レポート

第4次AIブームの現在地と次に来るAIの企業活用

AIは「生成」から「実行」の段階へ ~生成AIの普及から、AIエージェント・フィジカルAIによる「実行するAI」に~

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

近年、生成AIは文章作成や要約、情報収集、企画立案、プログラミング支援など、企業の日常業務に入り込み始めている。人手不足や賃上げ対応、業務量の増加、DX人材不足に直面する企業にとって、生成AIは限られた人員で生産性を高める手段として注目されている。

帝国データバンクが2026年3月に実施した調査[1]によると、生成AIを業務で「活用している」企業は34.5%だった。実際に使い始めた企業の多くが一定の効果を実感しており、生成AIは話題先行の技術から、企業実務で成果を生む段階へ移りつつある。

本レポートでは、現在のAIブームを「第4次AIブーム」と位置づけ、第1次から第4次までの流れを整理する。そのうえで、企業における生成AI活用の現状を踏まえ、次に来るAIブームとして、AIエージェントやフィジカルAIを中心とする「実行するAI」の展開を考察する。

【要約】

  1. 現在のAIブームは、生成AIや大規模言語モデルを中心とする「第4次AIブーム」と位置づけられる。第1次から第3次までのAIブームが、それぞれ「推論・探索」「知識処理」「機械学習・ディープラーニング」を中心としてきたのに対し、第4次ブームでは、AIが文章作成、要約、情報収集、企画、プログラミングなど、日常的な知的業務に入り込み始めている。
  2. 企業の生成AI活用はすでに一定程度広がっており、活用企業では効果実感も高い。一方で、情報の正確性、情報漏洩、人材・ノウハウ不足、運用ルール整備が課題となっている。
  3. 次に来るAIブームは、「生成するAI」から「実行するAI」への転換として捉えられる。AIエージェントやフィジカルAIが、業務プロセスや現場作業に入り込むことで、企業活動は省力化だけでなく、新たな付加価値創出へ向かう余地がある。ただし、その成否は、データ整備、業務設計、人材育成、ガバナンスの整備に左右される。

1. AIブームの歴史的整理

AI(Artificial Intelligence:人工知能)の歴史は、技術進歩の歴史であると同時に、企業や社会が「何を機械に担わせようとしたか」の歴史でもある。

1.1 第1次AIブーム:推論・探索への期待

第1次AIブームは、1950年代後半から1960年代にかけての推論・探索を中心とした時期である。迷路、ゲーム、定理証明など、明確なルールがある問題をコンピュータに解かせる研究が進んだ。

この時期のAIは、企業実務に広く普及する段階には至っていなかった。日本では高度成長期の大型コンピュータ導入や事務処理の機械化と並行し、コンピュータを計算だけでなく判断や推論にも使えるのではないかという期待が広がった。

第1次AIブームは、実用化よりも「コンピュータは考えられるのか」という可能性を提示した時期であった。

1.2 第2次AIブーム:知識処理とエキスパートシステム

第2次AIブームは、1980年代を中心に、1990年代初頭にかけて注目された知識処理の時代である。中心となったのは、エキスパートシステムであった。これは、専門家の判断やノウハウをルールとして記述し、コンピュータに再現させようとするものである。

日本企業との関係では、製造、設計、品質管理、金融審査、故障(トラブル)診断などの分野で、熟練者の知識をシステム化する試みが進んだ。1980年代の日本は、製造業、電機、半導体、金融などで国際競争力を高めていた時期であり、企業内に蓄積された専門知識や熟練技能を形式知化することへの関心が高かった。

しかし、人間の知識や判断をすべてルールとして書き出すことは容易ではなかった。現実の業務では、例外、曖昧さ、経験的な判断が多く、ルールの追加や保守にも大きな負担が生じた。そのため、第2次AIブームは、期待の大きさに比べて実用化の範囲が限られ、やがて停滞した。

