レポート地場産業と地域未来牽引企業

2018/04/27

新潟県三条市 國定 勇人 市長

「ものづくりのまち三条」では金属加工業が主要産業ですが、特定の産業を柱として公言することは行政として勇気がいることです。三条市は米どころですし、野菜、果物、美味しいお酒も、特産品もたくさんありますが、あれもこれもと売り込んでしまうと、人々の記憶に残らないものです。

三条市の場合、思い切って「(金属加工の)ものづくり」に絞って情報を発信しています。他の地域では必要以上に平等を気にしますが、三条市ではここだと思ったら徹底的に支持します。その代わり、企業が成長する過程は全てオープンにします。周りの企業がああすればできると思うようにします。こうした取り組みには企業との対話も必要ですし、いい意味で「えこひいき」をするため、こちらも覚悟が必要です。江戸時代から続く刃物と金物に加え、フォークやスプーンなどの洋食器の生産が盛んですが、生産だけではなく全国に流通させるための問屋が栄えたこともあり、昭和に入ってからは暖房器具のコロナやコメリ(現在は新潟市)のようなホームセンターなどの関連産業が発展しました。最近ではキャンプ用品のスノーピークが有名になりましたね。

地域未来牽引企業に選ばれたパール金属はその中でも突出している存在で、独自にビジネスを拡大しています。市としては、第二・第三のパール金属となる企業を生み出していきたいと考えています。そのためは、ネットワーク構造がキーになると考えています。パール金属の場合、地域内企業を中心に、実に様々な工程の企業とのつながりがあります。まさにパール金属が地域の核になっていると思います。産業の中核を担う企業が地域を引っ張ってくれます。

地域の企業同士のクラスター化は重要で、リーマンショックの後にその重要性を強く感じました。それまでは、多様な販路を持っていれば大丈夫と考えていましたが、現実的には自動車部品メーカーなどに依存していたために当地産業界は大きな経済的影響を受けました。縦系列のネットワークだと危機があった時に全て崩壊してしまうということです。企業同士が網目になってクラスター化した横のつながりがあると、いろいろな仕事を持ってきたり、協力工場をいくつも持って分業制になったりして売り先も多様化されていきます。典型例はパール金属のパール会です。2018年1月に開催された「第43回パール会新年会」には様々な業種の企業から500人ほど集まっています。

産業施策は2本柱だと考えています。BtoCとBtoBです。BtoCでも企業が消費者向けに技術力を見せながら売っていくことでしっかり利益を出し、BtoBでもとがった商品を出して価格勝負にならないようにすることがポイントだと思います。BtoBでは企業のクラスター化は特に重要です。人口10万人の都市としての経営が持続可能であればよいのです。マスを取りにいく必要はなく、ニッチでディープなファンにたどり着ければよいと思っています。

三条市は2015年以降、若者が町から出ていかなくなって(流出率は7ポイント減少)、若者が町に戻ってくるようになりました(流入率は8ポイント上昇)。ですが、有効求人倍率は2.2倍で人手不足の状況です。そのため、2022年にJR燕三条駅の須頃地区に実学系ものづくり大学を設置予定です。

パール金属は、開発する前に営業していると聞いています。営業を成立させるためには、ものづくりの技術を知る人材が市場分析やマーケティング戦略といった商品コンセプトの企画段階から関わっていくことが必要であり、そのためにはものづくりの技術を体系的に身に付けた人材を育てる必要があります。そういった商品コンセプトの企画により、独自の企業価値を創出していくこと(コト)と、その価値が伝わる流通を確保すること(ミチ)が重要であり、三条市ではものづくりの技術だけではなく、コト・ミチに精通した人材の育成にも力を入れています。技術と経営を学ぶ実学系ものづくり大学はこの観点でも役立つと期待しています。