レポート

行動経済学で非合理な行動をビジネスチャンスに

情報統括部 情報統括課
新井雄太

バイキングに行ったとき、せっかくだからと料理を取り過ぎてしまうことはないでしょうか。また、列に並ぶ時に地面に貼られた足跡や横一線のステッカーにあわせて並ぶ人は多いと思います。こうした行動を理論化したのが「行動経済学」です。 

扱う内容のすそ野は広く、行動経済学会は、「行動経済学を広くとらえ、社会科学(経済学、経営学、ファイナンス、マーケティング、会計学、政治学、法律学、行政学など)、人文科学(心理学、行動科学、哲学、歴史学など)、自然科学(神経科学、 医学、生物学、物理学など)の分野において、経済活動の場における人間行動に関する研究一般を対象とする学問分野」と定義しています。この学問が注目を浴びたのは2002年のことです。『ファスト&スロー』で知られる行動経済学の先駆者、ダニエル・カーネマンが同年にノーベル経済学賞を受賞しました。その後は、マーケティング部門などで応用されるとともに、本屋のビジネス書コーナーで目にした人もいるかもしれません。 

経済学では、経済人(ホモ・エコノミクス)という経済的合理性のみに基づいて行動する個人主義的な人間像を仮定して理論を展開することがあります。しかし、実際は喫煙や散財など人間は合理的に生きられません。そこで非合理的な行動もする人間の動きを実証する「行動経済学」が生まれました。経済学と心理学が融合した学問といわれるように、その理論は、人の直感や感情による影響を考慮します。冒頭の、バイキングで取り過ぎてしまうものは、「かけたコストを無駄にしたくない」という心理から出る「サンクコスト効果」。損失が出るとわかっていても投資を続ける「コンコルド効果」も同様の現象となります。 

また、有名な理論として、「ナッジ理論」があります。ナッジは「(合図のために)肘で小突く」「そっと後押しする」を意味しており、選択の余地を残しながら、より良い方向に誘導するものです。列に並ぶ際に地面に貼られた足跡のステッカーや、トイレの「いつも綺麗に使っていただいて、ありがとうございます」という張り紙が該当します。この理論では、金銭的なインセンティブや罰則を使わずに人々の行動に影響を与えられるとして、行政の現場でも活用が進んでいます。 

そのほかにも、行列のできる店に魅力を感じる「バンドワゴン効果」や過度な期待を持って宝くじを購入してしまう「プロスペクト理論」など、身近な“行動経済学”は多くあります。うまくビジネスに活用してみてはいかがでしょうか。

20251010_主観客観