レポート

求人件数と人手不足関連DIの関係

人手不足調整は求人に段階的に表れる ~ 従業員数・残業の調整を踏まえ、正社員と非正社員の違いが生まれる ~

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

人手不足が長期化するなか、企業の求人動向は労働需給を把握するうえで重要な情報として注目されている。2026年1月時点では、正社員は企業の52.3%、非正社員は28.8%が不足していると捉えていた[1]。また、人手不足は事業継続にも影響を及ぼし、人手不足を理由とした倒産は2025年度に441件発生し、過去最多を更新した[2]。一方で、求人の増減だけで完結するものではない。既存人員の増減や充足の遅れ、時間外労働による補完など、複数の調整手段が組み合わされながら、企業の人手不足対応は進む。このため、求人件数と人手不足に関連する指標の関係を把握するには、時間的な順序をあらかじめ固定せずに、先行・同時・遅行のいずれとして表れやすいかをフラットに比較・検証する必要がある。

本レポートでは、株式会社フロッグの「HRogチャート」から得られる求人情報を基に作成した正社員・非正社員の求人件数と、TDB景気動向調査に基づく雇用過不足DI、従業員数DI、時間外労働時間DIの連動関係を、多面的な手法で整理した。具体的には、同時点の相関、ラグ構造、双方向の説明力、VAR・グレンジャー因果性、局面転換の順序、共分散構造分析(SEM)の順に重ねて確認し、求人件数が人手不足調整のどの段階で表れやすいかを捉えることを目的とする。また、本レポートでいう「先行・同時・遅行」は時系列上/予測上の順序を意味し、厳密な因果関係の断定を意味しない。なお、本レポートは、求人件数と人手不足に関連する指標との関係を、時間的な順序を固定せずに比較・検証した。

【要約】

  1. 正社員では、求人件数と雇用過不足DIに水準の同時相関がみられる一方、双方向性も残り、局面転換ではおおむね並走する傾向が確認された。
  2. 非正社員では、水準の同時相関は弱いが前年差では同方向の動きが確認され、局面転換では求人件数が不足感より平均2~3カ月程度遅れる傾向がみられた。
  3. また、従業員数DIの変化が求人件数の変化に先行する結果が得られ、求人件数は既存の人員調整に反応する側面も強いと捉えられる。
  4. 正社員求人と時間外労働時間は、短期的にはおおむね同時に動くが、前年比ベースでは求人増が時間外労働の鈍化・正常化と結びつく可能性がある。
  5. 以上より、求人件数は特定の方向性だけで整理するものではなく、不足感・人員・残業の調整過程も織り込みながら変動する複合的な指標として捉えるのが妥当である。

1. 分析の目的

本分析の目的は、企業の求人件数と人手不足に関連する指標との関係を、時間的な順序をあらかじめ固定せずに定量的に把握することである。具体的には、正社員・非正社員の求人件数と、雇用過不足DI、従業員数DI、時間外労働時間DIとの間に、どのような連動関係がみられるかを明らかにする。

重要なのは、求人件数と人手不足感の関係を特定の方向に仮定しないことにある。求人件数が先に変化する局面もあれば、人手不足感の変化が先に表れる局面、あるいは同時に動く局面もあり得る。そこで本レポートでは、同時性・ラグ構造・双方向性の観点から複数の手法で検証を重ね、求人件数が先行・同時・遅行のいずれとして表れやすいかをフラットに捉える。

あわせて、求人件数、人手不足感、従業員数、時間外労働時間の間にどのような調整メカニズムが成り立つかを整理する。これにより、求人件数が採用意欲の表れにとどまるのか、採用難の反映なのか、あるいは人手不足調整の過程の一部として変動しているのかを、多面的に捉えることを目指す。

2. 分析の枠組みと推計式

本分析では、求人件数と各種DIの関係を一方向に仮定せず、複数の観点から段階的に確認する枠組みを採用した。具体的には、(1)同時点の連動性、(2)前後方向のラグ構造、(3)双方向の説明力、(4)予測上の先行性、(5)局面転換の順序、(6)構造モデル上の整合性、の6段階で点検した。すなわち、同じ関係を「相関」「動学回帰」「VAR」「転換点」「SEM」で重ねて確認し、特定の手法だけに依存しない形で全体像を捉える設計である。

