レポート

プロダクトからプロセスへ、日本企業のイノベーションが示す構造変化

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

本日発表された帝国データバンクの調査[1]によると、2023~2025年の3年間に、企業の35.9%が何らかのイノベーション活動を行っていました。ただし、10年前の調査[2]と比べると実施割合は3.5ポイント低下しており、活動の勢いがやや後退している点は気になるところです。

イノベーション活動を行った企業が挙げた効果では、「業務のデジタル化が進んだ」とする割合が36.8%で最も高くなりました。なかでも「プロセス・イノベーション」を実施した企業では49.8%に達しており、取り組みのタイプによって得られる効果に差が表れています。

プロセス・イノベーションとは、自社における生産工程や配送方法、またそれらを支える業務手順・情報処理などの“業務プロセス”について、新しい方法を導入したり、既存の方法を大幅に改善したりすることを指します。例えば、生産工程の見直し、物流・配送の刷新、保守体制の再設計、購買・会計・受発注などの業務をシステム化する取り組みが該当します。具体例としては、飲食店でのタブレット注文の導入や、配送オペレーションの変更などが挙げられます。

実際に企業からは、「コミュニケーションが活発化し、標準化が進んだ」(和洋紙卸売、東京都)といった声が聞かれました。また、「新車の契約もメール等のやり取りで完結し、納車時点で初めて対面するというケースも増えてきた。点検整備の入庫も、依頼者が人手を介さず直接予約できるシステムを整える必要が出てきた」(自動車<新車>小売、青森県)という意見も寄せられています。

日本企業のイノベーション活動は、市場に新しい製品・サービスを投入して需要を喚起する「プロダクト・イノベーション」だけでなく、生産方法や事業運営を改善して効率を高め、コストを抑える「プロセス・イノベーション」への関心が相対的に高まっているようです。この傾向は、今回の調査結果からも読み取れます。言い換えると、日本のイノベーション活動が効率性重視へと傾く、より広範で構造的な動きが進んでいる可能性があります。

こうしたシフトは、市場の成長が長らく低迷したことの帰結と見ることもできるでしょう。市場の伸び悩みが活発なプロダクト・イノベーションを抑制し、企業が限られた投資余力をプロセス・イノベーションへ合理的に配分してきたことが示唆されます。これは個別企業にとっては有効な戦略判断である一方、経済全体の需要創出や活力の押し上げという観点では、力強さに欠ける結果につながるおそれもあります。

さらに、企業の29.0%が今後は「組織イノベーション」に力を入れていきたいと考えていました。組織イノベーションには、業務遂行の方法や手順といった業務慣行の見直し、権限移譲、仕事の割り振り・編成などの職場組織の設計、社外との関係構築に関する新しい方法などが含まれます。生産年齢人口が中長期的に減少していくなかで、「人手不足を勘案し、組織イノベーションをより充実させたい」(自動車一般整備、北海道)といった声が聞かれるのも頷けます。

イノベーションは、現在の事業と衝突しうる創造的破壊(いわゆる「ラディカル・イノベーション」)だけを意味しません。近年では、既存の仕組みややり方を大きく壊さない小さな改良であっても、経済的な価値を高めるのであればイノベーションと捉える見方が広がっています。これは「累積的なイノベーション」や「インクリメンタル・イノベーション」などと呼ばれます。

重要なのは、「経済的な価値を高める取り組み」であることです。この観点に立てば、資金力に制約のある中小企業であっても、組織イノベーションやマーケティング・イノベーションなどを継続的に積み重ねることで、収益力の向上につながるイノベーション活動を実行できるのではないでしょうか。


[1] 帝国データバンク、「イノベーション活動に対する企業の意識調査(2025年)」(2026年1月28日発表)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260128-innovation2025/

[2] 帝国データバンク、「イノベーション活動に対する企業の意識調査」(2015年9月15日発表)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/i1ny4oxwo6c/

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