レポート短い秋の消費シーズンと消費の二極化~景気のミカタ~

2024/10/18
景気動向  コラム  消費

個人消費の鈍い動きが続いているが

今回の景気のミカタは、個人消費がわずかな改善にとどまり二極化傾向も表れてきたなか、実質賃金の動きが今後の景気動向を見極める最も重要な指標となることについて焦点を当てています。


9月の個人消費はわずかな改善にとどまった

秋が深まり、木々が紅葉に染まる季節になると、人びとの心にも新たな変化が訪れます。この季節は、消費者の購買意欲を刺激し、多くの業界で需要が高まる時期でもあります。しかし、現在の景気状況において、中小企業はどのようにこの秋を迎えているのでしょうか。

例年であれば、秋は、新学期や行楽シーズンの到来により、ファッション、食料品、観光など多くの分野で消費が活発になるでしょう。また、衣替えによる衣料品の需要増加や旬の食材を求める動きが顕著に表れてきます。中小企業にとっては、この季節特有のニーズを捉えることで売り上げ向上のチャンスが広がっていたはずです。

帝国データバンクの景気動向調査によると、個人消費に関して「小売業」と「個人向けサービス」における景況感を総合した2024年9月の“個人消費DI”[1]は43.6(前月比0.2ポイント増)となり、前月から微増にとどまりました(図表1)。


消費の動きは二極化進む、中小企業の創意工夫がいっそう重要に

実際に企業からは、これらを裏付ける多くの声が寄せられています。

プラスの影響を受けた企業からは、

  • 一般消費財の販売については、インバウンドも含め好影響が続いている(和洋紙卸売)
  • 連日の猛暑により空調機関連が好調(家庭用電気機械器具小売)
  • 完全にコロナの影響が消滅し、宿泊意欲が旺盛になっている(スポーツ施設提供)
  • 宿泊の客単価が上がってきている(旅館)

といった、高額品などを含め好調な声も多く聞かれます。

一方で、

  • お菓子は嗜好品のため買い控えの対象になりやすく、さまざまな食料品や主食である米価格の高騰による影響は小さくない(米菓製造)
  • 街に活気が戻ってきたが、物価高騰の長期化にともない節約志向が浸透しており、個々人の消費額が伸び悩んでいる(酒類卸売)
  • 洋服や化粧品に対しての購買意欲が低い(婦人・子供服小売)
  • 元々クリーニング業界は売り上げが減少傾向にあるなか、さらに各家庭の節約ムードが加わり、悪化している。また、なかなか涼しくならず、衣替えがスムーズに進まないことも売り上げ減少の要因となっている(普通洗濯)

など、事業環境の厳しさを訴える意見も少なくありません。

2024年9月の個人消費は、行楽シーズンを迎え宿泊や娯楽に対する支出は上向きましたが、猛暑関連需要のピークアウトや食料品、日用品の消費活動は悪化する結果となっていました。長引く猛暑による夏需要の後ろ倒しや、豪雨などの自然災害による外出機会の減少もその背景にあるでしょう。さらに、消費者物価が継続的に上昇するなかで、実質賃金の伸び悩みからはっきりと抜け出せない状況(図表2)では、家計支出を引き締めざるを得ないというのが実態ではないでしょうか。

中小企業がこの時期を乗り越えるためには、市場の変化に敏感に対応し、独自の強みを活かした戦略が必要となります。しかし、国内景気の回復には、日本の名目GDP(国内総生産)の5割以上を占める個人消費の活性化が欠かせません。そこでは、実質賃金が今後の景気動向を見極める最も重要な指標となっています。秋の風景が広がっていくなかで、地域経済を支える中小企業の努力と創意工夫が一層求められるでしょう。

[1] 個人消費DIは、「小売業」および「個人向けサービス業」を総合した景気DIで、個人消費関連全般の景況感を示す指標となっている。0~100の値をとり、50を上回ると景気が「良い」、下回ると「悪い」ということを表す


(情報統括部 情報統括課 主席研究員 窪田剛士)


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