レポート

TDB景気動向調査2025年11月(近畿ブロック:滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山)

■近畿ブロック

今月の景気DI

前月比

今月の特徴

43.2

-0.1

高市首相就任に伴う急回復の反動で微減

・概況

『近畿』の景況感は足踏み状態が続いている。企業からは、高市首相の経済政策への期待が高まっている様子がうかがえるが、その一方で円安の進行や利上げ観測に加え、中国政府による対日政策への警戒感も急速に強まっている。先行き見通しDI(規模別)は、「大企業」「中小企業」ともに悪化したが、「3カ月後」の悪化幅は「大企業」の方が大きく、「1年後」の悪化幅は「中小企業」の方が大きい。当面は足踏み状態が続く可能性が高いが、中長期的には「中小企業」への影響が広がるリスクが示唆される。

・景気DI

『近畿』は前月比0.1ポイント減の43.2と、2カ月ぶりに悪化した。10月の高市首相就任に伴う急回復の反動が「奈良」などで出たうえ、その後の円安進行、中国政府による日本への渡航自粛勧告の影響が押し下げ材料となり、6カ月連続で改善した全国(44.1、同0.2ポイント増)とは対照的な結果となった。

・規模別DI

日中関係の亀裂に敏感に反応した「大企業」(前月比0.9ポイント減)が2カ月ぶりに悪化した一方、「中小企業」(同0.1ポイント増)は2カ月連続で改善。規模間格差は5.9ポイントに縮まったが、6カ月連続で5ポイントを上回る水準にある。なお、「小規模企業」(同0.5ポイント増)は4カ月連続で改善した。

・業界別DI

10業界中8業界が悪化。公共工事の発注遅れが聞かれる『建設』をはじめ、日中関係悪化に伴いインバウンド動向が変化した『サービス』『不動産』が悪化。『卸売』には円安の影響がじわりと生じた。4カ月ぶりに悪化した『小売』では、繊維・アパレル分野が伸び悩んだ。他方、『製造』は8カ月ぶりに40台に回復した。

・先行き見通しDI

「3カ月後」(前月比0.5ポイント減)は2カ月ぶりに悪化。「6カ月後」(同0.9ポイント減)、「1年後」(同0.6ポイント減)は4カ月ぶりに悪化した。先行き警戒感が強まっており、府県別では「大阪」「京都」「兵庫」、業界別では『金融』『建設』『不動産』『卸売』『サービス』で3指標がいずれも悪化した。

■大阪府

今月の景気DI

前月比

今月の特徴

43.1

-0.7

日中関係悪化懸念もあり、2カ月ぶりに悪化

・概況

新政権の政策に揺れ動く月となった。ガソリン暫定税率廃止に伴う補助金拡大の恩恵を受ける『運輸・倉庫』は改善。一方、高市首相の「台湾有事」発言により、日中関係が急変する事態が発生し、企業マインドは急速に冷え込む結果となった。また、「責任ある積極財政」の影響を受け、為替は円安基調へ。物価高が続くなかでの価格転嫁もあいまって、個人消費は低迷している。日中関係悪化を受け、すでに観光業や水産業では直接的な影響が出ており、先行きについても不透明感が強く、景気は当面、足踏み状態が続く可能性が高い。

・景気DI

「大阪」は前月比0.7ポイント減の43.1と、2カ月ぶりに悪化した。高市首相の発言で政治・経済が揺れ動くなか、円安に伴う物価高の影響を受け個人消費が停滞。全国(44.1、同0.2ポイント増)との格差(大阪-全国)は今年最大となる▲1.0ポイントまで拡大。都道府県別順位は16位から23位へ後退。

・規模別DI

高市首相の「台湾有事」発言を受け、日中関係悪化懸念が浮上し、「大企業」(前月比0.8ポイント減)、「中小企業」(前月比0.6ポイント減)とも2カ月ぶりに悪化した。規模別格差は7.5ポイントと、依然として高水準にある。なお、「小規模企業」(同0.2ポイント減)は4カ月ぶりに悪化した。

・業界別DI

9業界中7業界が悪化した。万博閉幕でインバウンド消費が剥落した『小売』の悪化が目立った。『サービス』では娯楽や教育分野で個人消費が停滞。住宅や公共工事分野の受注が弱い『建設』も4カ月ぶりに悪化した。『製造』では、紙分野がコロナ5類移行で過去最低を記録。一方で、『運輸・倉庫』は大きく改善した。

・先行き見通しDI

日中関係悪化の長期化が懸念され、「3カ月後」、「6カ月後」、「1年後」すべてで悪化した。業界別では『金融』『建設』『不動産』『サービス』、規模別では「大企業」「中小企業」ともに先行き3指標が悪化した。一方で、『製造』『小売』の「1年後」、『運輸・倉庫』は3指標すべて改善した。

