レポート経営者の特徴を企業は反映するか?~年齢と資本集約性の意外な関係~

2018/11/01

ここがポイント

  • ポイント1

    「経営手腕の伸びは経営者がどの年代のときに、どの程度起きるのか?」を2012年から2017年までに従業員一人当たり売上高がどの程度伸びたかを見ることで検証した。

  • ポイント2

    年齢を経るごとの従業員一人当たり売上高の伸びしろは減っていく。ただし、標準以上の企業では伸びしろがマイナスになることはない。これは、経営手腕は年齢を経ても成長しつづけることを示唆している。

  • ポイント3

    データと回帰直線の比較からは、35~45歳、65~85歳世代の経営者は期待される以上の従業員一人当たり売上高の伸びを示していることが分かった。

  • ポイント4

    これらの世代のハイパフォーマー層経営者では、35~45歳の若年層では卸・小売、飲食店、サービス業などの労働集約的な業種、65~85歳の熟年層では建設業や製造業などの資本集約的な業種が多く見られ、対照的な結果が得られた。

1. はじめに:経営者が伸びるピークを明らかにする

企業のパフォーマンスに影響する要因は何だろうか?為替レートや景況感、市場の成熟度、どのような取引先とつながっているか(ネットワーク効果)など、さまざまなファクターがあるだろう1。本稿では、「経営者の特徴」を取りあげたい。一般論として、小規模企業では経営者がトップセールスであることも多く、中堅企業や大企業では企業業績に大きく関わる経営判断は経営者が関与することが多いであろう。これらから、経営者の特徴と企業業績に相応の関連があるだろうことは想像に難くない。

この経営者の特徴と企業業績との関連に関する議論を、ある程度の数的裏付けのあるレベルで行うには、経営者の特徴に関するデータと企業業績に関するデータを揃える必要がある2。日経ビジネス10月1日号では、この2種類のデータを駆使し、特に経営者の世代データ・出身校データを業種別にみていくことで、稼ぐピークは40代であることや、稼ぐ社長をもっとも輩出する大学が関西学院大学であることを明らかにした3。本稿では、これを受け、経営者の世代データをより詳しく見ていくことで、「経営者が伸びるピークはいつか?」を明らかにしたい。稼ぐピークが40代であるのとは対照的に、伸びるピークは45歳以下と65歳以降にあることが示される。

2. 稼ぐピークは40代

まず、稼ぐピークについて再度確認しよう。図表1は、経営者の年代と、各年代の従業員一人当たり売上高の中央値4との関係を示したものである5。従業員一人当たり売上高を指標に採用したのは、企業規模の影響に左右されるのを防ぐためだ。このデータからは、2017年データでは、従業員一人当たり売上高は、経営者の世代が進むにつれてなだらかに増加した後に減少し、ピークを迎えるのは経営者が「45~49歳」の企業だということが分かる。また、ピークでの一人当たり売上高は約2330万円であった。日経ビジネス記事では、さらに業種ごとに分けた分析を行い、建設業では経営者が「40~44歳」の企業でピークを迎えること、製造業では「40~44歳」と「55~59歳」と2つのピークがあり、「55~59歳」でより高いピーク(より高い一人当たり売上高)を迎えること、医療・福祉では「55~59歳」でピークを迎えるが、ピーク時の一人当たり売上高でも1280万円と全業種と比べて低い値であることが判明している6。

図表1 従業員あたり売上高の経年推移。2012年と2017年で同じ年齢区分を比較すると、5年間で従業員あたり売上高は上昇している。(出典:帝国データバンク作成)

5年さかのぼり、2012年についても見てみよう。全業種に対して経営者の年代と、各年代の従業員一人当たり売上高の中央値とると、2017年と同様、従業員一人当たり売上高が経営者の世代が進むにつれてなだらかに増加した後に減少し、経営者が「45~49歳」の時点でピークを迎えている。ただし、ピークの値は従業員一人当たり約2150万円であった。ほぼ全世代で、2012年からの5年間で従業員一人当たり売上高は増加していることも見て取れる。これは各企業の経営努力もさることながら、景気が長期回復傾向にあることとも無関係ではないだろうと思われる7。

3. 伸びるピークは45歳未満と65歳以上にある。

ここまでの分析では、2012年と2017年を比較するにあたり、各年での同じ年齢区分に属する企業を比較した。これは例えて言えば、「昭和の小学生と平成の小学生の平均身長を比べる」ことに相当している。時代背景の違いから生じる外部環境の違いが際立ちやすい比較法だ。

一方で、「団塊の世代の平均年収が1970年~2010年までにどのように推移したかを調べる」というアプローチもある。ある一時期に発生したグループが、時を経るにつれどのように発展するのかを見るのである。このようなアプローチはコーホート分析と呼ばれ、将来人口の推計などにも使われている8。分析対象のグループを固定して見ているので、個人や個社の成長を観察しやすいというメリットがある。

