レポート

正確さは熱狂を守れるか サッカー判定「デジタル化」の次の課題

情報統括部 情報統括課
中村駿佑

映像とデータが「正しい」と示した判定に、釈然としない思いが残るのはなぜでしょうか。サッカーでは、(1)ゴールライン・テクノロジーや(2)VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)によって、人間の目だけでは捉えきれなかったプレーを検証できるようになりました。さらに、(3)半自動オフサイド判定や(4)ボールに内蔵されたセンサーなど、判定を支える技術は高度化しています。メジャーリーグでもABS(自動ボール・ストライク判定システム)の導入が進むなど、スポーツの判定は急速にデジタル化しています。それでも、判定の根拠や確認過程が十分に伝わらなければ、正確さは必ずしも納得や信頼に結び付きません。

サッカーで判定技術が求められた背景には、プレーの高速化があります。審判が一瞬で、ボールや複数の選手の動き、接触の程度を同時に見極めることには限界があります。重要なのは、技術が審判に代わることではなく、人間の認知を補い、重大な誤りを減らすことです。

上記4つの技術は役割が異なります。(1)ゴールライン・テクノロジーは、ボール全体がゴールラインを越えたかという事実を確認し、結果を審判の時計へ原則1秒以内に送ります。(2)VARは、得点、ペナルティーキック、退場などに関する「明白な誤り」や重大な見逃しを映像で確認します。ただし、最終判断を下すのは主審です。(3)半自動オフサイド判定は、選手とボールの位置情報からオフサイドラインなどを生成し、審判団の確認を支援します。(4)ボール内蔵センサーは接触のタイミングを細かく捉えますが、単独で判定する装置ではありません。カメラによる選手追跡や映像、審判の確認と組み合わせて用いられます。

2026年FIFAワールドカップでは、高度化した半自動オフサイド判定技術が実際に運用されました。全選手を事前に3Dスキャンして作成したアバターが選手追跡と判定後の表示に使われ、FIFAはグループステージ終了時点で、より現実に近く理解しやすいオフサイド映像を提供できたと説明しています。従来は映像担当審判に送られていた明確な位置上のオフサイド情報を、今大会ではピッチ上の審判へ直接伝える方式も採られました。一方、プレーへの関与といった解釈を要するケースまで自動判定するものではありません。

肉眼だけでは難しい僅差の判定を再現可能なデータで支え、誤審の可能性を下げられるため、この進歩は積極的に評価すべきです。判定基準を安定させることは、選手に公平な競争条件を提供し、試合結果への信頼を守ることにもつながります。

ただし、正確になれば自動的に納得感が上がるわけではありません。確認が長引けば試合の流れや得点時の高揚感が損なわれます。また、接触の有無はデータで示せても、その接触が反則に当たるかは競技規則に基づく解釈が必要です。技術が客観的な材料を示し、人間が文脈を判断するという分担を明確にしなければなりません。

そこで重要になるのが説明責任です。何を確認したのか、どの映像やデータを使ったのか、なぜ判定を変更したのか、主審が最終的にどう判断したのかを迅速に示す必要があります。判定後の3D映像は有効ですが、オフサイドラインや映像を見せるだけでは、反則の解釈まで説明したことにはなりません。

これは企業経営にも通じるかもしれません。データやAIが確率の高い答えを示しても、従業員、顧客、取引先は、その結論で納得するとは限りません。どの情報を基に、誰が、どのような基準で判断したのかを可視化し、経営者や管理職が最終責任を負う必要があります。判断過程を説明できることが、データに基づく意思決定を信頼につなげます。

誤審を減らし、公平性と競技への信頼を高めるため、判定を支援するデジタル技術の導入はさらに進めるべきです。同時に、技術の正確性や判断のスピード、説明責任を一体として設計することが、デジタル化を真の信頼へ変える条件となるでしょう。

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