レポート

原油価格高騰が物価および家計支出に与える影響

世帯年収で異なる原油高騰による影響度 ~ インフレ率は0.25~1.26%押し上げられ、実質賃金の下押し要因に ~

情報統括部 情報統括課
主席研究員 窪田剛士

日本は原油のほぼ全量を輸入に依存しており、とりわけ中東はエネルギー供給を支える主要な調達先となっている。そのため、中東情勢の緊迫化にともなう原油価格の上昇は、エネルギー価格の変動にとどまらず、企業の生産・輸送コストを通じて幅広い財・サービスの価格に波及しやすい構造にある。足元では、2月末以降の地政学的リスクの高まりを受けて中東産ドバイ原油価格が急騰しており、国内物価や家計への悪影響が改めて懸念されている。

原油高の影響は、ガソリンや灯油などのエネルギー価格に直接表れるだけでなく、物流費や電力コストの上昇を通じて、消費者物価全体を押し上げる要因にもなる。とくに、生活必需的な支出の割合が高い世帯では、物価上昇が家計に与える影響は相対的に大きくなりやすい。こうした点を踏まえ、本レポートでは、原油価格が20%、50%、100%上昇する3つのシナリオを設定し、産業別の出荷価格、消費者物価、家計支出への影響を試算した。

【要約】

  1. 試算の結果、原油価格の上昇は石油製品や物流・電力コストを通じて幅広い価格に波及し、消費者物価上昇率を0.25~1.26ポイント押し上げることが見込まれる。
  2. 家計への影響をみると、二人以上の勤労者世帯の年間支出は最大で5万388円増加し、収入が変わらない場合には実質的な購買力の低下につながる。
  3. とりわけ低所得世帯では、もともと家計に余裕が乏しいなかで追加負担が生じるため、影響が相対的に大きい。原油高はすべての世帯に影響するが、その重さは世帯年収によって異なる。

1. 中東産原油価格の動向

日本は原油の約95%を中東からの輸入に依存している。2025年の輸入量は1億3,717万kLで、主な輸入先はアラブ首長国連邦(43.3%)、サウジアラビア(39.4%)、クウェート(6.2%)、カタール(4.2%)、アメリカ合衆国(3.8%)であった。

近年では、2022年3月から7月にかけて中東産ドバイ原油価格が1バレル100ドルを超える水準まで上昇した。その後は緩やかに低下し、2025年4月以降はおおむね60ドル台で推移していた。しかし、2月末以降の中東情勢の緊迫化を受けて、ドバイ原油のスポット価格は再び上昇している。3月9日には、取引の中心となる5月渡しが1バレル124.90ドル前後と、前週末比30.10ドル高い水準まで急騰した。10日には110.80ドル前後へいったん低下したものの、16日午後時点では147.90ドル前後まで上昇し、前週末比9.30ドル高い水準で推移している。

そこで本レポートでは、原油価格上昇の影響を把握するため、以下の3つのシナリオを設定して国内の価格動向や家計への影響を分析した。

シナリオ1:原油価格が20%上昇
シナリオ2:原油価格が50%上昇
シナリオ3:原油価格が100%(2倍)上昇

【図1 原油価格の推移(中東産ドバイ原油価格)】

【図1 原油価格の推移(中東産ドバイ原油価格)】

2. 各産業の出荷価格に与える影響

原油価格が20%(シナリオ1)、50%(シナリオ2)、100%(シナリオ3)上昇した場合、多くの産業で仕入れコストの増加が見込まれる。2020年全国産業連関表によれば、輸入原油の販売先の約99%は、ガソリン、灯油、重油などを含む石油製品製造業向けである。また、石油製品製造業が仕入れる原材料のうち82.7%を原油が占めている。

このため、原油価格の高騰は石油製品価格に大きく影響する。石油製品価格の上昇は、ガソリンや重油を通じてバスなどの運輸業や火力発電由来の電力料金にも波及する。ただし、石油製品の販売価格への転嫁率は54.0%程度[1]であり、仕入れ価格の上昇分がそのまま最終価格に反映されるわけではない。もっとも、石油製品価格の上昇は多くの産業のコストを押し上げ、最終的には消費者物価にも影響を及ぼす。

表1では、原油価格の上昇が各産業の出荷価格をどの程度押し上げるかを試算した結果を示した[2]。最も価格上昇が大きいのは、プラスチックや合成繊維の原料を含む「石油化学基礎製品」である。シナリオ1では3.55%、シナリオ2では8.86%、シナリオ3では17.73%の上昇が見込まれる。