1.3 第3次AIブーム:機械学習・ディープラーニング

第3次AIブームは、2010年頃からの機械学習・ディープラーニングを中心とした時期である。この段階で転機となったのは、AIが人間の書いたルールに従うだけでなく、大量のデータから特徴やパターンを学習する技術として広がったことである。

企業活動では、画像認識、需要予測、異常検知、レコメンド、リスク管理などで活用が進んだ。製造業では外観検査や予知保全、小売・サービスでは需要予測や顧客分析、金融では与信や不正検知、物流では配送最適化や在庫管理など、現場データを活用した効率化が進んだ。

この時期のAIは、DX、IoT、ビッグデータ活用とも結びついた。センサーや業務システムから得られるデータを用いて、現場の効率化や自動化を進める技術として企業に浸透していった。第3次AIブームは、AIが研究室の技術から、工場、店舗、物流、金融、行政などの現場へ入り込んだ段階といえる。

1.4 第4次AIブーム:生成AI・大規模言語モデル

現在のAIブームは、2022年後半以降に広がった、大規模言語モデルを中核技術とする生成AIを中心とした「第4次AIブーム」と位置づけられる。第3次AIブームまでのAIは、画像認識、需要予測、異常検知など、比較的特定の用途で使われることが多かった。これに対して、第4次AIブームでは、自然言語で指示を出すだけで、文章、画像、コード、資料、要約、アイデアなどを生成できる点が大きな特徴である。

この変化により、AIは専門人材だけが扱う技術ではなく、一般社員が日常業務で使う道具になりつつある。文章作成や情報整理を中心に、活用対象はホワイトカラー業務全般へ広がり始めている。

第4次AIブームの本質は、AIが「認識する技術」「予測する技術」にとどまらず、知的作業のたたき台を作る技術へ広がった点にある。企業にとっては、生成AIを使うことで、業務の速度を高めるだけでなく、見落としを減らし、アイデアを広げ、限られた人員でより多くの業務に対応できる余地が生まれている。

2. 企業における生成AI活用の現状

帝国データバンクが2026年3月に実施した調査[1]によると、生成AIを業務で「活用している」企業は34.5%であった。内訳は、「非常に活用している」が4.4%、「やや活用している」が30.2%である(四捨五入の関係で合計と一致していない)。一方で、「あまり活用していない」は13.6%、「ほとんど活用していない」は23.3%となり、低活用層もなお約4割にのぼる。「いまは活用していないが、今後の活用を検討している」は14.2%で、活用余地を残す企業も一定数存在する。

この結果から、生成AIはすでに企業活動に一定程度入り込んでいるものの、企業全体としてはなお移行期にあるとみられる。

2.1 活用企業は3割台、大企業ほど高い

規模別にみると、企業規模が大きいほど生成AIの活用率は高い。大企業では「活用している」が46.5%であるのに対し、中小企業は32.4%、小規模企業は28.0%であった(図1)。従業員数別でも、「1,000人超」では63.6%、「301~1,000人」でも51.9%と高い一方、「5人以下」は29.6%にとどまっている。

業界別では、「サービス」が47.8%で最も高く、「金融」が38.6%、「不動産」が34.9%で続いた。他方、「建設」は26.4%、「運輸・倉庫」は27.5%と相対的に低い。業務のデジタル化度合いや、情報処理業務の比重、社内体制の違いが、生成AI活用の進み方に影響しているとみられる。

【図1 生成AIを現在『活用している』割合~全体・規模・従業員数・業界別~】

【図1 生成AIを現在『活用している』割合~全体・規模・従業員数・業界別~】

2.2 活用業務は「文章・情報整理」が中心

生成AIを業務で活用している企業に対して、主にどのような業務で活用しているかを尋ねたところ、最も多かったのは「文章の作成・要約・校正」の45.1%であった(表1)。次いで、「情報収集」が21.8%、「企画立案時のアイデア出し」が11.0%となった。一方、「データの集計・分析」は7.4%、「コード生成などのプログラミング支援」は5.9%にとどまっている。