〔第1段階:同時点相関(連動性の把握)〕

本段階では、各系列の基本的な連動性を確認し、同じ月に同じ方向へ動きやすいかを捉える。Pearson相関係数は次式で定義される。

ここで、xtytは各月tにおける2系列の値である。水準系列だけでなく、前月差および前年同月差でも同様に相関を計算し、共通トレンドによる見かけの相関がどの程度含まれているかを点検する。

〔第2段階:先行・遅行分析(ラグ構造の把握)〕

本段階では、求人件数を先行側と仮定せず、前後両方向にラグを振ったクロス相関から、時間的な並び方がどの位置で強まりやすいかを捉える。概念的な式は次のとおりである。

ここで、Jtは求人件数、Dtは相手系列である。k>0で相関が高ければ求人件数が相対的に先に動きやすく、k<0 で相関が高ければ相手系列が相対的に先に動きやすいことを示す。水準系列は共通トレンドの影響を受けやすいため、実務上の判断では前年差系列および前月差系列を重視する。

〔第3段階:双方向回帰(双方向性の点検)〕

本段階では、自己持続性を考慮したうえで「求人件数→DI」と「DI→求人件数」の双方を推計し、双方向性と相対的な説明力を捉える。用いるのは自己回帰付き分布ラグモデルであり、基本式は次のとおりである。

第1式は「求人からDIへ」、第2式は「DIから求人へ」の向きを表す。各モデルではラグ長を0~6カ月の範囲で比較し、BICが最も小さい仕様を採用した。BICは次式で定義される。

ここで、Lは尤度、Kはパラメータ数、Tは標本数である。BICの改善幅に加え、追加ラグ全体の有意性や係数の符号も総合し、関係の向きを機械的に決め打ちにせずに整理する。

〔第4段階:VAR・グレンジャー因果性(予測上の先行性:補助分析)〕

本段階は、短期の変化率ベースで「どちらの過去情報が相手系列の予測を改善するか」を確認する補助分析である。前月差系列を用い、2変数VARを推計する。2変数VARの一般形は次式である。

ここでいうグレンジャー因果性は、構造的な因果効果そのものではなく、ある変数の過去情報が相手系列の予測を改善するかどうかを問う概念である。そのため本レポートではVAR単独で結論を出さず、他の段階の結果との整合性を重視して解釈する。

〔第5段階:転換点比較(局面転換の順序)〕

本段階では、水準や変化率の相関とは別に、系列の「山」と「谷」がどの順序で表れるかを比較する。まず、3カ月移動平均で系列を平滑化する。

局所的な山・谷を抽出したうえで、近接する転換点どうしを対応づけ、次の時間差を計測する。

lag=TPjob-TPother

ここでのlagは「転換点の順序差」を表し、lag>0は求人数の転換点が相手系列より遅いこと、lag<0は求人数の転換点が相手系列より早いことを意味する。

なお、第2段階のクロス相関で用いたlagは、正のlagが「求人件数が相手系列に先行する」こと、負のlagが「相手系列が求人件数に先行する」ことを示しており、転換点比較でのlagとは符号の解釈が異なる。両者は、相関の時間差を捉えるのか、転換点の順序を捉えるのかという目的が異なるため、lagの符号を混同しないよう留意する。

〔第6段階:共分散構造分析(SEM:構造の整合性の比較)〕

本段階では、ここまでの結果を踏まえ、求人件数、不足感、従業員数、時間外労働時間の間にどのような経路が成り立つかを、観測変数ベースのクロスラグ・パス解析で整理する。例えば、正社員では、不足DI、従業員数DI、時間外DI、求人件数の間に次のような経路を置く。

このとき、c1が有意であれば「前月の求人件数が当月の不足感を説明する」経路が、d1が有意であれば「前月の不足感が当月の求人件数に関係する」経路が、それぞれ残る。適合度はCFI、TLI、RMSEA、SRMRを参考に比較する。ただし標本数が限られるため、SEMは補助的に位置づけ、最終的な整理は第1段階から第5段階までの結果との整合性を重視して行う。

