レポート

産業分類の再編と構築(2)『健康寿命インフラ産業』

高齢化で需要増も、景況感は一様に改善せず ~ 流通・デジタル連携が下支え、予防・地域医療は相対的に弱く ~

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

健康寿命の延伸や自立生活の維持に関する注目が高まっている。健康寿命にともなう需要を把握するため、予防・自立生活支援、地域医療・在宅療養、医薬品・医療機器、住環境、流通・デジタル連携などの関連産業を横断的に再編し、「健康寿命インフラ産業」として捉え、多角的に分析を試みた。

【要約】

  1. 健康寿命インフラ産業は5つの機能ブロックで構成し、各ブロックを同じ重みで評価する均等加重方式により、ブロック別景気DIの単純平均を算出する。対象企業全体の平均的な景況感や市場規模ではなく、健康寿命の延伸や自立生活の維持にともなう需要の広がりと、構成分野間の温度差を把握することを目的とする。
  2. 健康寿命インフラ産業の景気DIは、長期的には全産業とおおむね同じ景気循環をたどりながらも、総じて高めで、景気後退局面における下振れも比較的小さい。他方、足元では全産業との差が縮まり、月によっては全産業を下回る場合もある。
  3. 内訳では「流通・デジタル連携」が相対的に高い景況感を維持し、産業全体を下支えする一方、「予防・自立生活支援」と「地域医療・在宅療養」は相対的に弱い。高齢化によって需要が増えても、人材不足、報酬制度、物流費など、供給能力や採算面の制約があるため、企業の景況感は一様に改善しない。

【図1 健康寿命と在宅生活を支える5つの機能】

【図1 健康寿命と在宅生活を支える5つの機能】

はじめに

既存の産業分類は、企業の主たる事業内容を基準として整理されているため、技術革新や社会課題を背景に複数産業へまたがって生まれる新たな需要を捉えにくい。そこで、関連する産業を再編・加工し、共通する機能や需要を軸に新たな産業群として捉えることで、成長分野の広がりや産業間の連関を把握しやすくなる。

本レポートでは、健康寿命を支える産業について、予防・自立生活支援、地域医療・在宅療養、製品、医薬品・医療機器、住環境、流通・デジタル連携までを一体として捉え、「健康寿命インフラ産業」として再分類する。これにより、健康寿命の延伸や在宅生活支援にともなう需要が、関連産業へどのように広がっているかを可視化することを試みる。

高齢化や在宅生活ニーズの高まりは、健康、医療、生活支援に関する需要を構造的に押し上げる。ただし、需要の増加が、そのまま企業の景況感の改善につながるとは限らない。人材不足、報酬・価格制度、物流費や原材料費、供給体制などの条件によって、需要の受け止め方や採算は分野ごとに異なる。本レポートでは、健康寿命インフラ産業を構成する5つの機能ブロックの景気DIを比較することで、需要がどの分野へ広がっているかに加え、どの分野で供給や採算上の制約が生じているかを捉える。

  • これはTDBの公式分類ではなく、景気分析・企業動向分析のため独自再分類案である。本提案は、TDB産業分類上で、健康寿命の延伸や自立生活の維持を支える、機能面で関連の深い供給側産業を横断的に束ねたものである。なお、本分類は既存の産業分類を置き換えるものではなく、新たな需要や産業間の連関を捉えるための分析上の補助分類である。

1. 健康寿命インフラ産業(健康寿命・在宅生活支援産業)

健康寿命インフラ産業は、病気を治すだけの産業ではない。元気な段階の予防から、地域・在宅医療、日常生活の支援、住環境、製品、情報連携までを一体で捉え、本人が自分らしい暮らしを続けられるようにする産業群である。

健康寿命とは、単に長く生きることではなく、健康上の問題によって日常生活が制限されることなく暮らせる期間を指す。産業構造として見る場合、治療や介護だけでなく、悪化を防ぐ予防、暮らしを続ける生活支援、住宅、製品、情報までを一つの仕組みとして捉える必要がある。

