では正社員に関して増加傾向が見られるものの、非正規社員はやや減少傾向である。東京五輪や大阪万博に伴う需要増加の一方で、2024年問題や資材価格の高騰、就業者の高齢化といった問題も抱えており、今後の動向が注目される。

帝国データバンク(以下, TDB)が保有する信用調査データを用いて、雇用の動向を把握するという目的で、正社員数・非正規社員数の変動を集計・可視化した。本レポートでは、可視化の結果および考察を報告する。

1. 背景と目的

本レポートは、産業界および行政における雇用計画や政策に関する意思決定に資するため、雇用動向を継続的に報告するものである。集計対象は、信用調査が直近10年の間に毎年行われた企業とする。これらの企業は商取引の中心となる企業と捉えることができ、全体的な傾向を把握するための公的統計とは別の視点で、商取引の中心となる企業の雇用動向の可視化とそこから波及する経済効果の先回り把握を目的とする。

また、コロナ禍と2024年問題の雇用への影響により注目するため、宿泊飲食サービス業(宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業)、運輸業、建設業を対象とする[1]。

2. 各産業における近年の動向

本レポートでは、宿泊飲食サービス業、運輸業、建設業の3産業を対象に2014年から2023年の10年間で毎年1回以上調査が入った企業について、2015年第4四半期(15Q4)から雇用の変動を可視化している。本章では、公的統計などを参照しつつ当該期間の経済状況と近年の3産業の現状について確認する。

はじめに当該期間の経済状況の推移を確認する。2014年から2018年まではアベノミクスが実施されていた時期である。大胆な金融緩和による円安で株価は上昇し、GDPは名目・実質ともに過去最高水準に拡大するなど、以前までのデフレ状態から景気が回復した時期である[2]。また、東日本大震災からの復興事業や東京五輪に向けたインフラ整備のための財政出動も積極的に行われ、建設業を中心に需要が高まった[3] [4]。加えて、女性や高齢者の就労促進が図られ、完全失業率は25年ぶりの低水準、有効求人倍率は1を大きく上回る水準を記録した[2]。その後、2019年末に中国でCovid-19の罹患患者が初めて報告され、2020年と2021年はコロナ禍となった。宿泊飲食サービス業をはじめ多くの産業で景気が悪化した時期である[5]。2022年から2023年にかけて、新型コロナウイルスの影響は依然として残るものの、各種規制の撤廃や新型コロナウイルスの5類以降により経済活動が活発性を取り戻した。同時に、運輸業と建設業にとっては時間外労働の制限等が始まる2024年問題への対応が迫られた時期でもある[1][6]。

続いて、宿泊飲食サービス業が関連する観光関連産業の現状を確認する。帝国データバンクによる観光DIの推移を見ると、2023年3月から2024年8月まで18 カ月連続で全産業のTDB景気DIを上回り、観光市場に回復の兆しが見られる[5]。観光市場の回復を牽引するのが旺盛なインバウンド需要である。コロナ禍の影響により、訪日外国人旅行者は2020年・2021年に2019年の0.7%台まで一時的に落ち込んだものの、2024年は11 月までの累計は約3340万人と2019年の年間累計を上回って過去最多を記録した[7]。また、訪日外国人旅行消費額で見ても2024年4-6月期は約2.1兆円と四半期として過去最高を記録し、上半期のペースが下半期も続けば、2024年は8兆円に達することが期待される[8][9]。一方で、日本人の国内旅行については、消費額こそ既に2019年の水準を上回っているものの、延べ旅行者数では2019年の水準には及んでいない。物価高による旅行費用の高騰、あるいは訪日客との競争による宿泊施設の予約の取りづらさが、国内旅行離れに繋がっている可能性が指摘されている[10][11]。宿泊飲食業の現状について日銀の業況判断DI(図1)を確認すると、コロナ禍以前は他の産業に比べて低調な状態が続いており、コロナ禍において大幅に悪化した。コロナ禍以後は一転して他の産業を上回る状態で推移している。雇用の過不足を示す雇用人員判断DI(図2)を確認すると、コロナ禍こそ需要の大幅な減少に伴い人員が過剰に転じたが、それ以降はコロナ禍以前と同様に不足が続いている[12]。