3. データ整備と分析の前提

本節では、分析対象データの接続方法と、推計に用いる変換系列を定義する。週次の求人件数と月次のDIをそのまま比較すると頻度の違いに起因するずれが生じ得るため、まず求人件数を月次系列に整備したうえで、中心化、対数化、差分化、標準化を段階的に施し、同時性・ラグ構造・双方向性を多面的に確認できる形に整える。

3.1. 使用データと対象期間

企業の求人件数は、株式会社フロッグが提供するサービス「HRogチャート」から得られる求人情報を用いた。人手不足関連指標は、TDB景気動向調査に基づく雇用過不足DI、従業員数DI、時間外労働時間DIを用いた。両系列の重複期間である2022年3月~2025年12月の46カ月を分析対象とした。

3.2. 求人件数の月次化(週次→月次)

求人件数は週次系列であるため、月次DIと接続できるよう月次化を行った。本分析では、各月mについて当該月に最初に観測された週次値を代表値Jmとする方法を採用した。これは、月内のある時点の値を平均することよりも、月初時点で観測される求人動向と同月のDIの関係を捉えるという本分析の目的に整合するためである。月次化は次式で表される。

Jm=求人件数m,first observed week

ここでfirst observed weekは、月内で最初に掲載年月日が表れる観測週を表す。

3.3. DIの中心化(50基準の統一)

DIはいずれも50が判断の分かれ目であるため、必要に応じて中心化系列を作成した。中心化系列は次式で定義する。

X*t=Xt-50

これにより、雇用過不足DIではX*t>0が不足、X*t<0が過剰を示す。従業員数DIおよび時間外労働時間DIではX*t>0が増加、X*t<0が減少を示す形となり、指標間で符号の解釈をそろえて捉えることができる。

3.4. 変換系列(対数化・差分化)

求人件数は水準差が大きいため、変化率近似を得やすくする目的で対数系列を作成した。

Jtlog=log(Jt)

さらに、共通トレンドにより水準相関が課題になり得る点を踏まえ、水準系列に加えて前月差と前年同月差を併用した。前月差と前年同月差は次式で定義する。

ΔXt=Xt-Xt-1
Δ12Xt=Xt-Xt-12

前月差は短期の変化の並び方を、前年同月差は年単位の増減の並び方を捉えるために用いる。これらを併用することで、同時点の連動性、時間差を伴う連動性、局面転換の順序といった複数の側面をより安定的に捉えられるかを点検する。

3.5. 補助指標:労働需給ギャップ

補助指標として、雇用過不足DIと従業員数DIの差からなる労働需給ギャップを作成した。これは、不足感に対して実際の人員増加が追いついていない度合い(採用・充足ギャップ)を捉えることを意図したものである。定義は次のとおりである。

Gtが大きいほど、不足感の高まりに対して人員増加が相対的に弱い状態を示すものとして捉える。

3.6. 標準化と図示

図示にあたっては、系列間で単位や変動幅が異なるため、必要に応じて標準化(平均0、標準偏差1)を施した系列を用いた。これにより、各系列が平均からどの程度乖離しているかを同一尺度で把握でき、同時性や局面の対応を視覚的に捉えやすくなる。

3.7. 分析の進め方(6段階の確認)

本分析は、(1)同時点相関、(2)先行・遅行分析(クロス相関)、(3)双方向回帰、(4)VAR・グレンジャー因果性(補助分析)、(5)転換点比較、(6)観測変数ベースのSEMの順に進めた。いずれの段階でも、各変数の同時性・ラグ構造・双方向性がどのように表れるかを多面的に確認することを重視した[3]。

【図1 正社員関連系列の標準化推移】

【図1 正社員関連系列の標準化推移】

【図2 非正社員関連系列の標準化推移】

【図2 非正社員関連系列の標準化推移】

4. 第1段階:記述統計・同時点相関

本段階の目的は、各系列の水準と変動性を把握するとともに、まず「同じ月に同じ方向へ動きやすいか」という同時点の連動性を確認することである。ここでは、関係の向き(どちらが先か)をあらかじめ定めず、連動の有無と強弱を基礎情報として整理し、次段階以降のラグ構造や双方向性の検証に接続するための足場を整える。

