レポート観光産業の最新景況レポート(2024 年8月)

観光産業の景況感、18 カ月連続で全産業の景気 DI を上回る~強いインバウンド需要が牽引 海外旅行の回復が課題に~

2024/09/19
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秋の行楽シーズンを迎えた。2 回続く 2024 年 9 月の 3 連休には、全国の観光地が盛況になるこ とが見込まれている。2023 年 5 月に新型コロナウイルスが 5 類へ移行して以降、国内の観光産業 では、2024 年の各指標がコロナ禍前の 2019 年を上回る推移を見せている。能登半島地震の発生、 7 月の大雨など自然災害が続いたほか、8 月 8 日に発生した日向灘地震に端を発した 1 週間に及ぶ 「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の影響などの不安要素も抱えているものの、インバ ウンド需要が下支えしている。

観光産業(※1)の景況感はどのように変化しているのか、取り巻く環境や景気 DI の動きを分析した。

 ※1:観光産業は非常にすそ野が広く、特定の業種分類として表すことは困難であり、個々の産業に関する統計整備にとどまる。そこ で、本レポートでは、UNWTO(世界観光機関、World Tourism Organization)が示している国際基準である TSA(旅行・観光 サテライト勘定、Tourism Satellite Account)において観光産業(Tourism Industries)に分類されている業種に基づき、観 光産業として定義した

◆観光 DI、2023 年 3 月から 18 カ月連続で全産業の景気 DI を上回る

帝国データバンクが毎月実施している TDB 景気動向調査で算出した観光 DI(※2)の推移を見 ると、政府が「2023 年 5 月に新型コロナウイ ルスの感染法上の位置付けを 5 類に移行する」と発表した同年 1 月以降、上昇基調に転 じ、その後、同年 3 月から 2024 年 8 月まで、 18 カ月連続で全産業の景気 DI を上回った。

実際に 5 類に移行した同年 5 月の観光 DI は 49.9 を記録し、その後は多少の揺れ幅はあったものの、インバウンド需要を背景に 48 台で推移した。 2024 年 1 月の能登半島地震による一時的な自粛の動きなどから 45.8 にダウンしたものの、そ の後石川県を対象とした観光促進策や、底固いインバウンド需要に支えられ、2024 年 8 月の観光 DI は 47.2(前月比 1.6 ポイント増)と 2 カ月連続で改善した。

 ※2: 観光 DI は、注 1 で分類した観光産業に属する企業の景気判断を総合した指標。観光 DI は 0~100 の値をとり、50 より上であ れば景気が「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50 が判断の分かれ目となる

足元の動きに対して、企業からは「インバウンド需要は好調」(飲食・北海道)などの前向きな 声がある一方、「南海トラフ地震臨時情報で最繁忙期の集客に大きなダメージがあった」(宿泊・和歌山県)、「インバウンドの効果は地方では少なく限定的」(宿泊・福島県)、「夜間の人出が少な く、コロナ禍以前の水準に戻らない」(飲食・新潟県)など地域によって違った声が聞かれる。

◆増加する訪日外国人客数を背景に、強いインバウンド需要

日本政府観光局(JNTO)が発表した「訪日外国人客数」によると、2024 年の訪日外国人客は 1 ~7 月までの合計が 2107 万人に達し、前年同期の 1303 万人を上回った。通年で前年を超えるのは 確実と見られ、そのペースはコロナ禍前の 2019 年をも上回っており、国内の観光産業を牽引しているといわれる。

他方、「主要旅行業者の旅行総取扱額」(観光庁) の内訳を見ると、2023 年度の「国内旅行」は 2 兆 3559 億円とコロナ禍前の 2019 年度に迫ったもの の、「海外旅行」は 1 兆 699 億円と、円安や物価高の影響などにより回復が遅く、コロナ禍前の 2019 年度に大きく及ばなかった。 2024 年度に入ってからも、「海外旅行」の回復は 鈍く、物価高による節約志向や天候などの環境要 因、人手不足などの影響で「旅行総取扱額」の 2024 年 4~6 月の累計総額は、前年同期を 7.1%上回る にとどまり、通期でもコロナ禍前の 2019 年度を上 回るには厳しいペースにある。

インバウンド需要を背景に観光 DI は全産業の景 気 DI を 18 カ月連続で上回っているが、多少の円高 が進んだことでマイナスの影響が懸念される。 人手不足やオーバーツーリズムなどの経営課題 に対処しながら、新たな旅行需要を掘り起こす必要がありそうだ。

20240919_観光産業の最新景況レポート.pdf

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