【表1 生成AIの主な活用業務】

【表1 生成AIの主な活用業務】

この結果は、生成AIが現時点では最終判断を代替するというより、判断の前段階にある情報整理、文章化、たたき台作成を支援する形で使われていることを示している。いわば、生成AIは「判断するAI」ではなく、「人間が判断するための材料を整えるAI」として活用されている。

専任の調査・企画担当者を置きにくい中小企業では、生成AIによって情報収集や資料作成の初動を早められる効果が大きい。

2.3 効果実感は高いが、課題も明確

活用企業を対象にした生成AIの業務への効果の質問では、「大いに効果が出ている」が25.2%、「やや効果が出ている」が61.5%となり、合計で86.7%が「効果あり」だった(表2)。実際に活用している企業の多くが、何らかの業務上の効果を実感している。

規模別では、小規模企業で「大いに効果が出ている」とする割合が29.7%となり、大企業の20.8%を上回った。これは、人員の限られた企業ほど、文章作成や情報整理の効率化を直接的に感じやすいことを示唆している。

【表2 業務への効果】

【表2 業務への効果】

一方で、懸念・課題も明確である。生成AI活用に関する懸念・課題として最も多かったのは「情報の正確性」の50.4%であった(表3)。次いで、「専門人材・ノウハウ不足」が41.3%、「生成AIを活用すべき業務の範囲」が40.0%、「情報漏洩のリスク」が33.5%、「トラブル時の責任所在などのルール整備」が25.5%となった。

【表3 生成AI活用に関する懸念・課題(3つまでの複数回答)~上位5項目~】

【表3 生成AI活用に関する懸念・課題(3つまでの複数回答)~上位5項目~】

また、悪影響・トラブルについては、「悪影響やトラブルはない」が67.7%で最も多かった。直接的な事故は現時点では広範に表面化していないとみられる。一方で、「AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の間で、能力や成果の格差が拡大した」は18.8%にのぼった。生成AIの影響は、単なる情報漏洩や誤回答といった事故だけでなく、社員間の使いこなし格差、確認負担、人材育成の難しさとして表れている。

以上の結果から、生成AIはすでに企業実務に入り込み始めているものの、その活用は文章作成、情報収集、要約といった「判断の手前」の業務に集中していることが分かる。次章では、こうした活用が日本企業にとってどのような意味を持つのかを整理する。

3. AIブームと日本経済・企業活動のつながり

AIブームは、その時代の企業や社会が何を自動化し、どのような能力を機械に担わせようとしたのかを映している。第1次ブームでは、コンピュータが「考える」ことへの期待があった。第2次ブームでは、専門家の知識や熟練者のノウハウをシステムに置き換えようとした。第3次ブームでは、データから見分ける、予測する、異常を検知することが重視された。

これに対し、第4次AIブームでは、文章を作る、情報を整理する、企画のたたき台を出すといった知的作業の補助が中心となっている。AIは一部の技術者や専門部署だけが扱うものではなく、一般社員が日常業務のなかで使う道具へと広がり始めている。この点に、第4次AIブームが日本企業に与える大きな意味がある。

3.1 日本企業がAI活用を急ぐ背景

日本企業が生成AIに注目する背景には、人手不足、賃上げ圧力、業務量の増加という構造課題がある。少子高齢化が進むなか、多くの企業では採用が難しくなっている。一方で、人材を確保するためには賃金を引き上げる必要があり、その前提として生産性の向上が求められる。人員が増えにくいが故に、報告、管理、確認、顧客対応、社内調整といった業務はより増えやすい。

生成AIは、こうした課題に対する一つの解決策となり得る。文章作成、要約、情報収集、問い合わせ対応、資料作成などは、多くの企業に共通する業務である。これらの作業時間を短縮できれば、社員は本来注力すべき判断、顧客対応、企画、改善活動により多くの時間を使えるようになる。

