池田直紀
今や企業経営にとって最重要課題の一つといえる人手不足。人手不足とはいったい何だろうか。
有効求人倍率の低下や就業者数の増加など、緩やかながら改善を示す傾向が見られるものの、帝国データバンクの調査[1]でも、正社員が「不足」と感じている企業の割合は51.0%と5割を上回る高水準で推移しています。
企業からも
- 職人不足で工事がとれない(家具・建具卸売)
- 建築物件が多数出ているが、人手不足のためか工期が長引いている(電気機械器具卸売)
- 人手不足により生産性が低迷している(自動車一般整備)
- 人手不足が激しく、タイムリーな人材供給が出来ない状況。かつ、採用コストは上がっており、業界的には厳しい現状である(労働者派遣)
といった人手不足に起因する受注機会の損失や、生産性の低下を危惧する声が多く寄せられていました。
また、国勢調査(総務省)の人口データから、1990年の生産年齢人口と2020年の生産年齢人口を見比べてみると、8,590万人と7,509万人、その差は1,081万人です。つまり、13%ほど減少しています。
確かに、日本経済の中心を担う人口が10%以上も減少しているので、人手不足は着実に起きていると頭ではなんとなく分かっているのですが、、、
ここで1つ疑問も浮かびます。日本の社会全体は、1990年当時より高度化しているはずなのに、なぜ人手不足なのだろうと。
例えば、鉄道の駅を思い浮かべてみると、まだ全国的に自動改札機が普及しておらず、改札係りの人が鋏を使って通行者を捌いていたはずです。関東でいえば、みどりの窓口も十分に設置されていました。ICカードもありませんし、もちろんスマホもない、駅員さんが高頻度で道案内もしていたと記憶しています。
駅の例以外にも、PCの高速高度化、スマホの社会普及、電化製品の進化、物流・配送システムの利便性向上、ファミレスの配膳ロボットなど、、、この30年間で日本社会はさまざまな場面で大幅な進展を遂げています。
当時より10%以上の社会システム全体の効率化が進んでいると思うのですが、人手不足という大きな波はなかなか止まる気配がみえません。
生産年齢人口の減少に加えて、高齢者の急増というダブルパンチは、人材確保の難しさに拍車を掛けていると言えます。適切な人材配置が出来ていないことや、十分でない人件費の構造も要因の一つでしょう。
また、103万円の壁や130万円の壁というように意図的に労働にセーブをかけてしまうことも生じているでしょう。
逆を言えば、まだまだ業務に関する合理化、省力化の余地が大きいとも考えられますし、社会制度の見直しは喫緊の課題と言えます。
加えて、DXの推進や、人手不足へ対応する設備投資といった技術分野にとどまらず、「スキマバイト」や「上司代行」といった、まだまだ思いも寄らないビジネスチャンスが転がっているのかもしれません。
[1] 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年7月)」(2024年8月22日発表)