レポート

「老害」という言葉が突きつける組織の課題

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

近年、ビジネスの世界でも「老害」という言葉を耳にする機会が増えています。本来はネットスラングとして広まった表現ですが、いまや年齢や世代を問わず、組織や人間関係を停滞させる態度を指す言葉として定着しつつあります。重要なのは、老害が「高齢者=悪い」という図式ではないという点です。むしろ、若くしても過去の成功体験に固執し、新しい挑戦を拒む姿勢をとれば、誰でも「老害」と見なされる可能性があるのです。

では、老害と呼ばれてしまう境目はどこにあるのでしょうか。象徴的なのは「過去の武勇伝を語り始めたら、すでに老害の域に入っている」という視点です。自らの経験を誇ること自体は大切なことですが、それが現在の議論や課題解決に役立たず、単なる自慢や押しつけになると、周囲は成長の足を引っ張られているように感じてしまいます。逆に、新しいことへの好奇心を持ち続け、自身を変化させようとする人は、年齢に関係なく尊敬され、老害と呼ばれることはありません。

この点で、老害の本質は「変化への態度」にあります。外部環境が激しく変わる現代では、過去の常識が通用しない場面が増えています。それにもかかわらず「自分の時代はこうだった」と語るだけで終わってしまえば、組織の学習能力を削ぎ、若い世代の意欲を奪ってしまいます。これは中小企業にとって致命的と言えるでしょう。人材不足が常態化するなかで、社員一人ひとりが学び続ける組織風土をどのように築くかが、企業の持続可能性を左右するからです。

では、企業において老害と言われない人材を育てるには、具体的に何が必要でしょうか。

第一に、経営者や管理職自身が「学び続ける姿」を示すことです。リスキリングやデジタル技術への挑戦をトップ自ら実践すれば、社員も変化を前向きに受け入れやすくなります。

第二に、失敗を許容する文化を育てることです。新しい取り組みを「どうせ無理だ」と否定するのではなく、試行錯誤を尊重する風土があれば、若手も安心して挑戦できます。

そして第三に、世代を超えた対話を制度化することです。年長者の経験を「知恵」として活かしつつ、若手の発想を尊重する仕組みを整えることで、相互に学び合える環境が生まれます。

「老害」という言葉は耳障りかもしれません。しかし、これは単なる悪口ではなく、組織に潜む硬直化の危険を指摘する警鐘と捉えるべきでしょう。企業が変化に適応し続けるためには、年齢や役職に関係なく、自らをアップデートできる人材をいかに増やすかが問われています。武勇伝を語るよりも未来を語る。その姿勢こそが、企業にとって最大の財産となるはずです。

20250924_主観客観