■京都府

今月の景気DI

前月比

今月の特徴

42.7

0.9

3カ月ぶりの改善も物価高を懸念する声が根強い

・概況

「京都」の景気DIは3カ月ぶりに改善した。「インバウンド増加」(旅館・ホテル)、「軽油価格の値下げ」(小売)といったプラス面の意見が聞かれる一方、「円安による輸入コスト上昇」(金融)、「建設費高騰による計画見直し・中止」(サービス)といった物価高を懸念する声が依然として根強い。また、日中関係の悪化が新たな懸念材料として浮上し、観光業界や中国向け輸出ビジネスへの影響は否定できず、景況感は足踏み状態が続くだろう

・景気DI

「京都」の景気DIは、前月比0.9ポイント増の42.7に改善した。『近畿』の順位は4位(前月5位)、都道府県別の順位は27位(同31位)となり、いずれも上昇した。『全国』(44.1)との格差は▲1.4ポイント(前月は▲2.1ポイント)に縮小したが、12カ月連続で『全国』を下回った。

・規模別DI

「大企業」は48.4(前月47.5)、「中小企業」は41.7(同40.8)、「小規模企業」は40.7(同39.1)となり、全規模で改善、「小規模企業」は7カ月ぶりに40を上回った。規模間格差は6.7と前月比横ばいとなったが、依然として格差は大きい。

・業界別DI

『金融』『不動産』『小売』が悪化したが、『運輸・倉庫』『製造』など5業界が改善した。『不動産』が3カ月連続で50を、『製造』が9カ月ぶりに40を上回ったが、『卸売』は13カ月連続、『小売』は9カ月ぶりに40を下回った。

・先行き見通しDI

「3カ月後」43.9(前月44.5)、「6カ月後」44.2(同45.3)、「1年後」44.7(同45.5)となり、全期間で前月を下回った。『運輸・倉庫』は全指標で改善見通しだが、『金融』『建設』『不動産』は全指標で悪化見通し。規模別は全規模の全期間で悪化見通し、先行きを不安視する企業が増加している。

■兵庫県

今月の景気DI

前月比

今月の特徴

44.1

0.8

3カ月連続の改善

・概況

「兵庫」の景気DIは3カ月連続の改善となった。「液晶業界、半導体業界ともに活発である」(製造)といった声など製造業の回復がより顕著で、高市政権による17分野の成長戦略に期待する声が多かった。他方、「中国の旅行規制による観光業への影響」(サービス)をはじめ水産物の輸入規制やレアメタルの輸出規制など中国による対日政策の影響を懸念する声も少なくなかった。今後は、中国の対日政策の動向と影響に加え、上昇傾向の金利や為替の動向、さらに冬物・年末商戦への個人消費動向などが注目される。

・景気DI

「兵庫」の景気DIは前月比0.8ポイント増の44.1で3カ月連続の改善となった。前年同月比でも1.6ポイント上回った。全国順位は13位(前年同月29位)。『全国』は前月比0.2ポイント増の44.1で6カ月連続の改善、『近畿』は同0.1ポイント減の43.2で2カ月ぶりの悪化となった。

・規模別DI

「大企業」は前月比1.4ポイント減の48.6で2カ月ぶりの悪化となった。「中小企業」は同1.0ポイント増の43.4、うち「小規模企業」は同0.4ポイント増の40.6となった。規模間格差は5.2ポイント(前月7.6ポイント)と前月比で2.4ポイントの縮小となった。

・業界別DI

10業界中5業界で改善となった。『製造』は前月比2.7ポイント増の43.5で2カ月連続の改善。『小売』は、同1.9ポイント増の40.0で2024年7月以来1年4カ月ぶりに40台を回復した。他方、『運輸・倉庫』は同2.5ポイント減の46.4で4カ月ぶりの悪化となった。

・先行き見通しDI

3カ月後は前月比0.1ポイント減、6カ月後は同1.3ポイント減、1年後は同0.7ポイント減と全指標で悪化。業界別では『建設』『卸売』『運輸・倉庫』『サービス』の4業界で全指標悪化。他方、『製造』は全指標で改善だった。規模別では「大企業」で全指標悪化となった。

■滋賀県

今月の景気DI

前月比

今月の特徴

45.2

0.7

2カ月連続で改善し、近畿ブロック内順位は1位を堅持

・概況

「滋賀」の景気DIは前月比0.7ポイント改善した。企業からは「土地や建築資材の高騰で高所得者しか新築戸建て住宅を購入できない」(木造建築業)などの声がある一方、「小規模の民間リフォーム工事の引き合いが漸増傾向にある」(内装工事業)、「国スポ・障スポが今年開催されたため、競技施設、学校教育施設や道路整備が多岐にわたり発注され、公共投資が多かった」(専門サービス業)などの声が聞かれるが、今後において滋賀県の景況感上昇につながる施策に乏しい面は否めず、動向について楽観視は出来ない状況にある。

