静岡県富士市 小長井 義正 市長

富士市は、富士山の豊かな自然、特に地下水に恵まれたまちです。この恵まれた自然環境を活用することで、市の根幹をなす産業として発展を遂げてきたのが、紙・パルプ産業です。紙・パルプ産業は、非常に厳しい分野だと言われ続けており、過去には「富士市は紙を頼りにするべきではない」という議論もありました。しかし、紙・パルプ産業は、富士市全体の製造品出荷額等の約3割を占めています。また、製紙メーカーのみならず、流通、倉庫、製紙関連の機械、薬品など、非常にすそ野が広い産業であるとともに、多くの市民が紙・パルプ産業に関わっており、地場産業として外せないものだと考えています。
富士市のトイレットペーパーは、日本の生産量の約3分の1を誇っており、私もいろいろなところで「皆さんは3回に1回は富士市の紙を使っている」と言ってPRしています。紙・パルプの製造品出荷額等では、愛媛県四国中央市が上回っていますが、いろいろな部分で富士市の強みを生かしていけるのではないかと思っています。紙がこれまでの素材に取って代わることができる分野はまだまだあります。今は原材料としての紙製品が主流ですが、さらに加工を加えるなど、今後は付加価値を高める必要があると考えています。
富士市には、ものづくり企業が、中小・零細企業を含めて多く立地していますが、現在、高校卒業の時点で75%くらいは地元を離れてしまいます。そういう若い人たちが、大学を卒業して富士市に帰ってきてもらわなければならないと考えています。そのために、「技術力」「革新性」「先端性」など、ものづくり産業の良さを伝えたいと頑張っています。その一環で、2017年1月に「“ものづくり力”交流フェア」を開催しました。企業の情報発信によって新たなビジネスチャンスを生み出すとともに、市民の皆さんにも富士市のものづくり産業を知ってもらうためです。また、ものづくりの担い手(新たな産業)を育成したいという強い思いがあります。
地域未来牽引企業に選ばれた丸富製紙については、富士市の代表的な企業であるとともに、革新的な取り組みを続けてこられた企業だと思います。自社だけではなく市内にある他社を傘下に入れることで、その技術を生かし、丸富製紙の工場や技術だけではできなかったことを実現していったのは、ひとつの成功事例だと考えています。多様な商品展開はその一例でしょう。傘下に入った企業も丸富製紙のグループに入らずに単体であったら、事業継続や技術の伝承が難しかったかもしれませんし、雇用の確保の観点でも素晴らしいモデルだと思っています。
本市では、地場産業振興策として、紙・パルプ産業の協議会(富士地域再生家庭紙利用促進協議会)などを組織化して盛り上げていますし、国内外の展示会や見本市などへの出展に対する支援などを行っています。また、文化の面においても富士市は紙のまちだということを発信するため、「ふじ・紙のアートミュージアム」をオープンし、紙を素材とした芸術作品を展示しています。紙には歴史的な部分もしっかりありながら、新たな可能性を秘めています。紙の可能性を、芸術作品を見る中で感じていただけると思います。
富士市は、シティプロモーションの一環として、2017年2月にブランドメッセージ「いただきへの、はじまり 富士市」を発表しました。「はじまり」は海である駿河湾、そして、「いただき」は富士山であるとともに、それぞれの目標です。大事なのは、企業との対話だと考えています。そのために、協議会やフォーラムのような意見交換の場を設けています。市内の製造業を中心とする企業の生の声を市政に反映させるため、2人の副市長のうち、1人は元民間企業経営者を登用しています。これからも企業の生の声を直接聞く場を作っていこうと思っていますし、市長である私自身も直接企業を訪問して、企業の声を聞くことが大事だと思っています。かつては市長が特定の企業を訪問することに批判的な見方もあったかもしれませんが、一企業の利益ではなく、市民全体や富士市の産業につながるためだと思って頑張っています。