レポート

過去最大の経常黒字に潜む“静かなリスク”

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

帝国データバンクが毎月実施する「TDB景気動向調査」によると、企業の景況感を示す景気DIは2025年10月に5カ月連続で改善しました。これは、2020年10月以来、実に5年ぶりのことです。10月は、日経平均株価が5万円を突破し、連日にわたり過去最高値を更新。為替レートは150円台で推移し、デジタル関連の設備投資意欲も強く、自動車の生産も堅調でした。さらに、農畜産物の価格上昇が生産者心理を下支えし、公共工事の発注増もプラス要因となりました。

とはいえ、景気DIの水準は43.9にとどまり、決して高水準とは言えません。足元の日本経済は「良くなってはいるが、油断は禁物」という局面にあると見るべきでしょう。

こうしたなか、財務省が11月11日に公表した「国際収支状況」によると、海外とのモノやサービスなどの取引を示す経常収支は、2025年度上期(4~9月)の黒字幅が17兆5,128億円(前年同期比14.1%増)となり、過去最大を更新しました。けん引役は、海外投資からの配当・利子などを含む第一次所得収支です。ただし、これは日本円にすぐ還流しにくい性質があり、為替市場の需給を劇的に改善する材料とは言い切れません。一方で、原油やLNG・石炭の価格低下によって輸入物価が下がり、貿易収支は質的に持ち直しました。さらに、インバウンド消費の増加による旅行収支の黒字拡大も寄与し、9月は貿易・サービスともに黒字へ転じています。

しかし、10月以降も貿易収支は赤字が続いており、エネルギー価格が再び上昇すれば交易条件の改善は容易に失われかねません。インバウンド需要も高水準ですが、ホテルの客室や人手不足が制約となり、稼働率の伸びは鈍い状況です。また、為替レートは米国景気や金利の動向に左右されやすく、円高への転換時期は読みづらい局面が続くでしょう。

総じて、経常収支の改善は続いていますが、対外環境とエネルギー価格次第で揺り戻しに直面する可能性があります。黒字拡大を過信せず、為替・エネルギー・供給制約とうい三つの要因を数値化し、影響を見極めることが、中小企業にとって当面の重要な対応策となるでしょう。

20251121_主観客観