次に、運輸業を確認する。輸送重量(トンベース)による国内貨物輸送量は、2010年度以降45億トン程度の横ばいで推移してきたが、2020年度は41億トンにまで減少し、2022年度まで同程度の水準で推移している。一方で、同期間中にはインターネット通信販売の伸びを背景に宅配便の取り扱い個数が32.2億個から50.7億個に増加し、「巣篭もり需要」を背景として成長も見られていた[13][14]。運輸業が⻑年直面している課題として、人手不足が挙げられる。例えばトラック運送業では、2011年度以降、有効求人倍率が全職業平均を上回っており、直近(2022年度)では全職業平均より約2倍高い値となっている[13]。日銀の業況判断DI(図1)は全産業と概ね同水準で、コロナ禍において大幅に下落した。雇用人員判断DI(図2)は、その他の産業に比べて低い水準で推移している[12]。

最後に、建設業を確認する。国土交通省によると、国内の建設投資額は1992年の84兆円をピークに減少傾向が続き、2010年には42兆円にまで減少した。その後は回復し、2024年には73兆円となることが見込まれている[15]。日銀の業況判断DI(図1)は、直近10年間で他産業を上回る水準である。一方、雇用人員判断DI(図2)は他産業を下回る水準であり、運輸業と同様に人手不足に直面している[12]。建設業では2021年時点で60歳以上の技能者が全体の25.7%を占め、10年後にはその大半が引退すると見込まれる。また、29歳以下の割合は全体の約12%程度であり、担い手の確保が課題として指摘されている[16]。労働力不足と2020年以降に急速に進んだ資材価格の高騰を背景に、建設業の倒産が過去10年で最多を更新する見込みとなっている[17]。

運輸業・建設業における人手不足を深刻化させると懸念されるのが、2024年4月1日より労働時間の上限規制の適用範囲が運輸業と建設業に拡大された、いわゆる「2024年問題」である。運輸業では具体的な対応を行わなかった場合、2030年度には輸送能力が約34%(9億トン相当)不足する可能性が指摘されているほか、建設業では人件費の増加や人手不足の悪化が懸念されている[1][13]。

図1 日銀業況判断DI
図1 日銀業況判断DI

図2 日銀雇用人員判断DI
図2 日銀雇用人員判断DI

3. 利用データと対象企業

本レポートが対象としている企業は、前年までの直近10年で信用調査が毎年行われている企業である。2024年12月更新のデータ時点において対象となるのは、2014年から2023年まで毎年1回以上の調査が行われている企業となる。これらの企業の2024年までの動向を四半期ごとに公表する。前回までは変動で異常値をとる企業について、合併・分割・転籍・出向を確認し除外していたが、今回から雇用の自然増減以外の要因となるような企業を抽出することで、企業の雇用行動としての増減をより的確に反映できるようにしている。結果的に対象となったのは、宿泊飲食サービス業が467社、運輸業が381社、建設業が901社である。

信用調査は他の企業からの依頼に基づいて実施されるため、毎四半期でデータがあるとは限らない。そこで、調査がない時点における値をガウス過程回帰(Gaussian Process Regression, 以下GPR)で推定している。ガウス過程回帰の詳細については付録や帝国データバンク/滋賀大学Data Engineering Machine Learningセンターのホームページを確認されたい[18]。

4. 結果・考察

宿泊飲食サービス業、運輸業、建設業の3つ産業について基準変動の平均値、基準変動の中央値、合計の基準変動を算出しその結果を示す。基準変動の平均値ならびに基準変動の中央値は、それぞれ各社の雇用変動の平均値と中央値であり、個社企業の全体的な傾向を把握するためのものである。一方で、合計の基準変動は、各社の雇用量を合計した後に変動を計算したもので、産業全体の変動を見るための指標である。なお、詳細な説明については付録を参照されたい。

