レポート出版社の業績動向調査(2023年度)

「業績悪化」企業の割合は過去最大の66.1% 物流費の高騰が響く デジタルコンテンツの充実と海外展開が復活のカギに

2025/01/23
印刷・出版  倒産・休廃業

株式会社帝国データバンクは、2023年度の出版社の業績動向について調査・分析を行った。

<調査結果(要旨)>

  1. 「業績悪化」企業の割合が過去最大となる66.1%
  2. 出版社の価格転嫁率27.7%と全業種(44.9%)を大きく下回る
  3. 2024年の倒産、休廃業・解散は62件 コロナ禍前の水準に

<サマリー>

出版業界は現在、深刻な不況に直面しており、出版社の6割超が業績悪化に苦しむ。2024年には倒産および休廃業解散件数が62件発生し、コロナ禍前の水準に戻りつつある。この厳しい状況下で、今後はデジタルシフトと出版流通の効率化が焦点となる。大手出版社はIP(知的財産)ビジネスとデジタルコンテンツを駆使して海外市場への進出を加速させる。一方、中小出版社は市場ニーズに応えるなど、市場変化に対応するオリジナリティが求められよう。

■ 帝国データバンクが調査・保有する企業信用調査報告書ファイル「CCR」から、新聞発行を除く「出版社」に分類されており、かつ業績が判明している企業について調査・分析を行った
[注] 業績の集計対象期間は2023年度(2023年4月~2024年3月の決算期)
■ 「休廃業・解散企業」とは、倒産(法的整理)を除き、特段の手続きを取らずに企業活動が停止した状態を確認(休廃業)、もしくは商業登記等で解散(但し「みなし解散」を除く)を確認した企業の総称
■ 調査時点での休廃業・解散状態を確認したもので、将来的な企業活動の再開を否定するものではない。また、休廃業・解散後に法的整理へ移行した場合は、倒産件数として再集計する場合もある

2023年度の業績
過去最大となる66.1%が「業績悪化」

全国出版協会・出版科学研究所によると、2023年の紙と電子を合わせた出版物推定販売金額は1兆5,963億円(前年比2.1%減)で、2年連続の前年割れとなった。なお、2024年上半期も7,902億円(前年同期比1.5%減)にとどまった。出版業界の売り上げは、1996年まで拡大基調で推移していたが、1997年の消費税率引き上げ(3%→5%)により初の前年割れを記録し、その後はインターネットの普及や活字離れ、少子高齢化などにより縮小が続いており、出版業界の経営環境は深刻さを増している。

2023年度決算の損益状況が判明した出版社675社を分析すると、36.6%にあたる247社が「赤字」となり、構成比は過去20年で最大となった。さらに、前年度から「減益」(29.5%)となった企業を合わせた「業績悪化」の割合は66.1%に達し、過去最大を記録した。

コロナ禍での巣ごもり需要により、電子書籍などのデジタルコンテンツ需要が拡大したものの、書店での販売部数の減少を補うまでには至らなかった。さらに印刷用紙やインクなどの仕入れコスト、人件費、物流費といった各種コストの上昇も業績悪化に大きく影響し、特に雑誌媒体が大幅に落ち込んだ。また、「委託販売制度」(書店で売れ残ったものを定められた期間内であれば返品できる販売方法)を利用した返品率は3~4割超で高止まりしており、出版社の物流費や在庫負担増の要因となっている。

価格転嫁への動きも鈍い。帝国データバンクが2024年8月に発表した「価格転嫁に関する実態調査(2024年7月)」では、出版社の74.9%が価格転嫁率50%未満であると回答した。価格転嫁率は27.7%と全業種(44.9%)を大きく下回る結果となった。新刊本の価格転嫁は徐々に進んでいるものの、既刊本については価格転嫁が難しいというのが実情のようだ。