政策面では、厚生労働省が示す地域包括ケアシステムでは、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供し、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることが目指されている[1]。健康寿命延伸の施策では、生活習慣の形成、疾病予防・重症化予防、介護予防・フレイル対策が中心に置かれている[2]。介護予防も身体機能だけではなく、日常生活の活動や社会参加を含む考え方である[3]。2026年の日本成長戦略でも、創薬・先端医療は戦略分野に含まれ、家事等の負担軽減は分野横断的課題として整理されている[4]。

こうした政策や人口構造の変化は、健康寿命に関わる需要を支える一方、関連企業の景況感を一律に押し上げるものではない。サービスの提供には人材が必要であり、医療や介護の価格には制度上の制約がある。また、製品供給や流通では原材料費、仕入価格、物流費などが採算を左右する。このため、需要の大きさだけでなく、各分野が需要をどの程度まで事業機会として取り込めているかを見る必要がある。

【図2 健康寿命インフラ産業の基本構造】

【図2 健康寿命インフラ産業の基本構造】

2. 健康寿命インフラ産業を構成する5つのブロック

健康寿命インフラ産業は、「予防・自立生活支援」「地域医療・在宅療養」「医薬品・医療機器・生活補助具」「住環境・安全・見守り」「流通・デジタル連携」の5ブロックから構成される。したがって、従来の業種分類ではなく、健康寿命の延伸と自立生活の維持という共通の需要を軸に、関連産業を横断的に束ねた分類となっている。

健康寿命インフラ産業の景気DIは、5つの構成ブロックをそれぞれ同じ重みで評価する「均等加重方式」により算出する。具体的には、各ブロックの景気DIを合計し、5で除した単純平均である。したがって、各ブロックのウェイトは5分の1となる。

この方式を採用するのは、健康寿命インフラ産業の市場規模を測るためではなく、健康寿命と在宅生活を支える5つの機能全体の景況感を同じ重さで捉えるためである。企業数や売上高、従業員数などで加重すると、母集団の大きい分野の動きが合成指標を左右し、企業数の少ない分野や新たに成長している分野の変化が埋もれやすくなる。各ブロックを同等に扱うことで、需要の広がりと構成分野間の温度差を把握しやすくしている。

なお、本指標は、健康寿命インフラ産業に属する全回答企業をまとめて算出した景気DIとは異なる。全回答企業をまとめる場合、結果として回答企業数の多いブロックの影響が大きくなる。一方、本指標では、回答企業数にかかわらず各ブロックを同じ重さで扱う。このため、本指標が示すのは「対象企業全体の平均的な景況感」ではなく、「健康寿命と在宅生活を支える5つの機能の総合的な景況感」である。

各ブロックの景気DIは、再編対象とした既存産業の企業回答をブロック単位で集約して算出している[5]。

【表1 再編対象となる主な既存産業】

【表1 再編対象となる主な既存産業】

2.1. 予防・自立生活支援ブロック

  • ひと言でいうと:元気なうちから健康と生活機能を守る入口

    健康診断、運動、口腔ケア、健康相談、地域参加、家事支援などを、健康状態や生活機能の低下を防ぐ一連の支援として捉える。治療が必要になってから始めるのではなく、普段の暮らしのなかで健康を保つとともに、本人ができることを残し、難しい部分を補うことで、自立した生活を長く続けやすくする。

  • 構造上の役割:健康診断、運動、口腔ケア、介護予防、家事・生活支援、地域参加を通じて、健康状態と生活機能の低下を防ぎ、自立した暮らしを長く支える
  • 分析上の着眼点:利用者数、継続率、予防サービスの利用頻度、生活支援需要を見る

2.2. 地域医療・在宅療養ブロック

  • ひと言でいうと:自宅と地域の診療室

    診療所、看護、服薬、医療に付帯するサービスなどを通じて、病院へ通うことが難しくなっても、住み慣れた地域や自宅で必要な医療を受けられるようにする。

  • 構造上の役割:身近な診療、看護、服薬、医療支援を自宅や地域で受けられるようにする
  • 分析上の着眼点:在宅・地域での利用者数、訪問件数、人材確保、報酬制度、連携体制を見る

