レポートアパレル業界の最新景況レポート

アパレルDI、人流回復でコロナ前の水準を上回る ~ 外出機会の増加で需要回復も、価格上昇による買い控えが懸念点 ~

2023/12/25
繊維・アパレル

コロナ禍での外出機会の減少により需要が落ちこみ、店舗販売を中心に多大な影響を受けたア パレル業界。店舗営業の自粛に加えて、製造・卸売業者では、綿やウール、合成繊維の材料となる原油など原材料の高騰のほか、円安の進行による輸入価格の上昇により苦戦を余儀なくされてきた。

2023年以降は、新型コロナの 5 類移行による行動制限の全面解除で店舗販売は改善傾向にあ る。コロナ禍で加速した電子商取引(EC)も消費をあと押しし、実店舗と EC を融合した新しい 接客手法の活用の動きがみられるうえ、外国人観光客数の回復による需要が高まりつつある。 そこで帝国データバンクでは、アパレル業界を取り巻く環境や景気 DI(※1)の動きを調査した。

◆経済活動の正常化で外出機会が増加、アパレル DI は回復基調に

コロナ禍前から人口減少や消費 不振、高級品の販売ルートであっ た百貨店業界の低迷などにより、 アパレル DI(※2)は全産業の景気DIを大きく下回っていた。そこにコロナ禍が加わり、2020年4月には11.7と過去最低の水準にまで急落した。その後は、感染動向に左右 されながらも店舗販売の落ち込みをネット通販などが下支えし、徐々に改善傾向を示してきた が、全産業 DIとの乖離は大きい状況が続いた。2022年2月には、ウクライナ情勢やオミクロン 株の広がりなどでDIは再び下落。その後も、原油高騰や円安により、製造・仕入コストが上昇 し、厳しい状況を強いられてきた。

 ※1:景気 DI は、TDB が算出する全国企業の景気判断を総合した指標。50 を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50 が判断 の分かれ目となる。

 ※2:アパレル DI は、「成人男子・少年服製造」「成人女子・少女服製造」「男子服卸売」「婦人・子供服卸売」「男子服小売(製造小売)」「婦人・子供服小売」な どの衣類関係で景気 DI を算出

しかし、ワクチン接種の浸透などにより外出が増加し始めた 2022 年秋以降から、回復傾向が 顕著になってきた。2023 年 5 月の新型コロナウイルス感染症の 5 類移行とともに、外出機会の増 加が需要を刺激し、アパレル DI は全産業の景気 DI に迫る勢いで急回復した。

その結果、コロナ禍に最大 16.0 ポイント(2021 年 9 月)あった全産業の景気 DI との差は、0.9 ポイント(2023 年 5 月)にまで縮まり、アパレル DI もコロナ前の水準を上回った。

現在、アパレル業界で勢いがあるのは、安価で流行を捉えた「ファストファッション」市場であ る。企画から製造、販売まで一貫して手掛ける SPA モデルが強みだが、利益率が高い一方で、近時で は脱炭素や SDGs など環境意識の高まりを受け、衣服の大量生産・大量廃棄につながるビジネスモデ ルの見直しを迫られている。
こうしたなか、適量生産や環境に配慮した素材の活用、着なくなった衣 服の回収などに取り組む企業が増えている。大量に仕入れて安値で販売する商習慣を見直す動きが みられる背景には、過剰在庫の発生を抑え、確実に売れる商品を定価で販売して収益を改善させる狙いがある。

◆衣類への消費支出の割合、コロナ前と比べて 0.6pt 低下、今後はデジタル化と独自性の創出がカギ

総務省の「家計調査」によると、1 世帯あたりの被服 への消費支出の割合(二人以上の世帯)は、コロナ前で ある 2019 年の 3.1%から 2023 年 1-10 月は 2.5%と、0.6 ポイント低下している。金額ベースでは、1 世帯あたり の消費額は年間で約 1 万 7,500 円の減少となった(2019 年と 2022 年を比較)。

在宅勤務の浸透やファッションのカジュアル化が進 み、百貨店アパレルを中心とした中価格帯(1 万~3 万円 程度)の市場は縮小。その半面、EC やメルカリなどの二次流通市場が拡大している。また、ファス トファッションが市場を席巻したことで、衣類の価格は一段と安くなっていき、低価格帯市場が広が ったことも、衣類への支出が減った要因の1つと考えられる。

経済活動の正常化が進むなか、アパレル業界は外出や旅行機会の増加、インバウンド需要もあり緩 やかな回復傾向にある。一方で、生産コストの上昇から値上げも相次いでいる。

生活必需品への節約 志向は続く見通しで、利益率の高い SPA を中心とした低価格帯市場が業界を牽引していくだろう。 今後は長年の商習慣やビジネスモデルを見直すことに加えて、デジタル技術の活用、独自性のある 商品・サービスを創出し消費者からの支持を獲得することがカギとなる。

アパレル業界の最新景況レポート

Contact Usお問い合わせ先

担当部署

お問い合わせ先 株式会社帝国データバンク 情報統括部 TEL:03-5919-9343 E-mail: tdb_jyoho@mail.tdb.co.jp