記述統計では、平均、標準偏差、最小値、最大値に加え、変動係数 を算出した。変動係数は平均に対するばらつきの大きさを示し、単位の異なる系列どうしの変動性を比較する際に有用である。

同時点相関では、Pearson相関係数(r)を用いた。rは2系列の線形な連動性の強さを表し、r>0は同方向、r<0は逆方向、|r|が大きいほど連動が強いことを示す。ただし、本段階の位置づけはあくまで同時点での連動性を整理することであり、先行・遅行の順序や因果の有無をこの段階で確定するものではない。

相関は、水準系列、前月差系列、前年同月差系列の3種類で計算した。水準で相関が高くても差分系列で弱まる場合、共通トレンドによる見かけの連動が含まれている可能性があるためである。したがって本段階では、水準の結果を出発点としつつ、差分系列の結果も併せて確認し、連動の輪郭を多面的に捉える。

まず、各系列の水準の特徴と同時点の連動性を確認した(表1)。求人件数は正社員より非正社員の方が水準も変動幅も大きい。一方、雇用過不足DIは正社員の方が平均水準・変動幅ともに高く、需給ギャップも正社員の方が大きい。

【表1 主要系列の記述統計量】

【表1 主要系列の記述統計量】

次に、主要な組み合わせについて同時点相関を確認した(表2)。水準では「正社員求人×正社員雇用過不足DI」が比較的強い正相関を示した(r=0.641)。同じく、正社員求人と労働需給ギャップも正相関であった(r=0.503)。一方、非正社員求人と非正社員の雇用過不足DIは、水準の同時点相関がほぼゼロであり、非正社員については同時点の不足感だけでは捉え切れない要因が関係している可能性がある。

前年差系列では、非正社員求人×非正社員雇用過不足DIが正相関(r=0.478)となり、年単位の増減という観点では両者が同方向に動きやすいことが確認された。また、正社員求人×正社員従業員数DIも正相関(r=0.421)であった。逆に、正社員求人×時間外労働時間DIは前年差で強い逆相関(r=-0.712)を示し、求人件数の増減と時間外労働の動きが反対方向に表れやすい側面が確認された。

【表2 同時点相関(主要組み合わせ)】

【表2 同時点相関(主要組み合わせ)】

以上より、第1段階では、(1)正社員は水準で求人件数と不足感の同時点連動性が確認できること、(2)非正社員は水準の連動性が弱い一方で前年差では同方向の動きが確認できること、(3)正社員では時間外労働時間と求人件数の間に前年差で逆方向の連動が確認できることの3点を基礎情報として整理した。これらは同時点での関係の輪郭を捉えるための結果であり、先行・遅行の順序や双方向性の有無は、次段階以降のラグ構造と動学的な検証を通じて改めて確認する。

5. 第2段階:先行・遅行分析

本段階では、求人件数と人手不足関連指標のいずれを先行側とも仮定せず、前後両方向にラグを振ったクロス相関により、時間的な並び方の特徴を確認する。ここで重視するのは、同じ2系列であっても「同時点相関」と「ラグ付き相関」では捉えられる関係が異なり得る点である。

クロス相関は、ρjd(k)=corr(Jt,Dt+k)と表せる。k>0で相関が大きければ求人件数Jtが先に動き、その後に相手系列Dtが動く。逆にk<0で相関が大きければ、相手系列が先に動き、求人件数が遅れて反応していることを示す。

ラグは原則として前後6カ月を比較し、参考として前後12カ月も確認した。ただし、水準系列のクロス相関は共通トレンドの影響を受けやすく、端点付近の相関が過大になりやすい。このため本段階では、前年差系列および前月差系列の結果を優先し、時間差をともなう連動の表れ方をより安定的に捉える。

また、前年差は年単位の増減の並び方を、前月差は短期の変化の並び方を捉えるために用いる。したがって、同じ組み合わせでもタイムスケールによって時間的な並び方が異なる可能性がある点を前提に整理する。