倒産件数もコロナ禍前の水準に
デジタルシフトや出版流通の効率化が焦点

2024年に発生した出版社の倒産および休廃業・解散件数は62件となった。2年連続で60件を超えており、政府の各種支援策によって抑制されていた発生ペースは、コロナ禍前の水準に戻ったことがうかがえる(図3参照)。企業からは、「印刷費の高騰や出版取次の仕入制限で業況は良くない」「書店の閉店に歯止めがかからず、返品も増えている」といった先行きを不安視する声が聞かれる。とりわけ雑誌の落ち込みが大きく、直近の動向を見ても、育児誌の先駆けである月刊誌「母の友」をはじめ、老舗鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」やライトノベル文芸誌「ドラゴンマガジン」が2025年に相次いで休刊となることが発表されており、紙媒体の出版物の減少に歯止めがかからない状況だ。

他方、電子出版は好調で、2023年の販売金額は前年比6.7%増、2024年上半期は前年同期比6.1%増と堅調に推移している。電子出版の約9割を電子コミックが占めており、アニメ化や実写化、ゲーム化などのコンテンツを通じて市場が拡大している。ただし、ヒット作の有無や違法コピーして作品を掲載する「海賊版サイト」による著作権の侵害などの問題もあり、各社はIP(知的財産)ビジネスやデジタル広告などの多角化戦略や著作権対策を強化している。 

紙媒体の出版物の低迷が続くなか、今後はデジタルシフトや出版流通の効率化が焦点となる。業界大手のKADOKAWAは、2025年1月にソニーグループと資本業務提携を締結した。IPビジネスを強化し、デジタルコンテンツを武器に海外市場への展開を加速させるなど、大手出版社では新たな市場の開拓が進められることが予想される。一方で中小出版社は、書店との関係性強化や、特色ある企画で読者ニーズに応えるなどの市場の変化に対応するオリジナリティが求められよう。

 近年の倒産事例

(株)ダイヤモンド・ビッグ社
旅行ガイドブック『地球の歩き方』を発行
当社は、(株)ダイヤモンド社の子会社として旅行ガイドブックの編集・出版を手がけていた。代表的なシリーズ『地球の歩き方』は高い知名度を誇り、他にも関連書籍やフリーペーパーを発行。2001年9月期には年売上高約112億6500万円を計上していた。
しかし、出版不況と新型コロナウイルスの影響で売上高が減少し、2020年3月期には約28億8500万円に落ち込んだ。2021年に出版事業は学研グループに承継され、2023年3月31日に解散が決議され、同年5月19日に東京地裁より特別清算開始命令を受けた。負債は約10億4977万円。

(株)マキノ出版
健康雑誌のパイオニア『壮快』、実用情報誌『特選街』を出版
当社は、1977年に設立された出版社で、『壮快』や『ゆほびか』『安心』『特選街』などの健康や美容、実用情報に関する雑誌を発行していた。特に『壮快』は売上高の約7割を占め、40~70代を中心に高い認知度を誇り、2004年2月期には年売上高約36億1800万円を計上していた。
しかし、インターネットの普及や活字離れ、購読者の高齢化により売上高が減少、『特選街』は2021年に休刊した。その後は再建を試みるも奏功せず、2023年3月に民事再生手続きを開始。主要誌と一部事業は別会社に譲渡されたが、残る事業のスポンサーは見つからず、2023年6月23日に東京地裁より破産手続き開始決定を受けた。負債は約15億7200万円。

 (株)柏艪舎(はくろしゃ)
海外作品の翻訳などで著名な出版社
当社は、2000年に設立された出版社で、小説・エッセイや写真集などを出版していた。新人作家の発掘や海外作品の翻訳出版にも力を入れ、北海道内で注目を集めていた。
しかし、インターネットの普及による活字離れや紙価格の高騰などで売上高が減少し、資金繰りが悪化。2024年1月期の年売上高は約439万円に落ち込み、2024年9月27日に札幌地裁より破産手続き開始決定を受けた。負債は約2億5800万円。

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