ただし、生成AIは万能ではない。出力内容をどのように確認し、どこまで業務に組み込み、どの工程で人間が判断するのかによって、効果は大きく変わる。生成AIの活用は、単なるツール導入ではなく、業務設計そのものに関わる問題である。

3.2 中小企業にとっての可能性

中小企業にとって、生成AI活用の意味は特に大きい。大企業と比べて専任部署や専門人材を置きにくく、経営者や管理職に営業、採用、資金繰り、社内管理などの業務が集中しやすいからである。生成AIは、こうした業務の論点整理や資料作成を支援することで、少人数体制の弱点を補う可能性がある。

ただし、情報管理や社内ルールが整わないまま使えば、顧客情報や取引先情報、個人情報などの漏洩リスクが生じる。中小企業では、導入支援だけでなく、利用ルールや教育支援まで含めた支援が求められる。

3.3 「実行するAI」へ向かう理由

現在の生成AI活用は、文章作成や情報整理など、人間の判断を支える業務に集中している。しかし、企業活動は情報を整理するだけでは完結しない。顧客に提案し、見積もりを作成し、承認を取り、発注し、提供し、請求し、次の対応につなげるといった一連の業務プロセスがある。

企業が次に求めるのは、単に情報を生成・整理するAIではなく、整理した情報をもとに業務を前に進めるAIである。この点に、AIエージェントやフィジカルAIへと関心が移っていく理由がある。第4次AIブームで生成AIが知的作業の入口に入り込んだとすれば、次の段階では、AIが業務プロセスや現場作業の実行支援へと広がっていく。

4. 次に来るAIブーム:生成するAIから実行するAIへ

現在の生成AI活用は、文章や情報の生成・整理を中心に広がっている。しかし、企業活動は文章を作るだけでは完結しない。次のAI活用の焦点は、顧客対応、承認、発注、提供、請求、現場作業といった業務の流れそのものにAIを組み込むことに移っていく。そのとき、AIは単に答えを出すだけでなく、業務の手順を計画し、システムや機器を操作し、一定の作業を実行する方向へ進むとみられる。

本レポートでは、これを便宜上「次のAIブーム」と呼び、内容面ではAIエージェントやフィジカルAIなど、業務や現場の実行支援に関わるAIを中心に整理する。

もっとも、AIエージェントやフィジカルAIは、第4次AIブームと断絶した別の技術ではない。生成AIや大規模言語モデルを土台にしながら、その役割が「生成」から「実行支援」へ広がるものと捉えるべきである。

4.1 AIエージェント:業務プロセスを進めるAI

AIエージェントとは、人間の指示を受けて、複数の作業を分解し、必要な情報を集め、ツールやシステムを使いながら、目的達成に向けて動くAIである。現在の生成AIが「文章を作るAI」だとすれば、AIエージェントは「業務を進めるAI」に近い。

例えば、営業では顧客情報や過去取引を踏まえた提案準備、経理では請求書処理や承認フロー、人事では応募書類の整理や日程調整、開発ではコード作成やテスト支援などが想定される。

AIエージェントが普及すれば、企業活動のなかでも、特に部門間・システム間をまたぐ業務の進め方が変わり得る。現在は、社員が複数のシステムを開き、情報を探し、文章を作り、確認を依頼し、次の工程へ回している。AIエージェントは、こうした一連の流れの一部をつなぎ、業務の停滞や手戻りを減らす役割を果たす。

【図2 AIエージェントの活用イメージ】

【図2 AIエージェントの活用イメージ】

4.2 フィジカルAI:現場作業を支援するAI

もう一つの柱が、フィジカルAIである[3]。本レポートでは、フィジカルAIを、AIがロボット、機械、車両、設備、センサーなどと結びつき、現実世界の状況を認識し、判断や動作を通じて作業を支援する技術領域として捉える。