次に、求人件数と各指標について、前後方向にラグを振ったクロス相関を確認した。水準系列では共通トレンドの影響が大きく、±12カ月付近の相関が強く出る組み合わせが多かったため、以下では主として前年差系列および前月差系列の結果を重視する。

【表3 ラグ±6カ月でみた最大絶対相関】

【表3 ラグ±6カ月でみた最大絶対相関】

【図3 正社員求人と雇用過不足DI(正社員)のクロス相関(前年差)】

【図3 正社員求人と雇用過不足DI(正社員)のクロス相関(前年差)】

【図4 非正社員求人と雇用過不足DI(非正社員)のクロス相関(前年差)】

【図4 非正社員求人と雇用過不足DI(非正社員)のクロス相関(前年差)】

【図5 正社員求人と時間外労働時間DIのクロス相関(前年差)】

【図5 正社員求人と時間外労働時間DIのクロス相関(前年差)】

正社員については、前年差でみると不足DIが先に動き、求人件数が約6カ月遅れる形の相関が比較的強かった(lag=-6で r=0.546)。すなわち、不足感の高まりが先に現れ、その後に求人が増える局面が一定程度ある。

非正社員については、前年差では不足DIと求人件数の相関のピークがほぼ同月にあり(lag=0で r=0.478)、年単位の増減では同方向に動く。他方、前月差ではlag=+2で負相関が比較的大きく、月次の短期変動だけをみると、求人がやや先に動いた後に不足DIが低下する局面もみられる。

正社員求人と時間外労働時間DIの前年差では、求人が2カ月先行する位置で強い逆相関がみられた(lag=+2で r=-0.745)。採用拡大の後に時間外労働の増勢が弱まる、あるいは時間外労働が平常化する構図と整合的である。

6. 第3段階:双方向回帰分析

本段階では、単なる相関ではなく、自己持続性をコントロールしたうえで、求人件数がDIを説明するのか、逆にDIが求人件数を説明するのかを比較した。ここで用いたのは自己回帰付き分布ラグモデルである。

「求人からDIへ」の基本式は、Yt=α+ΣφiYt-i+ΣβkJt-k+εt である。左辺Ytは不足DI、従業員数DI、時間外DIなどであり、右辺にはY自身の過去値と求人件数のラグを入れる。βkが有意であれば、求人件数の過去情報が当月のYを説明していることになる。

逆方向の「DIから求人へ」では、Jt=α+ΣψiJt-i+ΣδkYt-k+vt と置いた。こちらでδkが有意なら、DIの変化が後の求人件数を説明していることになる。両方向の式を同じラグ候補集合で推計し、どちらの向きの説明力が高いかを比較した。

【表4 双方向回帰の要約】

【表4 双方向回帰の要約】

モデル選択では BIC=-2logL+KlogT を用い、自己ラグのみの基準式に対してBICがどれだけ改善したのかをみた。追加ラグ全体の有意性も併せて確認し、BIC改善とp値の双方から方向性を判断した。

クロス相関だけでは方向性の比較が十分でないため、自己回帰項を含む分布ラグ型の回帰を、求人→DIとDI→求人の両方向で推計した。ラグ長は0~6カ月の範囲でBICを基準に選択し、追加ラグの有効性は基準モデル(自己ラグのみ)との比較で確認した。

正社員不足DIの式では、求人ラグを追加するとBICが4.689改善し、追加ラグ全体も有意であった(p=0.039)。同時に、逆方向の「不足DI→求人」もBICが1.851改善し有意であった(p=0.022)。したがって、正社員では求人件数と不足感の関係は双方向的であり、片方向の先行指標とは言い切れない。

非正社員不足DIの式では、「求人→不足DI」は有意でBICも改善した(改善幅3.779、p=0.001)が、「不足DI→求人」は支持されなかった。これは、非正社員では不足感そのものが求人件数を押し上げるというより、求人増が一定期間後に不足感を和らげる方向に働いている可能性を示す。