これに続くのが、ポリスチレン、ナイロン、ポリエステル樹脂、塗料、農薬、合成洗剤などの原料となる「石油化学系芳香族製品」、ならびに主としてアスファルトやセメント、樹脂などを用いる「舗装材料」である。原油はエネルギー源としてだけでなく、素材産業の基礎原料でもあるため、その価格上昇は製造業を中心に幅広く波及しやすい点に留意が必要である。

【表1 産業別の主化価格の押し上げ率~上位10産業~】

【図1 原油価格の推移(中東産ドバイ原油価格)】

3. 消費者物価への影響

企業の出荷価格が上昇すると、その一部は最終的に消費者物価へ転嫁される。試算によれば、消費者物価全体の上昇率は、シナリオ1で0.25ポイント、シナリオ2で0.63ポイント、シナリオ3で1.26ポイント押し上げられる見込みである(図2)。

【図2 消費者物価上昇率の押し上げ幅】

【図2 消費者物価上昇率の押し上げ幅】

品目別にみると、最も押し上げ幅が大きいのは「軽油」であり、次いで「ガソリン」「その他の石油製品」「灯油」「液化石油ガス」が上位となった(表2)。とりわけシナリオ3では、「軽油」が38.76%、「ガソリン」が31.83%上昇すると見込まれる。これらのエネルギー価格の上昇は、直接的な負担増にとどまらず、物流コストや生産コストの上昇を通じて、他の財・サービス価格の押し上げ要因にもなり得る。

【表2 消費者物価の品目別押し上げ幅~上位10品目~】

【表2 消費者物価の品目別押し上げ幅~上位10品目~】

4. 家計支出への影響

原油価格の上昇は、家計にも大きな負担をもたらす。二人以上の勤労者世帯について年間支出への影響を試算すると、シナリオ1では1万78円、シナリオ2では2万5,194円、シナリオ3では5万388円の支出増加となる。収入が変わらないなかでの支出増であるため、家計にとっては実質的な購買力の低下を意味する。

【図3 家計における年間支出増加額(二人以上、勤労者世帯)】

【図3 家計における年間支出増加額(二人以上、勤労者世帯)】

さらに世帯年収別にみると、年収200万円未満の世帯では、シナリオ1で年5,039円、シナリオ2で年1万2,597円、シナリオ3で年2万5,194円の負担増となる見込みである(表3)。もともと支出額が収入の95%を超えるなかで追加負担が発生するため、低所得世帯ほど生活への影響は重い。

一方、年収1,500万円以上の世帯では、負担増加額は1万7,384円~8万6,919円と大きいものの、平均消費性向の上昇幅は0.5ポイント程度にとどまる。金額ベースでは高所得世帯の負担増も小さくないが、収入に占める比率でみれば、相対的な影響は低所得世帯の方が大きい。単身世帯でも同様の傾向がみられる。

このように、原油高の影響はすべての世帯に及ぶが、その重さは一様ではない。とくに低所得層では、食料や光熱費など生活必需的な支出の割合が高いため、物価上昇の影響を受けやすい。したがって、家計支援策を検討する際には、負担の絶対額だけでなく、家計に占める比率や可処分所得の余裕度も踏まえる必要がある。

【表3 家計における年間支出増加額(二人以上、勤労者世帯)~世帯年収別~】

【表3 家計における年間支出増加額(二人以上、勤労者世帯)~世帯年収別~】

おわりに

原油価格の上昇は、企業のコスト増にとどまらず、物価上昇率を押し上げることで実質賃金を下押しし、家計にも負担増という形で影響を及ぼす。とりわけ低所得世帯では、もともと家計に余裕が乏しいため、負担感がより強まりやすい。

また、中間層では平均消費性向の上昇幅が相対的に大きくなる傾向もみられる。これは、一定の収入を有していても、エネルギーや生活必需品の価格上昇によって家計運営の余裕が削られやすいことを示唆している。原油高の影響は世帯間で異なるため、政府の対策には一律の価格抑制策だけでなく、影響の大きい層に重点を置いたきめ細かな対応が求められる。


[1] 帝国データバンク、「価格転嫁に関する実態調査(2026年2月)」(2026年3月19日発表)
[2] 本レポートの試算は、「2020年産業連関表」「家計調査」(どちらも総務省)、帝国データバンクの調査結果(注[1])を用いて算出した

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