レポート仕入単価の上昇に関する分析(2)

仕入単価から販売単価への転嫁状況は業種によって明暗 ~ 足元では石油関連の業種の仕入単価が大きく上昇 ~

2021/11/23
景気動向

杉原翔太

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2020年以降、ロサンゼルス港などを中心に、コンテナ不足の影響が続いている


2021年10月のTDB景気動向調査によると、景気DIは41.5(前月比1.6ポイント増)と2カ月連続で改善。緊急事態宣言などの人流抑制策が2021年9月で解除され、小売や個人向けサービスなどの個人消費関連が大きく上向いた。一方、原油などの資源価格の高騰、半導体や木材、鉄鋼などの材料不足が長期化するなか、国内企業の仕入単価の変化を表す仕入単価DIは65.7(同2.3ポイント増)と2020年以降上昇傾向が続いている(図1)。企業の販売単価の変化を表す販売単価DIも、54.1(同1.1ポイント増)と上昇しているがその上昇幅は仕入単価DIと比べると小さい。販売単価への転嫁のスピード以上に、仕入単価の上昇は勢いを増している。



【図1 仕入単価DIと販売単価DIの推移】

  1. ガソリンスタンドなど石油関連の仕入単価が急上昇、鉄鋼・木材も高水準が続く




    2021年10月のTDB景気動向調査の結果をもとにして、業種細分類別に仕入単価DI・販売単価DIを確認した(表1)。原油価格が足元で上昇しているなか、10月は石油関連の業種の仕入単価DIに大きく影響が表れた。特に、ガソリンスタンド(87.1、前月比14.0ポイント増)や燃料小売(85.6、同7.8ポイント増)、石油卸売(82.2、同10.8ポイント増)などの業種で仕入単価DIが前月から大幅に上昇し、80を上回る水準となっている。
    企業からは「新型コロナウイルスの影響は徐々に収まってきているが、原油価格の高騰および円安により石油製品の仕入単価が上昇しており、販売単価にどれだけ転嫁できるか難しい局面である」(石油卸売)、「度重なる仕入単価の上昇分を転嫁しきれていない。また、値上げによって消費者の購買量の減少がみられる」(ガソリンスタンド)といった声があげられた。足元での原油価格の上昇に加え、円安の影響も相まって仕入単価が大きく上昇している。
    さらに、鉄鋼卸売(81.4、同1.7ポイント増)や非鉄金属卸売(80.4、同7.6ポイント増)、木材・竹材卸売(80.7、同2.6ポイント増)も80を超える水準となった。「コンテナ不足、船不足、運賃高騰など悪い状況が重なっている。便が確保できないことから、輸出が順延されている」(木材・竹材卸売)など、商品の仕入れだけでなく出荷のために必要となるコンテナ不足などの課題も2020年以降、依然として続いている。

    【表1 業種別の仕入単価DI(2021年10月)】

  2. 販売単価への価格転嫁は、業種によって明暗がわかれる




    多くの業種で仕入単価が大きく上昇している一方で、販売単価への転嫁は業種によって明暗が分かれている。ガソリンスタンド(80.1、前月比13.4ポイント増)、石油卸売(72.2、同5.5ポイント増)、鉄鋼卸売(75.3、同1.9ポイント増)、一般製材(78.6、同1.3ポイント増)といった業種では販売単価DIも高水準にあり、販売単価への転嫁も進んでいる。レギュラーガソリンなどの石油製品の店頭小売価格は2021年に入り上昇傾向が続いている。また、新設住宅着工戸数も新型コロナウイルスの影響で大幅に減少した2020年から持ち直しつつあるなか、木材・竹材卸売や一般製材などの販売単価DIも高水準にある。企業からは、「ウッドショックがあったなか、依然として住宅産業は堅調に動いている」(木材・竹材卸売)といった声もあがっている。

    一方で、東京五輪・パラリンピック後で建設需要の減退がみられる鉄骨工事(52.8、同0.5ポイント増)や自動車工場の減産の影響が及んでいる製缶板金(56.9、同1.7ポイント増)といった業種では、仕入単価と販売単価の差が大きく販売単価への転嫁が進んでいない。「案件の復調の兆しは見えてきたが仕入単価の高騰や受注金額の買いたたきなどの理由から、薄利で数量をこなす必要があり、利益として残りづらい状況」(鉄骨工事)や「足元の受注は獲得できているが、コネクタやワイヤーハーネス、樹脂などのメーカーにとって必須物資の品薄感が顕在化し、生産停止や大幅な納期スライドをよく耳にする様になった」(製缶板金)といった声がみられる。

  3. まとめ




    多くの業種で仕入単価の上昇が続くなか、10月は特にガソリンスタンドなど石油関連の業種で仕入単価DIが大きく上昇。また、鉄鋼や木材関連の業種でも仕入単価DIは依然として高水準が続いている。国内の景況感は徐々に回復しているものの、資源高や材料不足により仕入単価の上昇が続きその上昇分を販売単価へ転嫁できなければ、再び悪化に転じることが懸念される。

    一方で、仕入単価が上昇している企業でも販売単価に転嫁できている企業では収益力の悪化は軽減されているとも考えられる。そうした企業の設備投資意欲DIを算出したところ、全体の設備投資意欲DIと比べて高い傾向がみられた(図2)。販売単価への転嫁状況は業種によって明暗が分かれているが、そうしたなかでも高い販売単価を設定できている企業、つまり収益力を維持できている企業では、設備投資意欲がより高まってきているとみられる。

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