4.1 宿泊飲食サービス業

図3に示した基準変動の平均を見ると、正社員、非正規社員ともに2019年頃まで上昇した後、コロナ禍の2020年から2022年頃にかけて下落しており、特に非正規社員はその程度が大きかった。2023年からは正社員は横ばいで推移し、非正規社員は上昇傾向でコロナ禍前と同水準まで回復した。図4に示した基準変動の中央値でも、正社員と非正規社員ともに緩やかに上昇していた。コロナ禍で正社員は基準値と同水準まで下落し、非正規社員は基準値を下回る水準まで下落していたが2023 年頃より回復し始めた。図5に示した合計の基準変動は正社員、非正規社員ともに基準変動の平均と概ね同じ推移である。

2014年から2019年にかけて、平均値や合計が正社員、非正規社員ともに上昇していた一方で中央値の変動は比較的小さかったことから、一部の企業において大きく雇用が拡大していたことがわかる。同様に、コロナ禍において非正規社員の平均値は基準値を下回らず、中央値や合計は基準値を下回っていたことからも、一部の企業では雇用を維持してはいたものの、業界全体として新型コロナウイルスが雇用、特に非正規社員に与えた影響が大きかったと考えられる。新型コロナウイルスの影響が弱まった2023年頃からは、非正規社員の雇用を積極的に進めていることがわかる。この背景には、新型コロナウイルスに関する規制の撤廃とインバウンド需要の増加があると考えられる[5][6]。

図3 宿泊・飲食・サービスの基準変動の平均
図3 宿泊・飲食・サービスの基準変動の平均

図4 宿泊・飲食・サービスの基準変動の中央値
図4 宿泊・飲食・サービスの基準変動の中央値

図5 宿泊・飲食・サービスの合計の基準変動
図5 宿泊・飲食・サービスの合計の基準変動

4.2 運輸業

図6の基準変動の平均を見ると、正社員と非正規社員ともにコロナ禍以前は緩やかな上昇傾向であったものの、コロナ禍以後は横ばいで推移している。図7の基準変動の中央値を見ると、正社員は上昇が見られるが、非正規社員に関しては基準値と変わらない水準である。図8の合計の基準変動では、正社員は緩やかに上昇していたがコロナ禍で下落した。非正規社員はコロナ禍以前には基準値より高い水準であったが、それ以降は下落し基準値と同水準で推移している。

3つの指標からはコロナ禍における大幅な下落は読み取れない。観光業と同様に旅客運送業が新型コロナウイルスによる大きな打撃を受けた一方で、宅配貨物運送業の需要はコロナ禍においても継続したことが要因の一つと考えられる[19][20]。

過去10年の動向として、基準変動の平均が上昇している一方、基準変動の中央値や合計の基準変動には大きな値の上昇が見られないことから一部の企業では雇用を増やしているが、業界全体としては雇用を増やせていないことがわかる。雇用動向に関する企業の意識調査でも正社員、非正規社員ともに採用予定があると回答した企業の割合が全産業で最上位であることからも2024年問題に向けて人手が不十分であったと推測される[21]。直近の動向に注目すると、非正規社員について基準変動の平均はやや下落しているのに対し、合計の基準変動はやや上昇している。これは一部の企業で非正規社員が大幅に減少したことを示唆しており、2024年1月に大手宅配業者で実施された非正規社員との大規模な契約終了の影響が考えられる[22]。

図6 運輸の基準変動の平均
図6 運輸の基準変動の平均

図7 運輸の基準変動の中央値
図7 運輸の基準変動の中央値

図8 運輸の合計の基準変動
図8 運輸の合計の基準変動

4.3 建設業

図9の基準変動の平均値を見ると、正社員は上昇を続けておりコロナ禍でも下落は見られなかった。直近はやや下落している。非正規社員も同様にコロナ禍以前は上昇傾向であったが、コロナ禍以後は横ばいで推移している。図10の基準変動の中央値を見ると、正社員は上昇しているが非正規社員は基準値と変わらない水準で推移している。図11の合計の基準変動でも正社員は上昇傾向が続き直近は横ばいで推移しているが、非正規社員は下落傾向が続いている。