ここからは、コーホート分析的なアプローチをとり、「2012年から2017年までの5年間で、各世代がどれほど一人当たり売上高を伸ばしたか」を見ていきたい9。

図表2から図表4までをご覧いただきたい。2012年の経営者の年齢を横軸にとり、5年間での一人当たり売上高の伸びを縦軸にとったグラフだ10。一人当たり売上高の伸びの大小で経営者を「ハイパフォーマー」、「ミドルパフォーマー」、「ローパフォーマー」に区分して分析している。図表 2では各年齢でのハイパフォーマー経営者がどの程度一人当たり売上高を伸ばしたか、その代表値をグラフにしている。同じように、図表3と図表4では、それぞれミドルパフォーマーとローパフォーマーの代表値をグラフにしている11。


この3つのグラフからは4つのことが読み取れる。

  • ●右肩下がりであること:年齢が上がると5年間で伸ばせる一人当たり売上高が少なくなってゆく。この傾向はパフォーマンスの高低によらない。
  • ●グラフの右端の値がミドルパフォーマーとハイパフォーマーではプラスの値であること:平均以上のパフォーマンスの企業であれば、経営者が高齢であろうと、5年間で効率性そのものは上がっている。
  • ●グラフの傾きの大きさ:ハイパフォーマーでは経営者の年齢が1歳増えると一人当たり売上高の伸びが12万円減少する。一方で、ミドルパフォーマーとローパフォーマーでは経営者の年齢が1歳増えると、それぞれ3.7万円と2万円減少する。パフォーマンスが高い程、経営者の年齢が伸び幅に効いてくるといえる。
  • ●理論直線とのずれ:図表2から図表4に引いてある点線は、データの振る舞いをよく説明する理論直線である。その上側にある点は「理論から期待されるよりも一人当たり売上高の伸びが高い年代」と解釈できる。また、下側にある点は「理論から期待されるよりも一人当たり売上高の伸びが低い年代」である。このように読み解いた場合、45~60歳世代はパフォーマンスの高低によらず、理論から期待されるよりも伸びが低い。45歳までの世代は理論以上の伸びを見せており、65歳以降の世代では理論と同程度の伸びを見せているといえる。

当然2012年から2017年までの景気動向が長期回復基調であったことは考慮せねばならないが、以上の結果からは、一人当たり売上高の絶対量と伸びに相補的な関係があることがうかがえる。

図表2 ハイパフォーマンス層の年齢別一人当たり売上高の伸び(出典:帝国データバンク作成)

図表3 ミドルパフォーマンス層の年齢別一人当たり売上高の伸び(出典:帝国データバンク作成)

図表4 ローパフォーマンス層の年齢別一人当たり売上高の伸び(出典:帝国データバンク作成)

4. ハイパフォーマンス企業の特徴:世代によって異なる資本集約性

では、前節で抽出された「期待されるよりも一人当たり売上高を伸ばしている経営者」はどのような傾向があるのだろうか?統計データからその人物像を明らかにしよう。

対象としたのはハイパフォーマーに属する35~45歳の経営者と65~85歳の経営者だ。ハイパフォーマーといっても伸び幅は外れ値も含め多岐に渡るため、理論直線近傍の経営者を分析対象とした。具体的には35~45歳では一人当たり売上高の伸びが11~13(百万円/人)の経営者(図表5)、65~85歳では8~10(百万円/人)の経営者(図表6)が対象である。

図表5 経営者の年齢が35~45歳、一人当たり売上高の伸びが11~13(百万円/人)の企業の企業数分布(出典:帝国データバンク作成)

図表6 経営者の年齢が65~85歳、一人当たり売上高の伸びが8~10(百万円/人)の企業の企業数分布(出典:帝国データバンク作成)

図表5からは「売上高5~10億円の卸・小売業、飲食店の企業」が21社あり、最も企業数が多く、全体の14.3%を占めている。一方、経営者の年齢が35~45歳の全データでは同カテゴリーは約7.5%となっており、ハイパフォーマー層では約1.9倍となっている。

また、業種で見た場合特徴的なのは、製造業の少なさとサービス業の多さである。ハイパフォーマー層では製造業企業の割合が13.6%、サービス業企業の割合が18.4%であるのに対し、同世代の全データでは製造業企業の割合が19.1%、サービス業企業の割合が15.8%であった。サービス業の内訳をみると、広告制作やソフト受託開発など、資本投下が少なくて済む、労働集約的な企業が散見され、35~45歳の層では、資本投下量の少なさが効率性のカギを握っているといえそうだ。

図表6でも「売上高5~10億円の卸・小売業、飲食店の企業」が51社あり、最も企業数が多く、全体の6.9%を占めている。一方で、経営者の年齢が65~85歳の全データでは同カテゴリーは約6.9%となっており、ハイパフォーマー層と全データで違いがない。