2.3. 医薬品・医療機器・生活補助具ブロック

  • ひと言でいうと:健康と生活を支える道具箱

    医薬品、医療機器、計測器、医療用品、眼鏡などが、治療、測定、服薬、身体機能の補助を支える。人的サービスだけに頼らず、製品や機器で補完する基盤である。

  • 構造上の役割:治療、測定、服薬、移動、身体機能の補助などを支える製品を供給する
  • 分析上の着眼点:出荷・販売、在宅向け用途、保守、価格、供給安定性を見る

2.4. 住環境・安全・見守りブロック

  • ひと言でいうと:家を安全な生活の場にする土台

    内装、給排水・衛生設備、警備などによって、段差、浴室、トイレ、室内動線、防犯、緊急時対応を整える。在宅生活では、身体の状態だけでなく、家の使いやすさが生活の継続を左右する。

  • 構造上の役割:住宅設備の改善や見守りにより、自宅で安全に暮らせる環境を整える
  • 分析上の着眼点:住宅改修、衛生設備工事、見守り契約、緊急対応を見る

2.5. 流通・デジタル連携ブロック

  • ひと言でいうと:物と情報を必要な人へつなぐ裏方

    医薬品・医療機器の卸売と、健康・医療・介護情報を扱うソフトウェアや情報サービスの連携を担う。サービスの間をつなぎ、必要な物を切らさず届け、診療、服薬、看護、介護などの情報を関係者が共有しやすくする。

  • 構造上の役割:医薬品・医療機器の流通と、健康・医療・介護情報の連携を支える
  • 分析上の着眼点:流通量、情報システム案件、医療・介護データ連携、セキュリティを見る

3. ブロック間のつながり

5つのブロックは相互に補完し合うが、需要が同じ時期に、同じ強さで広がるわけではない。また、需要が増えても、供給能力や採算条件によって企業の景況感への表れ方は異なる。例えば、予防サービスへのニーズが高まっても、人材不足や利用者の自己負担が制約となる、あるいは在宅療養の需要が増えても人材確保や報酬制度が事業拡大を難しくする場合がある。一方、製品流通や情報システムは、複数のサービスを横断した需要が表れやすい。この違いを捉えるには、各ブロックのつながりと制約を併せて見る必要がある。

予防と生活支援は連続している。元気な時期の運動や健康相談から、フレイル予防、家事援助、社会参加まで、支援内容は段階的に変わる。予防が単独で完結するのではなく、必要に応じて診療や生活支援へつなげることが重要である。

地域医療が自立生活を医療面から支える。予防だけでは対応できない体調変化には、診療、看護、服薬が必要となる。医療が地域や自宅へ届くことで、生活を大きく変えずに療養しやすくなる。

製品が治療と生活の両方を支える。医薬品や医療機器が治療を支える一方、計測器や補助具は状態の把握や日常生活を支える。健康寿命の維持には、サービスと製品の両方が必要となる。

住環境が在宅生活の土台になる。同じ身体状態でも、段差、浴室、トイレ、給排水、見守りなどを整えなければ、自宅で安全に暮らし続けることは難しくなる。こうした住環境が整えば、自分でできることが増え、在宅生活を続けやすくなる。

流通とデジタル連携が支援の途切れを減らす。必要なものを届け、医療・介護・生活支援の情報をつなぐことで、重複や漏れを減らし、利用者に合った支援へつなげる。デジタル連携は、対面の診療・看護・生活支援と組み合わせることで、より効果を発揮する。

4. 成長と制約を捉える指標

ここでは、各ブロックの需要の広がりと、それを事業として受け止める際の制約を捉えるため、規模・勢い・制約の3つの観点から指標を整理する。高齢化などを背景に需要が増えても、供給能力が不足したり、費用の増加を価格へ十分に転嫁できなかったりすれば、企業の景況感は改善しにくい。これらの指標は景気DIとは異なる実物・事業活動面の指標であり、景況感の変化が実際の需要拡大、供給能力、採算の変化をともなっているかを確認するための補助指標となる。

【表2 成長と制約を捉える指標】

【表2 成長と制約を捉える指標】

5. 健康寿命インフラ産業の景況感

5つの機能ブロックを均等に合成した健康寿命インフラ産業の景気DIは、長期的には全産業とおおむね同じ景気循環をたどりながらも、総じて高めで、景気後退局面における下振れも比較的小さい。医療や生活支援は景気変動に左右されにくい基礎的な需要があるほか、高齢化や在宅生活支援への構造的な需要が景況感を下支えしているとみられる。内訳では、「流通・デジタル連携」が相対的に高い景況感を維持し、「医薬品・医療機器・生活補助具」も産業全体を支えている。