3つの指標に共通して正社員は上昇傾向かつ直近は横ばいで推移している。東日本大震災からの復興事業や東京五輪に向けたインフラ整備のために、積極的な公共投資が行われたことが要因の一つと考えられる[3][4]。非正規社員に関しては図8の基準変動の平均は正社員同様に増加しているものの、図10の合計の基準変動では減少しており、業界全体としては非正規社員の数は減少していると考えられる。また、3つの指標からはコロナ禍における大幅な下落は見られない。

建設業界では、他産業に比べて就業者の高齢化が進行しており、今後は就業者数が減少していくと予想される。特に技能職に分類される就業者の数は長期的に減少を続けている[23]。また、人手不足に対する企業の動向調査でも正社員の人手不足が大きいとされていることから、正社員の積極的な雇用あるいは非正規社員から正社員への転換を進めていると考えられる[24]。雇用動向に関する企業の意識調査でも、非正規社員よりも正社員の採用予定があると答えた企業の割合が大きい[21]。

図9 建設の基準変動の平均
図9 建設の基準変動の平均

図10 建設の基準変動の中央値
図10 建設の基準変動の中央値

図11 建設の合計の基準変動
図11 建設の合計の基準変動

5. 公的統計との比較

本章では、本レポートにおける結果と公的統計の結果を比較することで、これらの一致や相違から経済の実態を多角的に考察する。代表的な統計として労働力調査と法人企業統計調査と比較を行う。労働力調査と法人企業統計調査が公表されている期間で可視化している。

5.1 労働力調査

労働力調査では主な産業別正規の職員、従業員数と非正規の職員、従業員数が公開されている[25]。対象は、全国で無作為に抽出された約40,000世帯の世帯員のうち15歳以上の者約10万人である。本節では従業員数を、四半期ごとの合計の基準変動と四半期ごとの労働力調査から雇用形態別に比較する。

宿泊飲食サービス業については、信用調査と労働力調査のいずれもコロナ禍で非正規社員の値が下落を続けていたが、それ以降は回復に転じた。信用調査では正社員が基準値を上回っているのに対し、労働力調査では基準値を下回る時点が多い。信用調査で対象となるような商取引の中心企業の方がより正社員の雇用を増やしていることがわかる。

運輸業については、労働力調査の方が信用調査に比べて正社員は上方向に非正規社員は下方向に変動が大きい。特に非正規社員は下落が大きく、信用調査の対象とならないような周辺の企業では、より非正規社員の数が減少していることがわかる。

建設業については、信用調査で正社員が上昇傾向であるのに対し労働力調査では横ばいで推移している。非正規社員はいずれも下落しているが、労働力調査の方がその程度が大きい。運輸業と同様に建設業でも、労働力調査の対象企業は信用調査の対象企業よりも人手不足が深刻であると考えられる。

図12 労働力調査と信用調査の比較
図12 労働力調査と信用調査の比較

5.2 法人企業統計調査

本節では四半期ごとの合計の基準変動と法人企業統計調査の四半期ごとの従業員数の推移を比較する。法人企業統計調査とは、わが国における営利法人等の企業活動の実態を把握するために実施されている[26]。この調査の四半期別調査の対象は、資本金、出資金又は基金1,000万円以上の営利法人等である。法人企業統計調査では、四半期調査の人件費の項目で、「従業員数は常用従業員の期中平均人員と、当期中の臨時従業員(総従事時間数を常用従業員の1か月平均労働時間数で除したもの)との合計」として従業員数を調査している。雇用形態に分けられていないため合計の基準変動も正規雇用と非正規雇用を足し合わせたものから算出した。雇用形態別の比較はできなくなるが、企業同士の比較が可能になる。本レポートの指標は商取引の中心であるからといって必ずしも大企業ではない。推移の違いは、一社あたりの売上高は法人企業統計調査の方が大きいことによるものである。

宿泊飲食サービス業に関しては、法人企業統計調査の方が変動の幅が大きく、2015年から2017年頃は信用調査よりも高い水準であった。それ以降は信用調査よりも低い水準で推移している。法人企業統計調査の対象となるような規模の大きい企業では雇用が減少傾向であることがわかる。

