レポート貴金属・宝飾品業界の最新景況レポート

貴金属・宝飾品業界の売上高はコロナ禍前より 20%増加~貴金属・宝飾品 DI はインバウンド需要などで過去最高を更新も、全産業には届かず~

2024/06/07
日用品・服飾品

2024 年 5 月 21 日、金(ゴールド)の国内小売価格 が 1 万 3,477 円/g(※1)となり過去最高値を更新(6 月 6 日 時点)した。またダイヤモンドやプラチナ、シルバー などの価格も高騰。それにともない宝飾品価格が上昇している。こうした中、百貨店での「美術・宝飾・貴 金属」の売上高(※2) は、2023 年度は 5,143 億 6,143 万円 となり、コロナ禍前の 2019 年度(3,760 億 7,778 万 円)に比べ 36.8%増と大幅に改善。2024 年度に入って からも好調を維持している。

 ※1:金(ゴールド)の小売価格は、地金商最大手の田中貴金属工業の公表数値
 ※2:日本百貨店協会の「百貨店売上高(商品別売上高)」より

そこで帝国データバンクでは、コロナ禍前後の貴金属・宝飾品業界を取り巻く環境や景気 DI(※3)の 動きを分析した。

 ※3:景気 DI は、TDB が算出する全国企業の景気判断を総合した指標。50 を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50 が判断 の分かれ目となる

◆貴金属・宝飾品業界の売上高推移(2019 年~2023 年)

帝国データバンクが保有する企業概要データベース「COSMOS2」 を元に集計した貴金属・宝飾品業界の売上高推移をみると、コロ ナによる経済活動の停止が影響した 2020 年は 9,186 億円と前年 比 8.6%減少した。しかし 2022 年以降は回復に転じ、コロナの感染症法上の位置付けが「5 類」へ移行した 2023年には 1 兆 2,046 億円と、コロナ禍前の 2019 年(1 兆 51 億円)を大きく上回った。

2023 年 4 月に訪日外国人に対する水際対策が撤廃されたこと によるインバウンド需要の急拡大や、コロナ禍収束にともなう国 内需要の復調に加え、金の価格高騰によるリサイクルショップの 好調やオリジナルブランドにおける EC サイト需要の高まり、コロナ禍で落ち込んだブライダル需要の回復などの好材料も売上 高の増加に寄与した。

 ※貴金属・宝飾品業界の売上高は、帝国データバンク企業概要データベース「COSMOS2」収録企業(2024 年 5 月時点)のうち、各年 1~12 月に迎えた決算の業績数値の合計。集計対象は、5 期連続で売上高が判明している 3,190 社(変則決算は除く)

貴金属・宝飾品 DI、改善傾向も全産業の景気 DI を下回って推移

帝国データバンクが毎月実施している TDB 景気動向調査で算出した貴金属・宝飾品 DI4(※4)の推移をみると、2020 年 4 月に緊急事態宣言が発出されたこ とで販売機会が激減し、同年 2Q(4~6 月)には全産業の景気 DI を 18.4 ポイ ント下回る 7.8 まで下落した。2021 年 9 月末に全対象地域の緊急事態宣言が 解除されたことで、同年 4Q(10~12 月)の全産業の景気 DI は 42.8 にまで回復したが、贅沢品である貴金属・宝飾品の販売回復は遅れ、同業界の景気 DI は 27.9 と、全産業の景気 DI を 14.9 ポイント下回った。

 ※4:貴金属・宝飾品 DI は、「貴金属製品製造」「貴金属製品卸売(宝石を含む)」「貴金属製品小売(宝石を含む)」などの景気 DI を 3 カ月移動平均で算出

しかし 2022 年 3 月にまん延防止等重点措置が終了し、経済活動が再開に向 かったことで、貴金属・宝飾品 DI の回復ペースは上がり、2023 年 1Q(1~3 月)に 38.4 まで回復。2023 年 4Q には 42.6 と過去最高を更新し、全産業の景気 DI(44.8)との差は 2.2 ポイント に縮小した。金の価格高騰、百貨店での「美術・宝飾・貴金属」の売上高が好調な一方で、2024 年 1Q の貴金属・宝飾品 DI は 41.3 にとどまり、全産業の景気 DI を下回る状況が続いている。

◆まとめ

円安による旺盛なインバウンド需要や客足増加で景況感が回復している一方で、地政学的リス クの高まりやインフレ傾向を背景に 2022 年から続く金やダイヤモンドなどの素材価格の高騰による仕入価格上昇が業績を圧迫している企業もあり、同じ業界の中でも為替相場やインバウンド需要の恩恵を受ける企業とそうでない企業で格差が生じているようだ。

今後については、過去に類をみない物価高騰の中、賃上げ効果を実感できるまでにはしばらく 時間を要する可能性があるため、購買の中心は外国人旅行者、富裕層、投資家などに限られ、全 体の底上げは期待できないだろう。また、相場価格の動向が経営に大きく関わってくるため、素材価格の高騰が損益面でのマイナス要因となるケースも考えられ、貴金属・宝飾品 DI は踊り場局面が続きそうだ。

20240607_貴金属・宝飾品業界の最新景況レポート.pdf

Contact Usお問い合わせ先

担当部署

株式会社帝国データバンク 情報統括部 TEL:03-5919-9341 E-mail: tdb_jyoho@mail.tdb.co.jp