レポート

経営者の新NISA活用 「個人版の資本配分」という視点

情報統括部 情報統括課
中村駿佑

2024年に始まった新NISAの利用が広がっています。金融庁によると、2025年12月末時点のNISA口座数は約2,821万口座となり、前年末から約262万口座増加しました[1]。また、2025年中の新規買付額は、成長投資枠とつみたて投資枠を合わせて約18兆7,000億円に上っています。新NISAは、一部の投資家だけが利用する制度ではなく、幅広い層の資産形成を支える仕組みとして定着しつつあります。

 

特に、経営者が投資を行う際には、一般的な家計の資産形成だけでなく、事業との関係も踏まえて考えることが大切といえます。企業経営では、手元資金をすべて設備投資や新規事業に振り向けることはありません。日々の運転資金を確保し、不測の事態に備えながら、将来の成長に向けて資金を配分するため、こうした判断は日常的なものでしょう。

 

ところが、いざ新NISAによる資産形成を考える段階になると、「投資枠をどこまで使うか」「どの商品を選ぶか」といった点に関心が向きやすくなります。新NISAでは、つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠が年間240万円で、非課税保有限度額は合計1,800万円となっています。ただし、これらは利用できる上限であり、必ず使い切るべき目標ではありません。

 

まず確認したいのは、投資枠の大きさではなく、手元の資金をどのような目的で、いつ使う可能性があるのかです。家族の生活費や納税資金、教育費、住宅関連費用など、近い将来に必要となる資金は、投資とは分けて確保しておく必要があります。さらに経営者の場合には、会社の業績悪化や突発的な資金需要への備えも欠かせません。個人名義の預金であっても、将来、会社への追加出資や貸し付けに充てる可能性があるなら、その全額を長期運用に回せる余剰資金と考えるのは難しくなります。

 

次に確認したいのが、収入と資産の「自社への集中」です。役員報酬や配当、自社株式、会社への貸付金などを通じて、収入と保有資産が自社に集中していることがあります。事業用不動産や個人保証なども含めると、経営者本人と家族の経済基盤が、特定の会社や業界に大きく依存している場合もあります。

このような状態では、自社の業績が悪化したときに、役員報酬や配当などの収入が減少するだけでなく、自社株式や事業用不動産などの価値も同時に低下する可能性があります。複数の資産を保有しているように見えても、それぞれが同じ会社や業界の動向に左右されるなら、実質的にはリスクが十分に分散されていないことも考えられます。

そのため、会社の財務と個人の家計をいったん切り分け、自社株式、不動産、預貯金、保険、金融商品などを含めた資産全体を棚卸しすることが重要です。新NISA口座の中だけで商品の分散を考えるのではなく、自らの世帯が保有する資産全体に、自社や特定業界、国内景気などへの偏りがないかを確認する必要があります。

自社への集中と個人資産の分散は、相反するものではなく、会社と家族の双方を守るための異なる戦略といえます。

 

もっとも、新NISAだけで資産戦略が完結するわけではありません。事業承継、自社株式の移転、役員退職金、相続、保険などについては、新NISAとは別の枠組みも含めて検討する必要があります。また、新NISA口座で生じた損失は、課税口座の利益との損益通算や繰越控除ができない点にも留意が必要です。

 

新NISAの活用で大切なのは、非課税枠をどこまで埋めるかだけではありません。限られた個人資金を、いつ、何のために、どこへ配分するのかを考えることです。

日頃、会社で行っている資本配分の発想を、自らと家族の資産形成にも応用する。新NISAは、そのための有力な選択肢の一つとなるのではないでしょうか。


[1] 金融庁「NISA口座の利用状況調査(2025年12月末時点)」、2026年7月3日公表

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