運輸業に関しては、法人企業統計調査は信用調査よりも高い水準で推移しており、規模の大きい企業では雇用が増加はしていないものの、信用調査よりも高い水準で維持されていることがわかる。

建設業に関しては、信用調査が緩やかな上昇傾向であるのに対し、法人企業統計調査は下落傾向が続いている。コロナ禍以後は法人企業統計調査で回復傾向が見られ、規模の大きい企業の方が基準変動の値は小さいものの、2024年問題への対応により積極的に動いていたと推測される。

図13 法人企業統計調査と信用調査の比較
図13 法人企業統計調査と信用調査の比較

5.3 UV分析

労働力調査では、2024年11月期の集計で完全失業者は前年同期に比べて5万人の減少という結果であった[25]。労働の過不足感を評価するUV分析の図表を1970年以降で作成した(図14)[27]。色が明るくなるほど最新の時点であり、線が出ていない最後の点が24Q4時点である。点は四半期ごとに描画してある。横軸に欠員率、縦軸に雇用失業率をとっているため、横軸が大きくなるほど人手不足感があり、縦軸が大きくなるほど失業が増えている。よって、右下三角形と左上三角形はそれぞれ、経済拡大と縮小にあたる。2021年Q1がちょうど欠員率と雇用失業率の均衡点であったのに対し、それ以降45°線の右下に来ていることがわかるため、理論的には拡大期であると考えられる。22Q2以降は欠員率、雇用失業率ともに大きな変化はない。

図14 UV分析
図14 UV分析

6. まとめ

本レポートでは、信用調査が入る回数が多い企業を商取引の中心企業と定義して宿泊飲食業、運輸業、建設業を対象に可視化を行なった。

宿泊飲食サービス業界の景気はコロナ禍前を上回る水準であり、今後の進展も見込まれる。雇用に関してコロナ禍からの回復傾向は感じられるものの、人手不足は否めない。また構造的な労働市場の課題も抱えているなど、複雑な環境下にあるため、今後の動向も注目すべきである。

運輸業界は、以前から続くドライバー不足に加え、2024年から労働時間の規制が実施されるなど労働需要がますます高まっている業界である。しかしながら、雇用量の大きな変動は見受けられず、今後も人手不足は強まると予想される。

建設業界も運輸業界と同じく、2024年から労働時間の規制が始まった。建設業界の景気は2010年代より良好な状態が続いており、それに伴い雇用量も増加してきた。一方で、就業者の高齢化が進んでおり今後は高齢化人材の退職が増加していくと見込まれる。また、業界全体で正社員を増やそうとする傾向が見られる。

7. 付録

7.1 評価指標

本レポートでは、以下の3つの評価指標に基づいて可視化を行った。

 a.基準変動の平均値
 b.基準変動の中央値
 c.合計の基準変動

図15 基準変動の平均値・中央値
図15 基準変動の平均値・中央値

図16 合計の基準変動
図16 合計の基準変動

a.とb.は、各社の雇用の変化を平均化し、個社企業の全体的な傾向を把握するための指標である。対象期間における各企業の初年Q4の値を100とし、これと比較した各四半期の比を算出し、産業別に平均値と中央値を取得している。

c.は、各社の合計を求めた後に変化値にしていることから、変動は雇用している規模の大きさに依存し、業界全体の変動を見るための指標である。対象期間におけるそれぞれの年で、数値を産業ごとに合計し、初年Q4を100として、初年と比較した時の各四半期の比を算出する。

7.2 評価指標

GPRでは、各企業の実際の調査の値が滑らかな曲線の関数から誤差を伴って生成されたものとして、関数とその関数の散らばりを推定している。誌面の都合上、より数理的な詳細は滋賀大学/帝国データバンク Data Engineering Machine Learningセンターのホームページで公開している[18]。今回は、調査がなかった時点について、平均の関数上の値とその±1標準偏差の値を取得している(図17)。これによって前の時点の値を用いることがなくなるとともに、直近10年で調査が入っているにも関わらずLOCFでも値が確保できない企業を扱えるようになった。指標の算出では平均と±1標準偏差の関係が逆転しないように、最初の時点の値を平均の関数上の値に統一して、平均曲線と±1標準偏差のそれぞれのデータで算出している。