また、業種で見た場合、全体データとの乖離が見られたのは建設業だった。ハイパフォーマー層では全体に占める建設業の割合が18.6%であるのに対し、同世代の全データでは15.8%であり、ハイパフォーマー層が約3ポイント高い。

製造業に注目すると、図表 6で製造業の占める割合は28.5%だが、これは65~85歳の全データでの製造業の占める割合27.7%と0.8ポイントの差だ。35~45歳の層では、3ポイントの差であったから、65~85歳では全データとハイパフォーマー層で比較的違いがないといえる。

このように、65~85歳のハイパフォーマー層では、特徴的な業種は建設業であった。また、35~45歳のハイパフォーマー層の結果と比較すれば、製造業も特徴的であるといえる。これらは一般に資本集約性の高い業種だ。若い世代では労働集約的であることがハイパフォーマンス層の特徴であるのに対し、熟年世代では資本集約的であることがハイパフォーマンス層の特徴であるという対照的な結果が示唆された。

長期スパンでは、就業者人口の多い産業は第1次産業から第2次産業、第3次産業へと推移する(ペティ=クラークの法則12)。ハイパフォーマー層の業種分布の世代間の違いにも、この傾向が現れているように思われる。すなわち、数十年スパンで産業構造は変化しており、その各時点での産業構造の「断面」を、対応する世代の経営者の業種分布が反映しているという捉え方である。このように捉えると、各世代には基盤となる産業構造があり、その中でのハイパフォーマー層の分布を見ていることになる。それゆえに世代ごとに資本集約性や労働集約性に違いがある業種が現れるという解釈が可能になる。もちろん、同世代のハイパフォーマー層と全体データでの業種分布には若干の違いがあるので、業種分布には世代効果とハイパフォーマー層特有の効果が混じっている。この解釈が正しいかどうかは今後の研究が必要であろう。

5. まとめ

本稿では、「経営者は5年間でどれほど効率性を伸ばせるか?」という問題を、経営者の年齢ごとに分析した。効率性そのもので見た場合とは相補的に、45歳以下や65歳以上の世代が効率性を期待以上に伸ばしており、その陰には意外にも世代効果の存在が示唆された。いかにハイパフォーマンスな経営者が自由な意思決定を行おうとも、世代の束縛からは逃れられないのである。

本レポートでは紙面の都合上、景況感などの外部環境要因については正確な取扱いはできなかった。今後より一層理解を深めていきたい。

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1.企業成長に関する総合報告として、例えば以下のものがある。Alex Coad. The Growth of Firms: A Survey of Theories and Empirical Evidence. Edward Elgar Publishing, 2009.
2.この分析の土台となっている経営者の特徴に関するデータは、企業間信用取引が発達している日本であるからこそ、信用調査の一環として収集されてきたデータであることを付言しておきたい。
3.中沢康彦, 山田宏逸, 庄司容子. 日本企業の新事実. 日経ビジネス. 2018, (10月1日号).
4.中央値とはデータを小さい順から並べた際の中央に位置する値のこと。平均値に比べ、極端な値の影響を受けにくい量であるため使用した。
5.分析にあたっては、帝国データバンク企業概要データベース「COSMOS2」の2018年1月現在のデータと2018年1月現在のデータを使用した。ただし、「金融業」と「公務」に関するデータは除いている。
6.脚注3。
7.内閣府作成の景気動向指数(外れ値処理なしのCI指数・一致指標)では、2010年のCI指数を100としたときに、2012年1月の値は107.0、2017年1月の値は113.6であった。景気動向が良好であったことがうかがえる。http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di.html
8.半澤誠司ほか編. 地域分析ハンドブック: Excelによる図表づくりの道具箱. ナカニシヤ出版, 2015.
9.分析にあたっては、前節と同じく、帝国データバンク企業概要データベース「COSMOS2」の2018年1月現在のデータと2013年1月現在のデータを使用した。ただし、「金融業」と「公務」に関するデータは除き、かつ企業コードと経営者氏名がデータ間で一致しているもの62,854社のみを分析対象としている。これは、この5年間で経営者が変わらなかったとみなせるデータをのみを分析対象としていることになる。
10.35~85歳までを対象としている。これは100社以上の企業データが集まる年齢を対象としたためである。
11.ハイパフォーマー・ミドルパフォーマー・ローパフォーマーの代表値として、それぞれ一人当たり売上高の伸びに関する統計データの上側25%点、中央値、下側25%点を用いた。
12.日本では2005年現在、第1次産業の就業者比率は4.8%、第2次産業は26.1%、第3次産業は67.2%である。一方、戦前から戦後まもなくは、第1次産業の就業者がほぼ半数を占める農業国であった。山田浩之, 徳岡一幸編. 地域経済学入門. 新版, 有斐閣, 2007.

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