・景気DI

「滋賀」の景気DIは45.2と前月比0.7ポイント改善した。業界別では改善が4業界、悪化が3業界、横ばいが1業界となった。近畿ブロック内の2府4県別順位は1位を維持したなか、全国においては11位(前年同月は10位)となった。

・規模別DI

「中小企業」が45.2と同1.0ポイント改善したなか、「大企業」が44.9と前月比1.5ポイント、「小規模企業」は44.7と同1.0ポイント悪化した。また、「中小企業」は2カ月ぶりに「大企業」を上回った。

・業界別DI

前月と比較可能な8業界中4業界で改善、1業界で前月比横ばい、3業界で悪化した。『農・林・水産』『建設』『小売』が悪化した一方で、『卸売』『運輸・倉庫』が大幅に良化した。

・先行き見通しDI

「3カ月後」が45.3(前月45.7)、「6カ月後」が45.2(前月45.2)、「1年後」が45.5(前月46.9)だった。観光需要や消費マインドの持ち直しで改善傾向が見られる一方、人手不足や資材高騰などコスト増が重荷となり、先行きは緩やかな回復にとどまるであろう。

■奈良県

今月の景気DI

前月比

今月の特徴

41.3

-2.5

前月比2.5ポイント悪化

・概況

奈良の景気DIは前月から2.5ポイント悪化し41.3となった。人件費や資材の高騰を背景に利益圧迫を苛まれる企業が多いほか、人手不足が悪影響を及ぼしている。また、県内の公共工事も減少基調にあるが、中長期的には高市総理の経済政策などに対し、期待が寄せられる声もあった。

・景気DI

奈良の景気DIは前月から2.5ポイント悪化し41.3となった。都道府県別順位は38位と前月の16位から下降。近畿では滋賀、京都、兵庫、和歌山が前月比で改善したが、大阪、奈良は前月から悪化した。近畿は前月比0.1ポイント悪化し43.2、全国では同比0.2ポイント改善し44.1となった。

・規模別DI

「大企業」は45.2と前月と変わらなかったが、「中小企業」は40.8と同2.9ポイント、「小規模」は39.4と同1.5ポイント、それぞれ悪化した。なお、規模間格差(「大企業-中小企業」)は4.4と前月の1.5から2.9ポイント拡大している。

・業界別DI

『不動産』(40.4)は前月比3.3ポイント、『サービス』(50.0)は同4.2ポイント改善した。一方、『建設』(43.3)は前月比8.8ポイント、『製造』(36.5)は同1.3ポイント、『卸売』(45.0)は同8.0ポイント、『小売』(36.7)は、同0.8ポイント悪化した。

・先行き見通しDI

3カ月後は43.1(前月44.6)、6カ月後は46.2(同45.6)、1年後は45.6(同45.1)で、短期的には悪化、中長期的には改善見通しとなった。ただし、中長期での改善ポイント幅も0.6ポイントまでに留まっており、現状の不況感を背景に期待値は低いとみられる。

■和歌山県

今月の景気DI

前月比

今月の特徴

41.6

0.8

2ヵ月ぶりに改善

・概況

「和歌山」は前月比0.8ポイント増の41.6と2ヵ月ぶりに改善した。飲食料品の値上げによる物価高を背景に節約志向が高まり、1点単価は上昇しているものの、買い上げ点数は減少しているようだ。和歌山市のプレミアム付商品券「わかやまペイ」も10月末で終了し、消費動向はやや活気に欠ける。企業の収益動向も価格転嫁により売上は前年並みや増収を確保するものの、仕入高や人件費の上昇により、「増収減益」にとどまる企業が多い。和歌山県のDIは2ヵ月ぶりに改善したものの、当面は引き続き一進一退の動向が続く可能性が高い。

・景気DI

「和歌山」は、前月比で0.8ポイント増の41.6と2ヵ月ぶりに改善した。ただ、一進一退状況が続いているほか、『全国』(44.1)と『近畿』(43.2)を下回った。

・規模別DI

「大企業」が前月比6.9ポイント減の37.5、「中小企業」が同1.8ポイント増の42.1と「中小企業」は改善したものの、「大企業」の悪化幅が大きかった。「大企業」のDIが40ポイントを下回っている状況は懸念材料である。

・業界別DI

『建設』(46.2)や『卸売』(38.9)、『小売』(27.8)は前月比で悪化した一方で、『運輸・倉庫』(50.0)は横ばい、『サービス』(42.6)、『製造』(38.1)は前月比で改善した。

・先行き見通しDI

3カ月後が45.9(前月42.5)、6カ月後が47.0(同44.0)、1年後が46.6(同45.3)となった。足元のDIは一進一退ながらも、見通しに関しては前向きなスタンスが多くなっている。

「近畿ブロック(2025年11月)」の詳細(近畿ブロック:滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山)