図17 調査がない時点の値の推定イメージ
図17 調査がない時点の値の推定イメージ


(参考文献)
[1] 帝国データバンク、「2024 年問題に対する企業の意識調査」
URL: https://www.tdb.co.jp/report/economic/ux1cqur935wq/

[2] 内閣府、「安倍政権の経済財政政策の成果」
URL: https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2019/0118/shiryo_01.pdf

[3] 一般社団法人日本建設業連合会、「東日本大震災後の建設市場」
URL: https://www.nikkenren.com/publication/pdf/handbook/2019/2019_06.pdf

[4] 東京都 オリンピック・パラリンピック準備局、「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」
URL: https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/9e1525ac4c454d171c82338c5a9b4c8a_1.pdf

[5] 帝国データバンク、「観光産業の最新景況レポート(2024 年8月)」
URL: https://www.tdb.co.jp/report/industry/5178qn__ci/

[6] 厚生労働省、「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について」
URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html

[7] 日本政府観光局、「訪日外客統計月次報告」
URL: https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/

[8] 観光庁、「訪日外国人消費動向調査」
URL: https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html

[9] 観光庁、「観光の現状と今後の取組」
URL: https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001762646.pdf

[10] 観光庁、「旅行・観光消費動向調査」
URL: https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/shouhidoukou.html

[11] 窪田剛士、「円安の恩恵は外国人だけ?日本人旅行者が直面する国内旅行の現実と課題」
URL: https://www.tdb.co.jp/report/economic/col2024102101/

[12] 日本銀行、「全国企業短期経済観測調査(短観)」短観(調査全容)一覧
URL: https://www.boj.or.jp/statistics/tk/zenyo/index.htm

[13] 経済産業省、「第1回 産業構造審議会資料 物流を取り巻く現状と取組状況について」
URL: https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/distribution/pdf/001_01_00.pdf

[14] 国土交通省、「令和5年度 宅配便等取扱個数の調査及び集計方法」
URL: https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001759881.pdf

[15] 国土交通省、「令和6年度(2024年度) 建設投資見通し」
URL: https://www.mlit.go.jp/report/press/joho04_hh_001247.html

[16] 国土交通省、「最近の建設業を巡る状況について」
URL: https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001493958.pdf

[17] 帝国データバンク、「『建設業』の倒産動向(2024年1-10月)」
URL: https://www.tdb.co.jp/report/industry/bankruptcy_construction/

[18] 滋賀大学/帝国データバンクData Engineering Machine Learningセンター、「補足資料レポート「信用調査データを用いた雇用傾向の把握」で用いられているモデリング」
URL: https://shiga-deml.jp/20230925.pdf

[19] 国土交通省、「国土交通白書2020 特集 新型コロナウイルス感染症への対応」
URL: https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/pdf/np000000.pdf

[20] 経済産業省、「通商白書 2020 第3章 第3節 物流の寸断とサプライチェーン」
URL: https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2020/pdf/02-01-03.pdf

[21] 帝国データバンク、「雇用動向に関する企業の意識調査」
URL: https://www.tdb.co.jp/report/economic/1hmepiggpt/

[22] 朝日新聞、「ヤマト運輸、パート社員4千人の契約終了、来年1月、経営合理化で」
URL: https://www.asahi.com/articles/ASRB0761BRB0ULFA03P.html

[23] 一般社団法人日本建設業連合会、「建設業デジタルハンドブック」
URL: https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart6-4/index.html

[24] 帝国データバンク、「人手不足に対する企業の動向調査」
URL: https://www.tdb.co.jp/report/economic/20241113-laborshortage202410/

[25] 総務省、「労働力調査」
URL: https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.html

[26] 財務省、「法人企業統計調査」
URL: https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/index.htm

[27] 労働政策研究・研修機構、「均衡失業率、需要不足失業率」
URL: https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/topics/uv/uv.html

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