第3次AIブーム以降、画像認識や異常検知は製造現場で活用されてきた。しかし、次の段階では、AIが現場の状況を理解し、判断し、実際の動作につなげる領域へと広がっていく。

日本経済との関係では、フィジカルAIの意義は大きい。人手不足は、事務部門だけでなく、物流、建設、介護、農業、小売、サービスなどの現場でも深刻である。生成AIによる事務効率化だけでは、人が足りない現場を十分に支えることはできない。AIがロボットや機器と結びつくことで、現場作業の一部を補完できれば、人手不足への対応力は高まる。

ただし、フィジカルAIは、ソフトウェアだけでなく設備投資、現場設計、安全管理、人材教育をともなう。そのため、普及には一定の時間を要する。中小企業では、まずは既存設備やクラウドサービスと組み合わせた小さな導入が先行しやすい。

【図3 フィジカルAIの活用イメージ】

【図3 フィジカルAIの活用イメージ】

4.3 「生成するAI」と「実行するAI」の違い

第4次AIブームと次のAIブームの違いは、AIの役割にある。第4次ブームでは、AIは主に文章、画像、コード、資料などを生成し、人間がその出力を確認・修正して利用する。一方、次のブームでは、AIが業務の流れに入り込み、複数の工程をまたいで作業を進める。

【図4 AI活用の発展段階】

【図4 AI活用の発展段階】

AIが実行に関わるほど、効率化の効果は大きくなる一方、失敗した場合の影響も大きくなる。そのため、メール送信、発注、承認フローなどをAIが担う場合には、権限管理、確認手順、責任所在の明確化が不可欠となる。

5. 企業への影響:省力化から付加価値創出へ

次のAIブームが企業に与える影響は、3つの段階で整理できる。第一段階は省力化、第二段階は業務プロセスの再設計、第三段階は新たな付加価値の創出である。

5.1 第一段階:省力化

第一段階は、既存業務を速く、少ない負担で処理する省力化である。文章作成、議事録、問い合わせ対応、確認作業など、企業に共通する定型的な知的業務で効果が出やすい。

中小企業では、総務、経理、人事、営業支援などを少人数で兼務するケースが多く、AIによる省力化の効果を実感しやすい。

5.2 第二段階:業務プロセスの再設計

第二段階は、AIを前提に業務フローを組み替えることである。生成AIを単なる便利ツールとして使うだけでは、個人の作業効率は上がっても、組織全体の生産性向上には限界がある。

重要なのは、どの業務でAIを使い、どの工程で人間が確認し、どのデータを参照させるのかをあらかじめ設計することである。営業資料作成や請求書処理などでこうした流れを明確にすれば、AI活用は個人任せではなく、組織としての標準業務になる。

5.3 第三段階:新たな付加価値の創出

AI活用の最終的な意義は、省力化だけではない。AIによって生まれた時間や情報処理能力を、新たな商品・サービスの開発、顧客対応の高度化、研究開発、地域課題の解決などに振り向けることで、付加価値を高めることができる。

例えば、購買履歴や問い合わせ内容をもとにした個別提案、製造業における設計・検査・保全データを組み合わせた品質改善、サービス業における口コミ分析を通じたサービス改善などが考えられる。AIは、人間がより創造的で判断を要する仕事に集中するための技術として位置づけることが望ましい。

6. リスクとガバナンス

AIが業務の実行に近づくほど、効率化の効果は大きくなる一方で、誤った判断や不適切な処理がもたらす影響も大きくなる。とりわけ、次のAIブームでは、AIが単に文章を作成するだけでなく、実行に関わる段階へ進む。そのため、企業は「便利だから使う」段階から、「安全に使い続ける仕組みを整える」段階へ移ることが求められる。

6.1 情報の正確性

企業が最も懸念しているのは、情報の正確性である(表3参照)。生成AIは、もっともらしい文章を作る一方で、誤った情報を含むことがある。調査、法務、契約、財務、人事、採用など、正確性が特に問われる業務では、AIを最終判断者ではなく、論点整理や確認リスト作成の補助として使うことが基本となる。

