レポート

労基法改正の8つの論点整理、中小企業が先行して整えるべきこと

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

労働基準法の見直し議論が本格化し、「40年ぶりの大改正」とも言われる論点が2026年の国会審議を視野に整理されつつあります。中小企業にとっては、法改正が確定してから慌てて対応するよりも、方向性の段階である程度の筋道を作っておく方が結果的に負担は小さくなります。ここでは、主に8つの論点を現状・見直し方向・理由・影響の順で整理します。

第一に、有給休暇の賃金計算方法の統一です。現状は年休取得時の賃金算定に複数の選択肢があり、会社ごとの定めで運用差が生じています。見直し方向は、算定方法の違いによる不合理な有利不利を縮小し、より分かりやすいルールへ統一するという発想です。年休は休養確保の権利ですので、賃金の扱いが取得行動を歪めないようにする狙いでしょう。企業側は規程とシステムの見直しが必要になりますが、長期的にはトラブルの減少が期待されます。労働者にとっては、安心して年休を取りやすくなる可能性があります。

第二に、法定休日を明確に決める義務です。現状では法定休日の特定が運用に委ねられ、休日割増の扱いが分かりにくくなる場面があり得ます。見直しは「どの日を法定休日とするか」をあらかじめ明確にする方向です。休日の予見可能性を高め、恣意的運用を防ぐ意図が読み取れます。シフト制が多い業種では設計の細部調整が欠かせませんが、労働者側は生活計画が立てやすくなります。

第三に、副業にともなう労働時間・残業代ルールの見直しです。現状は原則として本業と副業の時間を通算して時間外を判定するため、副業人材を受け入れる企業にとって計算・管理のハードルが高いのが実情です。見直し方向として、一定の合意を前提に「企業ごと管理」へ寄せる議論が出ています。人手不足の下で副業人材を活かしやすくする狙いが大きいでしょう。企業には活用促進の追い風になり得る一方、健康管理や競業・情報管理の整備がより重要になります。労働者は選択肢が広がる反面、働き過ぎの歯止めを制度・運用の両面でどうかけるかが焦点となります。

第四に、週44時間特例(常時10人未満の一部サービス業)の廃止です。歴史的経過措置が今も残っていますが、実際には週40時間に移行している事業所も多いとされます。見直しは制度の公平性と整合性を回復する方向でしょう。該当する小規模事業者は、シフトや人件費の再試算が不可欠です。労働者側には負担軽減が期待できそうです。

第五に、連続勤務の上限です。現状の休日規制の組み合わせでは長い連勤が理論上可能で、過労・メンタル不調への懸念が指摘されています。見直しは「13日超の連続勤務を防ぐ」ような仕組みの検討です。企業は繁忙期の例外運用や代替人員の確保が課題になりますが、労働者の健康確保の実効性は高まるはずです。

第六に、勤務間インターバルです。現状は努力義務にとどまり、普及が十分とは言い難いとの認識があります。見直しは実効性をどう高めるかで、義務化を含む選択肢が論点です。休息と睡眠の確保が主眼であり、交代制や深夜・早朝対応のある職場では業務平準化がカギとなりそうです。

第七に、管理職ルール(管理監督者)の見直しです。現状は要件が曖昧なまま運用され、「名ばかり管理職」問題が繰り返し指摘されてきました。見直しは要件の明確化や健康確保措置の整備が柱になる可能性があります。企業は権限・裁量・処遇・実態を整合させた“説明できる管理職像”の再構築が求められます。労働者にとっては不適切な適用除外の是正が進む余地があります。

そして第八に、「つながらない権利」です。現状、日本では明確な法制度が未整備です。見直しは業務時間外の連絡ルールをどこまで制度化するかという論点化にあります。テレワークやモバイル環境が一般化した今、就業時間外の心理的拘束をどう減らすかが議論の中心となるでしょう。企業は緊急対応の例外基準や連絡手段の整理を迫られ、労働者には休息の質の向上が期待されます。

では、中小企業は今から何を備えるべきでしょうか。まずは、法定休日の特定を前提として、休日振替・代休・割増賃金の扱いを就業規則と運用記録の両面で整えることです。そして、連続勤務や勤務間インターバルを“見える化”し、長時間が集中しやすい部署から試行導入するのが現実的でしょう。また、副業ポリシーを刷新し、労働時間管理だけでなく健康配慮・競業/情報管理をセットで明文化しておくと安心です。さらに、管理監督者の棚卸しを行い、権限と処遇が実態に見合うかを点検してください。最後に、44時間特例の対象となり得る事業者は、40時間化した場合のシフトとコストの早期試算が欠かせません。

今回の大改正は論点も多く最終的にどのような形になるか流動的ですが、方向性自体は「休息の実効性」「ルールの透明化」「多様な働き方との整合」に収れんしているようです。先手の小さな整備が、将来の大きな混乱を防ぎ、採用・定着の競争力にもつながるはずです。

20251217_主観客観