レポート人材確保と収益安定、中小企業はどう賃上げを実現するか

2025/02/10
景気動向  コラム  雇用・人材

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

帝国データバンクの調査によると、中小企業の約8割が賞与を支給している一方で、特に従業員が少ない企業ほど「賞与を出せない」状況が目立っています。その要因として、利益確保の難しさや資金繰りの不安定さ、生産性の向上が十分進んでいないことなどがあげられます。企業が賞与を安定して支給するためには、まずは業績を下支えする仕組みが欠かせません。その意味でも、中小企業の生産性を高め、安定した利益を確保できるよう支援する取り組みの重要性が再認識されてきました。

具体的には、ITやデジタル技術の導入による業務効率化、設備投資や人材育成への補助金の充実、取引条件の適正化などがあげられます。小規模事業者は大企業に比べて投資余力が乏しく、最新の設備やソフトウェアへのアクセスが遅れる傾向にあります。そのため、国や自治体が低金利融資や税制優遇を組み合わせて後押しすることで、将来的に負担なく生産性を高められる環境を整えることが不可欠です。

また、人材確保の面でも、企業が研修費やOJTを充実させられる支援や、働き方改革による労働環境整備の補助が有効でしょう。近年、優秀な人材ほど待遇や職場環境を重視する傾向が強まっており、社員の働きやすさを高めることによって離職率が低下し、長期的なコストダウンと生産性向上につながることが示されるようになってきました。こうした取り組みが継続すれば、利益の確保とともに賞与を出す余地も広がり、従業員のモチベーション向上に貢献すると見込まれます。

最終的には、一時的な施策にとどまらず、企業が安定した利益を生み出せる経営力を養うことがゴールとなります。国や自治体が地域・業種ごとの課題を丁寧に拾い上げ、きめ細かな支援を展開することが、中小企業が自律的に成長し、継続的に賞与を支給できる「土壌」を育むカギとなるでしょう。

とりわけ、販売チャネルの多角化やデジタル販路の確立は、小規模企業の収益源を広げる有効な手段です。オンラインショップやSNS活用を後押しし、地域に根ざす企業が国内外の消費者へ直接アプローチできるようになれば、新たな顧客獲得につながり、生産性向上も期待できます。

こうした支援の積み重ねは、地域経済を支える中小企業の底力を引き出し、従業員への還元としての賞与を安定的に確保する土台ともなり得ます。国・自治体・企業が一体となって生産性向上を目指すことが、持続的な成長と豊かな働き方を実現する最善の道ではないでしょうか。

2025年もまた春闘に向けた動きが活発化してきました。2024年の賃上げ率は平均5.10%で、1991年(5.66%)以来33年ぶりの高水準でした。しかし、高い賃上げ率は大手企業が先行し、中小企業への広がりは十分とは言い難い状況です。そのうえ、2025年は大手企業を中心に初任給を大幅に引き上げるというニュースが多く報じられています。

中小企業が持続的に賃上げするために、国・自治体・企業の間で今こそ連携強化が求められます。


[1] 帝国データバンク、「2024年冬季賞与の動向調査」(2024年12月6日発表)

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