6.2 情報漏洩・知的財産・プライバシー

情報漏洩も大きなリスクである(表3参照)。顧客情報、個人情報、取引先情報、未公開の経営資料、技術情報などを外部サービスに入力することにより、情報管理上のリスクが生じかねない。

企業は、AIに入力してよい情報と入力してはいけない情報を明確にする必要がある。生成物を社外に出す場合には、著作権、商標、個人情報、誤認表示などにも留意し、利用規程を具体的な業務手順として整えることが望ましい。

6.3 使いこなし格差と人材育成

生成AIの活用が進むと、AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の差が、業務成果の差として表れやすくなる。帝国データバンクの調査でも、使いこなし格差の拡大が一定程度認識されている。

これは単なるITスキルの差ではない。AIをうまく使うには、問いの立て方や前提条件の整理、出力の検証、編集力、業務知識が必要である。つまり、研修では操作方法だけでなく、どのような場面で使うのか、どのように確認するのか、どこまで任せてよいのかまで扱うことが大切となる。

若手社員については、AIに依存しすぎることで、自ら考える力や基礎的な業務理解が育ちにくくなるリスクもある。AIを使わせないのではなく、AIを使いながら考える力を伸ばす教育設計が求められる。

6.4 責任所在と運用ルール

AIの活用が進むほど、責任所在の明確化が前提となる(表3参照)。AIが作成した文章を誰が確認し、AIが提案した判断を誰が承認し、AIエージェントにどこまで自動実行を認めるのかを明確にしておく必要がある。

特に、メール送信、発注、契約、採用、評価、与信、支払い、顧客対応など、外部への影響が大きい業務では、AIの実行権限を段階的に管理し、人間による確認を組み込むことが求められる。

7. 政策・企業への示唆

生成AIの活用は、導入そのものよりも、使いこなすための仕組みづくりが成果を左右する段階に入っている。今後、AIエージェントやフィジカルAIが広がれば、この傾向はさらに強まる。

7.1 企業への示唆

企業はまず、効果が出やすくリスクが比較的低い業務からAI活用を始めることが望ましい。文章作成、要約、情報整理、議事録、社内FAQ、営業資料などが候補となる。

そのうえで、出力の確認手順、利用範囲、責任者を明確にする必要がある。AI活用を個人任せにせず、社内で組織として活用事例を共有し、部門ごとの標準的な使い方や研修、マニュアルを整えることが重要である。

7.2 中小企業への示唆

中小企業では、生成AIを社長や管理職、少人数の事務担当者の「右腕」として使う発想が有効である。大企業のように専任部署や専門人材を置きにくい一方で、営業、採用、資金繰り、価格改定、補助金、社内管理などの課題が経営者や管理職に集中しやすいからである。生成AIは、こうした課題について、論点整理、資料作成、文章化、比較検討を支援できる。

まずは、顧客向けメール、提案書のたたき台、求人票、社内通知、議事録、マニュアル、問い合わせ対応のFAQなど、日常的に発生する文書作成や情報整理から始めるのが現実的である。効果があった使い方を社内で共有し、繰り返し発生する業務に組み込めば、生成AIは少人数経営を支える業務基盤となり得る。

ただし、情報管理や社内ルールが後回しになりやすい点には注意が必要である。顧客情報、個人情報、未公開の取引情報、技術情報などを安易に入力すれば、情報漏洩につながりかねない。最低限、入力してはいけない情報、社外に出す前の確認、利用するツール、責任者または相談先を明確にしておきたい[2]。

7.3 政策面での示唆

政策面では、単なる導入促進だけでなく、運用を支える支援が求められる。中小企業に対しては、業種別・業務別の活用事例、情報管理のひな型、社内ルールのモデル、研修機会、相談窓口などが有効である。