従業員数DIについては、正社員・非正社員ともに「従業員数DI→求人」の方が明瞭であった。とくに正社員はBIC改善7.508(p=0.014)、非正社員もBIC改善3.851(p=0.008)であり、求人件数は既存の雇用調整の結果を受けて動く側面が強い。

時間外労働時間DIについては、水準では求人→時間外DIが統計的にやや弱い関係性を示すレベルにとどまったが(p=0.061)、前年差では求人→時間外DIが5%水準で有意となり(BIC改善3.538、p=0.012)、しかも係数は負であった。

7. 第4段階:VAR・グレンジャー因果性(補助分析)

本段階は、短期の変化率ベースで「どちらの過去情報が相手の予測を改善するか」を確認する補助分析である。ここでは前月差系列を用い、2変数VARを推計した。

2変数VARの一般形は、[Jt,Yt]'=A0+A1[Jt-1,Yt-1]'+…+Ap[Jt-p,Yt-p]' である。各式に両系列の過去値を同時に入れることで、自己持続性と相互作用を同時に扱える。

グレンジャー因果性検定では、たとえば「求人件数は不足DIをグレンジャー原因しない」という帰無仮説 H01=β2=...=βp=0を検定する。これが棄却されれば、求人件数の過去情報が不足DIの予測に有用であることを意味する。

ここでいう因果性は、構造的な因果効果ではなく、予測上の先行性にすぎない。そのため、本報告書ではVAR単独で結論を出さず、第1段階から第3段階、および転換点比較・SEMとの整合性を重視して解釈した。

系列の変化率ベースで予測上の先行性を確認するため、前月差系列を用いた2変数VARを補助的に推計した。ラグ次数はBICで選択した結果、すべて1期ラグとなった。

【表5 VAR・グレンジャー因果性検定(前月差系列)】

【表5 VAR・グレンジャー因果性検定(前月差系列)】

ここで最もはっきりしたのは、従業員数DIの変化が求人件数の変化を先に説明している点である。正社員では「従業員数DI→求人」がp<0.001、非正社員でもp=0.001と有意であり、逆方向の「求人→従業員数DI」は支持されなかった。

不足DIについては、正社員ではどちらの方向も有意ではなく、非正社員では「求人→不足DI」が10%水準でやや弱い関係性を示すレベルにとどまった(p=0.066)。時間外労働時間DIについても、どちらの方向も明確ではなかった。

したがって、短期の変化率ベースでみる限り、求人件数は不足感を一貫して先導する指標ではなく、むしろ従業員数の変化を受けて反応する面が強い。

8. 第5段階:転換点比較

本段階では、水準や変化率の相関とは別に、系列の「山」と「谷」がどの順序で現れるかを比較した。景気や需給の局面転換をみる際には、平均的な相関よりも、ピークアウトや底打ちの順序の方が実務上重要になるためである。

まず、各系列に対して3カ月移動平均を適用し、短期ノイズをならした。そのうえで、局所的な山はXt>Xt-1かつXt>Xt+1、谷はXt<Xt-1かつXt<Xt+1を満たす点として抽出した。

近接する転換点同士を対応づけ、lag=TPjob-TPotherを計算した。ここでlag>0は「求人件数の転換点が遅い」、lag<0は「求人件数の転換点が早い」ことを意味する。クロス相関と転換点比較ではlagの符号の意味が異なるため、この点には注意が必要である。

系列の山・谷を3カ月移動平均で平滑化した後に抽出し、求人件数の転換点が他系列よりどれだけ早いか遅いかを確認した。表6では、近接した転換点のみを対応づけた平均ラグを示している。正の値は「求人が遅い」、負の値は「求人が早い」ことを意味する。

【表6 転換点の平均ラグ(|lag|<=6カ月)】

【表6 転換点の平均ラグ(|lag|<=6カ月)】

正社員求人と正社員不足DIの転換点は、平均するとほぼ同時であった(平均-0.40カ月)。したがって、正社員求人は不足感に対して明確に先行するというより、局面転換ではほぼ並走している。

非正社員求人と非正社員不足DIでは、求人件数の転換点が平均2.70カ月遅れていた。非正社員については、局面の変わり目に限れば、求人件数は不足感に対して遅行色が強い。