一方、「予防・自立生活支援」や「地域医療・在宅療養」の景気DIは相対的に低く、足元では健康寿命インフラ産業全体の景況感を下押ししている。両分野は高齢化や在宅生活ニーズの高まりによる需要が見込まれる一方、サービスの提供を人材に依存する度合いが高く、人手不足や人件費の上昇、報酬・価格制度、利用者負担などの影響を受けやすい。こうした人材面や制度面の制約が、景況感の重荷となっている可能性がある。「住環境・安全・見守り」は全産業と似た動きを示す局面が多く、住宅投資や設備投資など、景気循環の影響を比較的受けやすい。

直近では全産業との差が縮まり、月によっては全産業を下回る場合もある。高齢化を背景に健康、医療、生活支援への需要が増えても、人材不足、報酬・価格制度、物流費や原材料費などの制約によって、供給能力や採算は分野ごとに異なる。このため、需要の増加が企業の景況感の改善に直結せず、構成分野すべてが一様に上向くとは限らない。こうした需要の広がりと、分野ごとの景況感や制約要因を切り分けて捉えられることが、既存の産業分類を横断して健康寿命インフラ産業を再構成する意義の一つである。

まず長期推移から、健康寿命インフラ産業の景況感が全産業の景気循環に対してどのように推移してきたかを確認する。

【図3 健康寿命インフラ産業景気DIの長期推移】

【図3 健康寿命インフラ産業景気DIの長期推移】

次に直近の推移から、構造的な需要が続くなかでも、健康寿命インフラ産業と全産業の景況感の差がどのように変化しているかを見る。

【図4 健康寿命インフラ産業景気DIの直近推移】

【図4 健康寿命インフラ産業景気DIの直近推移】

さらに、ブロック別景気DIを比較し、相対的に景況感の高い分野と低い分野は表3で確認できる。

【表3 健康寿命インフラ産業のブロック別景気DI】

【表3 健康寿命インフラ産業のブロック別景気DI】

おわりに

健康寿命インフラ産業は、予防・自立生活支援、地域医療・在宅療養、医薬品・医療機器・生活補助具、住環境・安全・見守り、流通・デジタル連携が一体となって、自分らしい暮らしを長く続けるための基盤となる産業群である。健康寿命の延伸には、治療だけでなく、元気な段階からの予防、生活支援、住環境、製品、情報連携までを連続した仕組みとして捉える必要がある。

景況感からみると、健康寿命の延伸や自立生活の維持に関する需要は、各分野の景況感を一様に押し上げているわけではなく、ブロックごとに温度差がみられる。高齢化によって需要が増えても、人材を確保してサービスを提供できるか、費用の増加を価格へ反映できるか、制度の下で採算を確保できるかは分野によって異なるためである。

5つの機能を分けて捉えることで、需要が強い分野と、供給能力や採算面の制約が大きい分野を区別し、健康寿命を支える産業のどこに成長余地やボトルネックがあるのかを把握しやすくなる。今後、各ブロックの景気DIを継続的に追い、利用者数、受注、供給能力、人材、価格、コストなどの実物・事業活動面の指標と照合することで、需要の波及先や制約要因の変化をより的確に捉えることが可能となろう。


[1] 厚生労働省「地域包括ケアシステム」
[2] 厚生労働省e-ヘルスネット「健康寿命延伸プラン」
[3] 厚生労働省「介護予防」
[4] 内閣官房「日本成長戦略本部/日本成長戦略会議」
[5] 参考として、各ブロックの景気DIを当該時点の有効回答企業数で加重すれば、対象企業全体の回答構成を反映した景気DIを算出できる。ただし、その場合は回答企業数の多いブロックの影響が大きくなり、回答構成の変化によってウェイトも変動する。本レポートでは、5つの機能の景況感と構成分野間の温度差を継続的に比較するため、均等加重方式を主指標として採用した。

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