また、AIを人手不足対策にとどめず、地域企業の営業力、商品開発力、顧客対応力を高める基盤として支援する視点も必要になる。地域企業がAIを使って営業力を高め、商品開発を進め、顧客対応を改善できれば、AIは単なる省力化ツールにとどまらず、地域経済の競争力を支える技術になり得る。情報漏洩、著作権、個人情報、責任所在などについては、法務やITの専門人材が限られる中小企業にも分かりやすい実務的なガイドラインが求められる。

おわりに

本レポートでは、現在のAIブームを第4次AIブームと位置づけ、第1次から第4次までの流れと企業活動への影響を整理した。現在の生成AIブームの特徴は、AIが専門家や技術者だけのものではなく、一般社員の日常業務に入り込んだ点にある。

2026年3月の調査結果からは、生成AIを業務で活用している企業が3割台に達し、活用企業の多くが効果を実感していることが分かった。一方で、情報の正確性や情報管理、人材・ノウハウ、責任所在をめぐる課題も明確であり、生成AI活用は導入の有無ではなく、業務への組み込み方と確認体制の設計が問われる段階に移っている。

次に来るAIブームでは、AIエージェントやフィジカルAIが、業務プロセスや現場作業の実行支援へと広がっていくであろう。AI活用の焦点は、省力化から業務再設計、さらには付加価値創出へと広がっていく。

ただし、AIが実行に関わるほど、リスク管理の重みは増す。情報の正確性、情報管理、責任所在、社員教育、実行権限の管理を整えながら、AIをどのように業務に組み込み、人間の判断力や創造性をどう高めるかが、企業の競争力を左右することになろう。


【参考文献・資料】

  1. 本文で直接参照した調査・官公庁資料

[1] 帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」2026年5月14日発表
[2] 帝国データバンク帝国データバンク「景気のミカタ 生成AIは『導入するか』から『どう回すか』へ」、『帝国ニュース日刊版』2026年6月1日号、pp.4-5
[3] 帝国データバンク「【注目業界】フィジカルAI業界の動向と展望(主要企業一覧掲載)」、TDB REPORT ONLINE、2026年2月26日掲載
[4] 文部科学省『令和6年版 科学技術・イノベーション白書』第1章「新時代を迎えたAI」
[5] 内閣府『人工知能基本計画』2025年12月23日閣議決定
[6] 内閣府「Society 5.0
[7] 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン
[8] 経済産業省「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」2024年6月
[9] デジタル庁「ガバメントAI『源内』
[10] 情報処理学会 コンピュータ博物館「知識情報処理指向の第五世代コンピュータプロジェクト開始

  1. AI史・技術史を補強する基礎文献

[11] Turing, A. M. “Computing Machinery and Intelligence.” Mind, Vol. 59, No. 236, 1950, pp. 433–460.
[12] McCarthy, J., Minsky, M. L., Rochester, N., and Shannon, C. E. “A Proposal for the Dartmouth Summer Research Project on Artificial Intelligence.” 1955.
[13] LeCun, Y., Bengio, Y., and Hinton, G. “Deep Learning.” Nature, Vol. 521, 2015, pp. 436–444.
[14] Vaswani, A., Shazeer, N., Parmar, N., et al. “Attention Is All You Need.” 2017.
[15] OpenAI. “GPT-4 Technical Report.” 2023.
[16] Bubeck, S., Chandrasekaran, V., Eldan, R., et al. “Sparks of Artificial General Intelligence: Early experiments with GPT-4.” 2023.

  1. AIエージェント・次世代AI活用に関する補足参考資料

[17] Capgemini Research Institute. “Rise of agentic AI: How trust is the key to human-AI collaboration.” 2025.
[18] Capgemini Research Institute. “Generative AI in organizations 2025.” 2025.
[19] NVIDIA Developer Blog. “AI Factories, Physical AI, and Advances in Models, Agents and Infrastructure That Shaped 2025.” 2025.

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