レポート世界で評価される「デジタル先進国」の条件:日本が追いつくために必要なこと

情報統括部 情報統括課
主任研究員 石井ヤニサ

近年、デジタル化が重要視されるようになっています。しかし、スイスの有力ビジネススクールIMDが発表した「2024年版世界デジタル競争力ランキング」 における日本の順位は、67カ国・地域中31位。前年から1つ順位を上げたものの、G7の中では下から2番目、アジア・太平洋地域では14カ国中7位にとどまっています。

 このランキングは、経済的および社会的変革に向け、各国政府や企業のデジタル技術の利活用能力を示したもので、3部門9項目52細部指標を測定して評価を行っています。

日本の強みとして評価された指標をみてみると、「国民と政府間のやり取りを促進するオンラインサービスの活用」が67カ国・地域中1位となりました。また、「世界におけるロボットの流通」、「ソフトウエア違法インストールの割合」(割合が低いほど良い)、「モバイルブロードバンド利用者数」はいずれも2位、「生徒と教師の比率(高等教育)」は3位にランクインするなど、基礎教育および通信、ロボットなどの科学・技術的基盤が前年に引き続いて高い評価を得ました。

 一方で、日本の最大の弱みとされているのは「上級管理職の国際経験」、「デジタル技術スキルの習得」、「企業の機会と脅威の対応」、「企業の機敏性」 であり、いずれも調査対象国のなかで最下位となったほか、「ビッグデータの活用・分析」(64位)も低水準にとどまり引き続き評価の抑制要因となりました。

 ランキングの上位をみると、首位はシンガポール、次いでスイス、デンマーク、米国、スウェーデンが続きます。また、韓国、香港、台湾といった東アジアの国々もトップ10にランクインしています。なお、トップ10の国々は前年とほぼ同じ顔ぶれであり、10位のノルウェーを除いて順位に大きな変動はありませんでした。日本と比較すると、これらの国々ではビジネスの俊敏性や国際競争力のあるデジタル人材、柔軟な規制環境などが整備されている点が評価されています。

 一方で、IMDの評価基準外の視点からみると、どういった国が高いデジタル競争力を持っているのでしょうか?

 IMDのランキングで順位付けに用いられた各国の「デジタル競争力スコア」を目的変数とし、「名目GDP:高いほど高競争力」、「一人当たり名目GDP:高いほど高競争力」、「国民の平均年齢:低いほど高競争力」、「政治民主度:高いほど高競争力」を説明変数として重回帰分析を行いました[1]。


一人当たり名目GDP、国民平均年齢、デジタル競争力スコアの散布図

その結果、「一人当たり名目GDP」と「国民の平均年齢」が「デジタル競争力スコア」に対してそれぞれ0.1%、5%水準で有意に正の影響を与えていることがわかりました。

具体的には、「一人当たり名目GDP」が1,000ドル高いとスコアが0. 4456ポイント高く、「国民の平均年齢」が1歳高いとスコアが0.4441ポイント高くなるという傾向が確認されています[2]。この結果から、国民一人ひとりが経済的に豊かであるほど、デジタル競争力が高まる傾向にあることが示唆されます。一方、国民の平均年齢については、デジタル技術やインターネットに慣れ親しんでいる若い世代が多いほどデジタル競争力が高まるという仮説に反する結果が得られました。これは、経済的に豊かで医療が発達した国ほど平均寿命が延び、高齢化が進む傾向があるためです。こうした国ではデジタル技術への投資余力が大きく、国民がデジタル技術に触れる機会もより多いため、結果としてデジタル競争力が高まると考えられます。

デジタル競争力の向上には、国民の経済的豊かさや技術基盤の強さを活かす一方で、柔軟なビジネス環境の整備や、デジタル人材・国際的視野を持った人材の育成が重要です。日本がデジタル社会でリーダーシップを発揮するためには、産学官で連携をとりながら課題を克服し、変革に向けた具体的な行動を積極的に進める必要があります。


[1] 国のデジタル化の推進に影響を与えそうな変数(「面積」「名目GDP」「一人当たり名目GDP」「国民の平均年齢」「政治民主度」「インバウンドの数」)を用いてAICによる最良のモデルを選択した結果、説明変数は「名目GDP(ドル)」「一人当たり名目GDP(ドル)」「国民の平均年齢」「政治民主化度」が含まれるモデルが選択された。データが不明である国、外れ値は除外した。GDPデータの出典はIMF「World Economic Outlook Databases (2025年4月版)」、国民の平均年齢データはCIA「The World Factbook」、政治民主度データは世界銀行「The Worldwide Governance Indicators(WGI)」の 「Voice and Accountability(声と説明責任)」項目。

[2] なお、「名目GDP」は10%で正に有意、「政治民主度」は10%で負に有意。
重回帰分析の結果は以下である
デジタル競争力スコア= 34.3839+(0.0004*一人当たりGDP)+(0.4441*国民の平均年齢)
            (0.0001)                (0.0000)                   (0.0461)
                  [OLS、カッコ内p-値、自由度修正済み決定係数0.6576、F 検定の P 値 0.0000]


[1] 帝国データバンク「東京都の猛暑が家計支出に与える影響調査(2024年)」(2024年8月26日発表)
[2] 帝国データバンク「<緊急調査>猛暑に関する企業の動向アンケート」(2024年8月15日発表)
[3] 帝国データバンク「TDB景気動向調査」(2024年7月~10月調査)および『上場企業「今年の猛暑」影響調査―2024年10月』(2024年10月21日発表)


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