情報統括部 情報統括課
主任研究員 池田直紀
物価高騰が続き、家計への負担が増す昨今、消費者の節約志向はますます強まっています。スーパーでは特売品に目が向けられ、家計簿アプリで支出を厳しく管理する人も少なくありません。特に主食である米の価格高騰は、多くの家庭に直接的な影響を与え、消費者心理に大きな影を落とし、日々の生活費を切り詰める意識も高まっています。
一方で、消費者は別の顔も見せています。それは、特定の分野や自分が「本当に価値がある」と判断したものには、惜しみなくお金を使う「メリハリ消費」、あるいは「選択消費」と呼ばれる行動です。例えば、食費は削っても、好きなアーティストのライブチケットには数万円を投じたり、日用品は安価なものを選びながらも、性能の良い最新の家電や高機能な小物類には投資を惜しまなかったりします。
この一見矛盾する消費行動は、消費者が「賢い」選択をしようとしている心理から生まれているのではないでしょうか。日々の出費は抑えつつも、限られたお金や時間を最大限に活かしたいという欲求があり、この「価値」は単なる価格の高低では測れません。製品やサービスの体験価値、ブランドのストーリーへの共感、そして何よりも自己肯定感を高めてくれるかどうかが、消費者が「財布の紐を緩める」かどうかの決め手となっています。
特に顕著なのが、自身の「好き」を追求する「推し活」の広がりでしょう。エンタメコンテンツやキャラクターグッズ、特定のブランド品など、個人の熱量がそのまま消費行動に結びつく現象は、単なる購買を超えた「投資」の意味合いを帯びています。
また、タイムパフォーマンス(タイパ)を重視し、時間を節約するためにお金を払うサービス(家事代行、ミールキットなど)も人気です。これは、単に楽をしたいというだけでなく、貴重な時間をより価値ある活動(自己研鑽や趣味など)に充てたいという、現代人の時間の使い方の変化を示しているのではないでしょうか。
このような変化のなか、企業は単なる価格競争から脱却し、付加価値の創出に注力する必要があるでしょう。「安ければ売れる」時代は終わり、「高価でも支払う価値がある」と感じるような、唯一無二の体験や感動、社会貢献性といった要素が求められます。また、特定の価値観を持つ層に深く響くメッセージや商品設計も必要です。
「節約」と「メリハリ消費」は、決して矛盾するものではなく、賢く、そして豊かに生きたいと願う現代人の切実な欲求の表れと言えます。この変化を正確に捉え、新たな価値創造へと繋げられる企業や個人こそが、これからの市場をリードしていくでしょう。