レポート

「渋谷の若者離れ」は本当か? 人流データが示す「二つの渋谷」

若者は西に、大人は東に ― 再開発で出現した「オトナ渋谷」の存在感

「最近の若者は渋谷では遊ばない」「渋谷離れが進んでいる」。そんな声を耳にする機会は少なくない。実際、コギャル文化やファッションカルチャーの発信地として知られた渋谷の存在感は、SNSの普及や街の再開発によって変化したとも言われる。だが、本当に若者は渋谷から消えたのだろうか。

渋谷駅周辺の人流データを分析したところ、興味深い事実が浮かび上がった。少なくとも現在の渋谷においては、街の主役は依然として10代・20代だった。ではなぜ、大人たちは「若者は渋谷にいない」と思うのか。背景には、渋谷の再開発などを背景に年代別の「棲み分け」が進んだ可能性が浮かび上がる。


株式会社ドコモ・インサイトマーケティングの協力を得て、携帯位置情報による人流データ「モバイル空間統計(R)」を基に、帝国データバンクが分析した。2025年4月~2026年3月における平均的な平日・休日の人流をベースに、渋谷駅を中心とした750メートル四方のエリアを対象とした。また、渋谷エリアのうち、「ハチ公前(スクランブル交差点)」、渋谷109などのランドマークを含む「センター街」など、それぞれ250メートル四方の「エリア」に分割し、渋谷内の人流動態における特徴を分析した。

この結果、2025年度の月平均人流をみると、渋谷駅周辺に滞在する人のうち20代は平日33.3%、休日38.1%を占めた。さらに10代を加えた「20代以下」の割合は平日40.7%、休日47.8%に達する。休日に至っては、渋谷にいる人のおよそ2人に1人が20代以下という計算だ。

もちろん、1990年代や2000年代初頭の「若者の街」と比べれば、全体に占める若年層比率は低下している可能性がある。しかし、人流データを見る限りでは、渋谷の中心的な人流が若者である構図に大きな変化は見られず、「若者が渋谷からいなくなった」事実は見受けられない。

センター街は半分以上が「若者」

地点別に分析すると、若年層比率は街区によって大きく異なる。平日における20代以下の割合は、渋谷PARCO周辺が47.6%でトップ。続いてセンター街47.3%、宮下公園(MIYASHITA PARK)42.8%、ハチ公前41.0%となった。

休日になると、その傾向はさらに強まる。渋谷PARCO周辺では54.3%、センター街では53.5%に達し、若年層だけで過半数を超える。宮下公園も49.8%、ハチ公前も47.5%となり、渋谷を象徴するエリアほど若年層比率が高い。センター街近隣を中心とした渋谷駅西側エリアは、ファッションや音楽、アニメ、ゲーム、流行りの飲食店といった若年層向けコンテンツが集中するほか、目的地が複数存在するため回遊性が高い。一方で、路地文化やストリートカルチャーも残っており、「歩くだけでもコンテンツがある街」としての魅力は大きく、SNSとの親和性も高いのが特徴だ。若者の渋谷離れが語られる一方で、実際には令和の今も「渋谷カルチャー」の中心地として存在感を発揮している様子がうかがえる。

人流データで浮かぶ「オトナ渋谷」の存在感

一方で、渋谷駅東側では30代~50代のいわゆる「ミドル世代」の比率が高いエリアが目立つ。平日では、渋谷ストリームや宮益坂、渋谷署周辺など、駅東側ではミドル世代の人流が全体の5割を占めた。休日になると、センター街など若者に人気な街ではミドル世代の比率が低い一方、美竹通りなどのエリアでは逆に半数を占めるなど、ミドル世代の存在感が際立つエリアもある。

渋谷駅の東側は明治通りや青山通りに面し、マンションやカフェなど落ち着いた飲食店が多く立ち並ぶ。さらに近年は再開発が進んだことでオフィスビルが多く立ち並ぶようになり、ビジネスパーソンの往来も目立つようになった。そのため、渋谷駅の西側が「若者渋谷」とするならば、東側は落ち着いた大人向けの街=「オトナ渋谷」エリアと言い表すことができる。

二つの渋谷は再び「一つ」に?

人流データによる分析では、一つの渋谷のなかに異なる世代の集まる「二つの街」が併存している事実が浮かび上がった。「渋谷の若者離れ」が語られる背景には、こうした世代間の“すれ違い”があるのではないだろうか。若者が渋谷からいなくなったわけではない。再開発によって渋谷の街が拡張するなかで、若者は西側に、大人は東側に、それぞれ居場所を分けてきたと言えそうだ。

もっとも、この棲み分けが今後も続くとは限らない。渋谷サクラステージなど大規模な再開発による複合商業ビルの出現で、東側が中心だったオフィス機能が西側にも広がり始めている。実際に、本社所在地数も西側エリアが東側を上回っており、企業の集積地には変化がみられる。こうした街の変化によって、若者と大人が利用するエリアの境界は徐々に薄れていく可能性もある。


少なくとも現在の渋谷は、「若者の街」でもあり「大人の街」でもある、両方が共存する街だ。人流データは、そんな新しい渋谷の姿を映し出している。

※「モバイル空間統計」および「モバイル空間統計」ロゴは、株式会社NTTドコモの登録商標です

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