なんとか王子
"清算主義"という考え方がある。不況によって非効率な企業が淘汰されることで効率的な企業だけが生き残り、経済全体がより強くなるという意味として使われる。
不況で苦しいときにこそ知恵を絞り、新しいアイデアで苦難を乗り越えようとするのは理解できる。「必要は発明の母」という諺もある。しかし、不況時の方が好況時よりもアイデアが生まれ、新規産業が創出されやすいというのは迷信に過ぎず、シュンペーター流の「創造的破壊」に対する誤解に基づいた考え方であろう。
私たちは過去の歴史において、不況下ではイノベーションが生まれ難いことを学んできた。ベンチャーやイノベーションは景気が良いときにこそ生まれてきたのである。
かつて、浜口雄幸内閣の井上準之助蔵相は大恐慌中に旧平価での金本位制への復帰を行い、昭和恐慌を一段と深刻なものとした。また、大恐慌時の米フーバー大統領は清算主義的な政策をとった。そして、投資銀行の影響を軽視した米ブッシュ政権はリーマン・ブラザースの破綻を容認した。その結果、世界同時不況は現実のものとなってしまった。
政府や政策当局が銀行に公的資金を注入し、中小企業への資金繰り対策を実施するのはなぜか。それは本来であれば倒れる必要のない健全な企業が倒産することを防ぐためであり、決して、非効率な企業の延命をはかることが目的ではない。
不況時には企業の淘汰を促すべきでなく、経済全体を底上げすることが経済政策上の基本原則である。その結果、非効率といわれる企業も社会に併存しても構わない。清濁併せ呑むくらいの懐の深さが日本経済には必要だろう。それでも日本の資本主義社会には「適者生存」の摂理が生きていることを、もっと信じていいはずだ。
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