大和
2009年8月1日、若田光一さんが宇宙から帰還した。国際宇宙ステーション(ISS)における日本人初の4カ月半に及ぶ長期滞在の任務を完了しての見事な帰還で、地元ヒューストンでの歓迎ぶりも日本で大きく報道された。政治・経済など社会全般で閉塞感漂う日本にとって、地上に降り立ったその満足感溢れる笑顔は、とても明るいニュースとして印象的であった。
これまで宇宙開発は多数の紆余曲折を経てきた。ISSにはアメリカを中心に莫大な開発費が投じられており、その予算や冷戦構造の崩壊、スペースシャトルの事故などによって計画変更や延期などを繰り返してきた。スペースシャトルの運用は2010年に終了する予定であり、新たな宇宙船の開発計画が進んではいるものの、いまだ流動的な部分も多い。今後も予定どおりにはいかない可能性が高い。
しかし、ここで見切りをつけるには早すぎる。今回、ようやく日本の実験棟「きぼう」が完成したことで、今後は流体物理実験や細胞培養実験など科学実験や技術開発などを実施していく予定である。特に、生命や環境分野における研究は、人類の未来に大きな希望を与える可能性も十分にある。
人は宇宙の視点を持って初めて地球全体のことに思いが及ぶという。県政を担う県会議員は出身市町村、国政を担う国会議員は出身都道府県の利益を考慮し、国の代表は自国の利益を優先的に行動する構図を考えれば、地球が直面する問題や課題に真剣に向き合うためには、宇宙に視点を持つ意義は少なくない。
若田さんは帰還直後の記者会見で、「ハッチが開くと草の香りが入ってきた。優しく地球に迎えられたようだった」と語った。
21世紀は、急成長を遂げた20世紀の負の遺産を精算する世紀とも言われる。しかし、同時に環境分野を契機とした新たなパラダイムシフトも起こり得る。21世紀は、緑溢れる地球のもと、人類の永続的な繁栄の礎を築く世紀になるように感じる。
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