レポート猛暑をチャンスに!売り上げを伸ばす企業と伸び悩む企業の違いとは?

情報統括部 情報統括課
主任研究員 石井ヤニサ

暑い季節がやってきました。2023年と2024年の夏は2年連続で観測史上1位の記録的な猛暑となりました。暑さがビジネスに与える効果にはプラス面とマイナス面の両方がありますが、猛暑がニューノーマル化しているなか、企業がいかにそのマイナスの影響を減らし、新たなビジネスチャンスをつかむかが重要な課題といえます。

 全体として猛暑が経済に与える影響を振り返ると、帝国データバンクの試算[1]で、2024年夏の猛暑で東京の家計消費支出は平年と比べて約390億6,300万円増加した可能性があることが分かりました。また、世帯当たりでみると、猛暑により2024年の夏は月平均3,122円の支出増と試算されています。

では、どのような業種や商品が猛暑の恩恵を受けているのでしょうか。

帝国データバンクが2024年8月に実施したアンケート[2]では、猛暑をきっかけに売り上げが伸びた商品・サービスがある企業の割合が最も高かった業界は、『小売』の30.5%でした。次いで『卸売』が20.1%で続きました。

具体的な商品・サービスをみると、「エアコン」販売や「空調設備工事」などを含む『エアコン・空調設備関連』が最も多くあがっていました。「清涼飲料水」や「アイスクリームの包装資材」などの『食品関連』も、その原料や包装資材から最終製品、さらにスーパーなどで使用される「氷購入専用コイン」まで幅広い商品で売り上げを伸ばしました。

「ファン付きウェア」や「タオル」「夏物衣料」などの『衣類関連』のほか、「冷却グッズ」やボディケア製品など『猛暑・熱中症対策関連』商品の好調や、「熱中症診察」収入が増えたケースもみられています。

 一方で、猛暑により業績が下がっている業種も少なくありません。帝国データバンクの調査[3]によると、飲食店や小売業、卸売業などからは外出控えによる来客数の減少の影響を受けたといった声が聞かれました。また、屋外レジャー施設や宿泊業、野菜など食料品の製造業や卸売業からは厳しい暑さで消費・サービス利用の意欲が減退しているとのコメントもあがっています。

また、同業種内でも影響の差が生じています。

アンケートで寄せられた同じ娯楽サービス業の2社の例をみると、片方は猛暑により客足が減っているというマイナスの影響のみをあげていましたが、もう片方は「サイダー」や「ソフトクリーム」、「流しそうめん」など夏に需要が伸びる食べ物の販売で売り上げが伸びたと答えています。このように、気候変動による需要の変化を見据え、柔軟に商品を取り扱ったり工夫を凝らしたりすることで、他社との差を生み出すことが期待できます。

 ほかにも、需要増加を迅速に予測し、生産体制を拡充することや、在庫を適切に管理し品切れを防ぐこと、商品の販売期間を延ばすことなど、販売機会を逃さないようにする対応も差を付けた一因と考えられます。例えば某大手家電メーカーは昨年、エアコンの需要増加を見越して生産体制を強化し、在庫を確保したという事例がありました。

 需要に応じて夏物衣料や冷却グッズなど商品の開発や改良のほか、猛暑に関連する期間限定キャンペーンを実施し、消費者の関心を引くなどといった対応もあげられます。気温の上昇で外出を避ける消費者が増えるなか、オンライン販売またはデリバリーなどを活用することで売り上げが伸びる事例のほか、店舗内の冷房設備を強化し快適な環境を提供することで客足の減少を防いだ、といった事例もあります。

 今年の夏の気温も平年より高いことが見込まれており、この状態は9月まで続く見通しとなっています。この「猛暑の時代」を乗り越えるためには、気象状況・予報を観察して消費者のニーズを読み取りながら、マイナスの影響を最小限にする工夫を行い、隠れているビジネスチャンスを見つけて臨機応変に対応していくことが求められます。


[1] 帝国データバンク「東京都の猛暑が家計支出に与える影響調査(2024年)」(2024年8月26日発表)

[2] 帝国データバンク「<緊急調査>猛暑に関する企業の動向アンケート」(2024年8月15日発表)

[3] 帝国データバンク「TDB景気動向調査」(2024年7月~10月調査)および『上場企業「今年の猛暑」影響調査―2024年10月』(2024年10月21日発表)


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