レポート

非上場株式の株式流通の活性化やセカンダリー市場の拡充がなぜ必要なのか

~【日証協に聞く】新制度創設による仲介者参入で活性化に期待、特定投資家向けの「J-Ship」の活用状況は~

■SUMMARY

日本におけるスタートアップ育成を巡っては、資金供給の拡大が長年の課題とされてきた。2022年11月に政府が打ち出した「スタートアップ育成5カ年計画」では、2027年までにスタートアップへの投資額を10兆円規模へと拡大する目標が掲げられたが、日本のスタートアップ投資額は、2023年時点で対GDP比0.14%と、米国の0.49%に大きく水をあけられている。

その要因の一つとして指摘されているのが、資金調達の「出口」ともいえる非上場株式の流通市場、すなわちセカンダリー市場がほとんど存在してこなかった点である。

これまで日本のスタートアップは、非上場段階ではプライマリー市場での増資による資金調達に依存し、投資家にとってはIPOやM&Aまで投資資金を回収できない構造が続いてきた。ベンチャーキャピタル(VC)をはじめとする投資家が、非上場株式を途中段階で売却できる仕組みが乏しいことは、リスクマネー供給を抑制する要因となってきた。また、スタートアップ側にとっても、上場以外の選択肢を持ちにくい状況が、成長戦略や資本政策の柔軟性を制約してきたといえる。

こうした問題意識を背景に、金融庁や日本証券業協会(日証協)では、非上場株式の流通活性化に向けた制度整備を進めている。2025年5月施行の改正金融商品取引法では、「非上場有価証券特例仲介等業務」や「登録PTS制度」が創設され、仲介者の参入要件が緩和された。さらに、プロ投資家向けの資金調達制度である「特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)」の活用も進みつつある。スタートアップ支援の次なる焦点は、発行と流通の両輪をいかに機能させるかに移りつつある。

このレポートでは、日本証券業協会へのインタビューを通じて、なぜ今、非上場株式の流通活性化やセカンダリー市場の拡充が求められているのかを整理する。

まず、「スタートアップ育成5カ年計画」における投資額10倍、10兆円という数値目標や、日本と米国のスタートアップ投資額の対GDP比(日本0.14%、米国0.49%)といった具体的なデータを踏まえ、日本の資金供給構造の課題を確認する。そのうえで、シード期からレイター期まで各成長段階に応じた投資家の役割や、セカンダリー市場不在がもたらしてきた問題点を明らかにする。

さらに、2024年11月に創設された「登録PTS制度」や、2025年5月施行の「非上場有価証券特例仲介等業」など、新制度の内容と狙いを解説し、新規参入予定事業者の動きにも触れる。また、投資家保護の観点から、登録PTSでは勧誘対象を特定投資家に限定している点や、米国のATS制度との比較についても紹介する。

加えて、プライマリー市場における中核制度である「J-Ships」の仕組みと活用状況を取り上げ、2024年の調達総額が1,245億円に達し、そのうち1,077億円を投資信託が占めた点や、取扱協会員が2025年5月末時点で10社にとどまっている現状を整理する。VCによる持分譲渡ニーズ、IPO環境の変化、出口戦略の多様化といった論点も交えながら、非上場株式市場を巡る制度改革と市場関係者の期待を多角的に描き出していく。

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