石井ヤニサ
10月27日、第50回衆議院議員総選挙が投開票され、与党である自民党と公明党が獲得できた議席数は計215議席で、過半数の233議席を割り込みました。
今後の政権運営の行方と新政権が打ち出す政策に注目が集まっています。なかでも、物価上昇など消費者と企業を取り巻く環境の厳しさが増すいま、どのような経済政策が推し進められていくのかが重視されます。

帝国データバンクが9月27日に行われた自民党総裁選挙に向けて実施した調査[1]では、5割近くの企業が新政権に「中小企業向け支援策の拡充」を求めていることが明らかになりました。別の調査においても調査時点の政権である岸田政権に対し“岸田政権下では、中小企業は厳しかった”など批判の声が複数寄せられ、多くの企業で中小企業に向けた支援策を強く求める結果となっています。
岸田政権は中小企業向けに事業再構築や持続化補助金、価格転嫁対策の強化などさまざまな支援を行っており、決して大企業よりも中小企業に対する支援の優先順位が低い訳ではありませんでした。では、なぜ中小企業から批判の声がたくさんあがったのでしょうか?
調査で寄せられた企業の声からみると、「円安への対応」がその一因であることが分かりました。輸出を行う大企業では円安の恩恵が大きい一方、輸入品への依存度が高い中小企業にとってはマイナスの影響が大きいなかで価格転嫁が図れず、下請法関連対策も不十分であるといった意見が聞かれています。
また、「賃上げ促進」に関して批判の声が聞かれました。大企業に比べて資金余力が小さい中小企業にとっては、賃上げの実施により経営が厳しくなったほか、賃上げができず大企業との賃金格差が開き採用面でも格差が大きくなったといった意見があがっています。政策の重要性は理解できているが、中小企業へ十分な支援を実施してほしいという指摘が聞かれていたのです。
さらに、岸田政権時代に開始した「インボイス制度」や「電子帳簿保存法」といった制度による負担が大きいものとなった様子もうかがえました。中小企業では人的リソースが少ないという状況などを考慮して支援策を実施するべきとの意見が多くあがっています。
さて、今後の政権には中小企業に関する政策の実施に期待が持てるでしょうか?
自民党および野党第一党の立憲民主党の公約をみると、どちらも中小企業が賃上げしやすい/賃上げを継続できる環境の整備をあげていることが分かります。
また、コロナ禍により過剰な債務を抱えている中小企業が多く残るなか、自民党は必要な企業の再生や事業再構築を進めつつ、中小企業の事業再生等に関するガイドラインの活用を促進するとしました。他方、立憲民主党は中小企業の過剰債務について減免の法的整備や資本性資金への転換促進を金融機関の理解・協力を得て行うという公約を掲げています。
ほかにも自民党は最低賃金の引き上げに対し、業況が厳しい業種やパートを多く雇用する企業への配慮と支援の強化を、立憲民主党は中小企業者等の法人税率の軽減措置 (15%)を本則化することをそれぞれ掲げるなど、各党により中小企業へのケアが約束されていると期待したいところです。
次期政権は日本経済を支えている中小企業を元気にできるのか、そして、力強い景気の好循環が生まれる環境を整備できるのか、今後に注目です。
[1] 帝国データバンク「企業が新政権に求める経済関連政策に関するアンケート」(2024年9月17日発表)