レポート

男性育休は本当に効果的?中小企業の声が映す現実

情報統括部 情報統括課
主任研究員 石井ヤニサ

生産年齢人口の減少にともない、今後さらに深刻な人手不足が懸念されるなか、女性の潜在的な労働力を活用し、社会進出を促すことが重要な課題となっています。その対策の一つとして近年注目されているのが、男性の育児休業(育休)取得の推進です。男性が育休を取得することでパートナーである女性側に偏りがちな育児や家事の負担を夫婦で分かち合うことができ、女性の出産意欲や継続就業の促進につなげ、男女の「仕事と育児の両立」を支援することなどが狙いです。

政府は、男性の育休取得率を2025年までに50%、2030年までに85%に引き上げる目標を掲げています。この達成に向け、男性育休取得率などの公表が段階的に義務化されてきました。2025年4月からは、従業員数1000人を超える企業に義務付けられていた育休取得率の公表が、従業員数301人以上の企業にも拡大されることになりました。

政府の取り組みが着実に進められているなかで、注目すべきはその効果です。果たして男性の育休取得推進によって、女性の活躍は促進されるのでしょうか。

帝国データバンクが実施した「女性登用に対する企業の意識調査[1]」の結果を使い、2023年時点の各企業の男性育休取得率が、2年後の2025年における女性管理職割合に及ぼす影響を検証しました。その結果、男性の育休取得率が高い企業ほど、将来的に女性管理職割合も高くなる傾向があることが統計的に有意に示されました[2]。

しかし一方で、同調査の2025年の結果では、男性育休取得率の平均は20.0%と、2023年に実施された前回調査から8.6ポイント上昇したものの、政府目標にはまだ遠い状況です。特に中小企業では、人員に余裕がないことなどが背景にあり、取得率が低い傾向にあります。

以下は、中小企業からの声を抜粋したものです。

中小企業では、人的余裕やコスト負担が大きな障壁となり、育休制度の利用が進みにくい現状が浮き彫りになっています。このような状況を改善するためには、特に中小企業を中心に、政府による助成金制度の拡充など支援策の強化が必要です。それに加えて、子育てをしながらでも働きやすい環境の整備など、男女が仕事と家庭を両立できるよう支援する幅広い施策も求められます。


[1] 「女性登用に対する企業の意識調査(2023年)」および「女性登用に対する企業の意識調査(2025年)
[2] 目的変数である女性管理職割合は0以上1以下の比率であるため、ロジットリンク関数を用いた一般化線形モデル(GLM)の枠組みに基づき、Fractional Response Model (FRM) を採用した。分析には、同一企業に関する2023年および2025年の2時点からなるパネルデータを使用し、説明変数として1期間前の男性育休取得率(ラグ変数)を採用した。
また、企業ごとの時間不変な影響を適切に統制するため、業界、企業規模、地域に関する固定効果をモデルに含めた。
分析の結果は以下である
logit(女性管理職割合)=0.3220×男性育休取得率
                 (0.0000)           
[一般化線形モデル(GLM:Generalized Linear Model)、カッコ内p-値、擬似決定係数(Pseudo R²)0.4590]

20250829_主観客観