レポート地方経済の活力を拓く、「中堅企業創生」という考え方

2025/05/08
景気動向  コラム

情報統括部 情報統括課
主任研究員 池田直紀

日本が長年抱える東京一極集中は、地方の人口流出と経済活力の低下などを招き、その克服は喫緊の課題です。そのなかで、地域を活気づける地方創生の取り組みは2014年頃から本格化しました。政策的な定義はありますが、私の考えでは、地方創生とは各地域が広域的なネットワークを構築し、人材、物資、資金の流動性を高めることで、大都市圏への一方的な流入を食い止め、自立した地域社会を目指す取り組みと捉えています。

話は変わりますが、中小企業も後継者不足や経営資源の制約といった悩みを抱えるなか、成長戦略としてM&Aなどの連携を強化する動きが活発化しています。これは、個々の中小企業が持つ技術やノウハウを結集し、スケールメリットを追求することで、競争力を獲得しようとする動きです。言い換えれば「中堅企業創生」(筆者造語)とも呼べるのではないでしょうか。

地方創生における広域ネットワークの構築は、地域内での連携にとどまらず、大都市圏への人材流出を防ぐために、地方全体の魅力向上と雇用創出が不可欠といえます。地方の中核都市が教育、文化、医療などの拠点となり、周辺地域と連携することで、若者が地方にとどまり、活躍できる環境を整備することが必要です。また、地域独自の産業を維持・育成し、新たな雇用を生むことで、大都市圏に匹敵する経済的な魅力を創出することも重要でしょう。

一方で、「中堅企業創生」の視点からみると、例えば、複数の企業が持つ技術を組み合わせることで革新的な製品やサービスを生み出したり、共同で販路を開拓したりすることが可能になります。また、M&Aによって事業規模を拡大することで、生産性向上やコスト削減も期待できます。

地域に根ざした中小企業が連携を強化し成長することは、地域経済全体の活性化に直結します。雇用が創出されれば、若者の地方への定着を促し、大都市圏への人口流出を抑制する効果が生まれます。さらに、地域独自の資源や技術を活かした中小企業の成長は、地域ブランドの確立に繋がり、地域全体の魅力を高めます。地域独自の資源や技術を活かした中小企業の成長は、地方ならではの価値を生み出し、新たな人の流れを創出する可能性を秘めています。地方創生と「中堅企業創生」はこの点で深く結びつくでしょう。

政府が推進するM&A支援策は、地方創生の実現に向けた重要な布石と言えます。地域金融機関や支援機関が連携し、中小企業のM&Aを促進することで、地域経済の活性化と雇用維持に貢献することが期待されます。

地方創生と「中堅企業創生」は、それぞれが独立した概念ではなく、相互に連携し補完し合うことで、より大きな効果を発揮するでしょう。地方の広域的なネットワーク化と、中小企業の戦略的な連携・成長は、大都市圏への過度な依存から脱却し、経済規模においても拮抗しうる、持続可能な地域社会の実現に向けた重要な潮流となると言えそうです。

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