正社員求人と時間外DIはほぼ同時であり(平均0.17カ月)、時間外労働は求人と近いタイミングで調整されている可能性がある。

9. 第6段階:共分散構造分析(SEM)

本段階では、ここまでの結果を踏まえ、求人件数、不足感、従業員数、時間外DIの間にどのような経路が成り立つかを、観測変数ベースの小規模なパス解析で整理した。SEMは因果を証明する道具ではなく、複数の関係を一つの図式にまとめて整合性を比較するための補助分析として用いた。

たとえば正社員では、

という形で、求人先行経路と不足DI先行経路の双方を含むクロスラグ型モデルを置いた。

このとき、c1が有意なら「前月の求人が当月の不足感に効く」こと、d1が有意なら「前月の不足感が当月の求人に効く」ことを意味する。さらに、c2c3の符号をみることで、不足感が人員増で緩和されるのか、時間外労働で補完されるのかを読み取ることができる。

モデル比較では、CFI、TLI、RMSEA、SRMRを用いて、求人件数先行型、DI先行型、クロスラグ型のどれが最も整合的かを確認した。ただし、標本数が46カ月と限られるため、ここでの結果は補助的に解釈した。

最後に、観測変数ベースの小規模なパス解析を行い、求人件数先行型、DI先行型、クロスラグ型の整合性を比較した。標本数が限られるため、ここでは補助的な位置づけとして解釈する。

【表7 SEMの適合度比較】

【表7 SEMの適合度比較】

正社員では、CFIとTLIの観点からクロスラグ型(モデルC)が最も良好であった。標準化係数をみると、前月の正社員求人は当月の不足DIに正の影響を持ち(標準化係数0.172、p=0.009)、逆に前月の不足DIから当月の求人件数への経路も境界的に残った(標準化係数0.056、p=0.053)。この結果としては、正社員では双方向性が残るという他の分析結果と整合的であるといえる。

また、正社員の不足DIは、従業員数DIに対して負の係数(-0.238、p<0.001)、時間外労働時間DIに対して正の係数(0.157、p=0.002)を持ち、不足感が「人員増で緩和され、時間外労働で補完される」構造がみてとれる。

非正社員では、クロスラグ型の適合度は良好である一方、求人件数から不足DIへの経路も、不足DIから求人件数への経路も有意ではなかった。非正社員は、求人・不足感ともに自己持続性の方が強く、明確な構造的先行関係は弱い。

図6は、正社員について最も当てはまりが良好であったクロスラグ型のSEM(モデルC)を示したものである。このモデルでは、前月の正社員求人件数と前月の雇用過不足DIが、当月の正社員求人件数および当月の雇用過不足DIにどのようにつながるかを、自己継続の経路と相互のクロスラグ経路を含めて表している。あわせて、当月の雇用過不足DIには、同じ月の従業員数DIと時間外労働時間DIも接続し、人手不足感が人員増加や残業増加とどのように関係しているかを同時にみている。

図中の数値は標準化パス係数であり、値が大きいほど関係が強いことを示す。正の値は一方が高いほど他方も高くなる関係を、負の値は一方が高いほど他方が低くなる関係を、それぞれ意味する。また、破線で示した経路は統計的にみて境界的であり、実線の経路に比べて解釈には慎重さが求められる。

【図6 正社員SEM:クロスラグ型(モデルC)のパス図】

【図6 正社員SEM:クロスラグ型(モデルC)のパス図】

まず最も強いのは、正社員求人件数の自己継続性である。前月の正社員求人は当月の正社員求人に強くつながっており、標準化係数はβ=0.953(p<0.001)であった。これは、正社員求人件数が月をまたいでかなり持続的に動いていることを示している。すなわち、ある月に求人が多い局面では、その翌月も高水準の求人が続きやすい。

次に、前月の正社員求人件数は当月の雇用過不足DIを押し上げる関係が確認された。該当する経路の係数はβ=0.162(p=0.018)であり、前月に求人が増えている局面ほど、当月の「正社員が不足している」という認識が強まりやすいことを示している。これは、求人件数が単なる採用意欲の表れにとどまらず、企業の人手不足感と結びついていることを意味する。

