レポート

景気は上向き、経営はまだら模様?好景気と言いにくい三つの理由

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

景気のトレンドが、ようやく上を向き始めました。帝国データバンクの「TDB景気動向調査」によると、2026年8月の景気DIは前月比1.0ポイント増の44.6となり、4カ月連続で改善しています[1]。10業界中8業界、10地域中9地域が上向き、大企業だけでなく中小企業や小規模企業にも持ち直しが広がりました。数字だけを見れば、少し明るい秋を期待したくなります。

ただし、「好景気がやって来た」と祝杯を挙げるには、まだ少々気が早そうです。景気判断の良否の分かれ目となる50には届いていません。さらに、大企業のDIが48.7であるのに対し、中小企業は43.9、小規模企業は41.9にとどまります。景気は上向いていても、その勢いは企業によって異なるのです。

数字の改善を実感しにくい背景とは

第一の理由は、売り上げの回復と利益の回復が同じではないことです。8月調査では売り上げの持ち直しが景況感を押し上げた一方、仕入単価の高止まりや人手不足は引き続き重荷となりました。物価高の局面では、値上げだけでも売り上げは増えます。しかし、原材料費や人件費、物流費などがそれ以上に膨らめば、利益は細ります。売り上げは会社の体格を示しますが、利益は体力を映します。体格が大きくなっても、息切れしている会社はあるわけです。

第二の理由は、景気回復をけん引するAI・半導体需要の恩恵が、企業に均等に届かない点です。8月は半導体、AI・データセンター、自動車関連の受注増が製造業を押し上げ、電気機械や輸送用機械の景気DIは50台となりました。情報サービスでも、AI・DX関連需要が追い風となっています。

波及先は半導体メーカーだけにとどまりません。製造装置や電子部品、素材から、データセンター建設、電力設備、空調、物流、保守、警備まで、幅広い産業への広がりが期待されます。一方、こうした商流に入れない企業では、需要拡大を取り込めず、むしろ機器価格や電力費、人件費の上昇というマイナス面の影響を受けてしまいます。

そこに第三の理由である金利上昇が重なります。9月1日には、長期金利の代表的な指標である新発10年国債利回りが一時3%台に乗せ、約30年ぶりの水準となりました[2]。もちろん、中小企業の借入金利が直ちに同じ水準になるわけではなく、引き上がるまでには時間差があり、影響も借入条件で異なります。それでも、長期の固定金利融資や借り換え、設備投資の採算を測る「お金の物差し」が変わったことは確かです。

8月の景気動向調査でも、長期金利の上昇が設備投資や住宅投資の重荷となることを挙げています。借入金が多く、利益率の低い中小企業では、金利負担の増加が投資余力を奪いかねません。住宅需要の鈍化や取引先による投資手控えを通じて、受注に響く恐れもあります。金利負担は原材料費や人件費と比べ、販売価格へ直接転嫁しにくい、少々やっかいなコストなのです。

追い風と向かい風が分ける企業の明暗

AI需要という追い風と、金利上昇という向かい風。この二つが企業間の景況感格差を広げる可能性があります。AI需要を取り込んで投資を加速できる企業がある一方、金利負担から投資を控える企業も出てくるでしょう。前者は成長力を高めやすく、後者は回復が遅れる可能性があります。いわばK字型の回復です。その怖さは、二つの線が分かれることより、時間の経過とともに両者の間隔が広がることにあります。

景気の矢印は確かに上向きです。しかし、2026年秋の景気は、皆が同じ箱に乗って浮上するエレベーター型ではありません。上りと下り、二つのエスカレーターが並ぶ景気です。さて、自社が立っているのは、どちらでしょうか。


[1] 帝国データバンク「TDB景気動向調査-2026年8月調査-」(2026年9月3日発表)
[2] 共同通信「長期金利上昇、3.005%に」(2026年9月1日17:48配信)

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