一方で、雇用過不足DIの自己継続性も明確である。前月の雇用過不足DIは当月の雇用過不足DIに強く正の影響を与えており、係数はβ=0.660(p<0.001)であった。人手不足感は一時的に解消されるものではなく、月をまたいでかなり持続する性格を持つことが分かる。

加えて、当月の雇用過不足DIには、同月の雇用調整変数も有意に関係している。従業員数DIから雇用過不足DIへの経路はβ=−0.222(p<0.001)であり、正社員数が増えている月ほど、人手不足感は緩和される方向に働いている。これは直感にも整合的であり、採用や雇用の増加が不足感を和らげることを示している。これに対して、時間外労働時間DIから雇用過不足DIへの経路はβ=0.144(p=0.009)と正であった。すなわち、時間外労働が増えている月ほど、人手不足感も強い。これは、残業増が人手不足を解消しているというより、むしろ不足を補うために残業でしのいでいる局面を反映していると解釈できる。

さらに、前月の雇用過不足DIから当月の正社員求人件数への経路も推計されており、係数はβ=0.056(p=0.068)であった。この経路は破線で示されているとおり、統計的には境界的である。したがって、正社員では「不足感が高まったから翌月の求人が明確に増える」とまでは強く言い切れないものの、その方向の関係が弱く残っている可能性はある。

以上を総合すると、正社員のモデルCからは、求人件数と人手不足感の間には一方向ではない関係が想定されるものの、より明瞭なのは「前月の求人増が当月の不足感の強まりにつながる経路」と「不足感そのものの持続性」であることが分かる。同時に、不足感は従業員数の増加によって緩和される一方、時間外労働の増加によって補完されている。言い換えれば、正社員の人手不足局面では、企業は求人を出し続けつつ、充足しきれない分を残業で吸収し、その不足感は翌月にも持ち越されやすい構造になっている。

なお、このパス図は変数間の構造的な整合関係を示すものであり、厳密な因果効果を直接証明するものではない。そのため、「求人が不足を生む」といった強い因果表現ではなく、求人増と不足感の強まりが時間差を伴って結びついている、また不足感が残業増や人員増加と同時に調整されていると解釈するのが適切である。

まとめ

今回行った分析結果は、次のようにまとめることができる。

第1に、求人件数は全体として「一方向の先行指標」ではない。正社員では不足感とかなり強く同時に動くが、不足DIから求人件数への反応も一定程度みられ、双方向的である。

第2に、非正社員では、同時点の不足感と求人件数の結び付きは弱いが、局面転換では求人件数の方が2~3カ月遅れる傾向があった。したがって、非正社員求人は不足感の変化に対する遅行指標としての性格が相対的に強い。

第3に、従業員数DIは、正社員・非正社員ともに求人件数より先に動く傾向が明瞭であった。企業はまず既存人員の増減や充足状況の変化を経験し、その後に求人件数を調整している可能性が高い。

第4に、正社員求人と時間外労働時間は、短期的にはおおむね同時に動くが、前年比ベースでは求人増が時間外労働の鈍化・正常化と結びつく可能性がある。

以上を踏まえると、求人件数は「人手不足感・人員調整・残業調整の結果を織り込みながら動く複合指標」とみることが妥当である。とくに、正社員は同時・双方向、非正社員はやや遅行という整理が現時点では最も整合的である。

分析上の留意点

本分析は全国集計の月次時系列46カ月を対象としており、産業別・企業規模別・地域別の異質性は反映していない。また、観測データに基づく分析であるため、ここでいう先行・遅行は予測上・時系列上の順序であり、厳密な因果効果を直ちに意味するものではない。さらに、転換点判定とSEMは標本数の制約から補助的分析として位置づける必要がある。


[1] 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年1月)」(2026年2月20日発表)

[2] 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」(2026年4月9日発表)

[3] なお、本節で整備した各系列は、同時性・ラグ構造・双方向性を多面的に確認するために複数の変換系列を併用している。したがって、特定の系列(例えば水準系列)に限った結果のみから関係を一義的に定めず、複数の段階の結果の整合性を重視して整理する。

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