レポート

全国「後継者不在率」動向調査(2025年)

日本企業の「後継者不在率」過去最低の50.1%「脱ファミリー」経営が加速

株式会社帝国データバンクでは、信用調査報告書ファイル「CCR」(200万社収録)など自社データベースを基に、2023年10月-2025年10月の期間を対象に、事業承継の実態について分析可能な約27万社(全国・全業種)における後継者の決定状況と事業承継について分析を行った。

同様の調査は2024年11月に続き通算12回目。

SUMMARY

2025年における日本企業の後継者不在率は50.1%で、前年から2.0ポイント低下し、7年連続で改善傾向が続いている。官民の相談窓口や支援メニューの拡充が改善に寄与した。

社長の年代別では、30代未満が最も高く83.2%、50代は58.3%、80代以上は22.2%。

都道府県別では、最も不在率が低いのは三重県の33.9%、最も高いのは秋田県の73.7%。業種別では、全業種で不在率60%を下回った。最も高いのは建設業の57.3%。

事業承継における「脱ファミリー化」が進み、内部昇格が同族承継を上回る兆しがある。


後継者不在率の動向

2025年の後継者不在率は50.1% 改善傾向が続く

全国の全業種約27万社を対象とした2025年の後継者動向を調査した結果、後継者が「いない」、または「未定」の企業は13.8万社となり、全国の後継者不在率は50.1%となった。前年(2024年)から2.0ポイント(pt)低下し、7年連続で前年の水準を下回ったほか、2016年調査以降の過去10年間では、最高だった2017年に比べると16.4ptの大幅低下となった。日本企業の後継者問題は、全体的に改善傾向が続いている。

事業承継に関する官民の相談窓口が全国に普及し、プル・プッシュ型の各種支援メニューも拡充されたことで、従前は支援対象として手が届きにくかった小規模事業者にも門戸が広がった。自治体や民間のM&A仲介事業者、特に地域金融機関による事業承継への取り組み効果も加わって、事業承継の重要性が広く認知・浸透したことが、経営者をはじめ事業承継に直面した当事者の意識変化をもたらすなど、後継者不在率の改善に大きな影響力を発揮したとみられる。

他方、企業規模によっては後継者対策が進まず、依然として高い後継者不在率で推移した。中小企業基本法に基づく企業規模別でみると、「大企業」では24.9%にとどまった一方で、「中小企業」では51.2%、中小企業のうち「小規模企業」では全国全業種平均を大きく上回る57.3%となった。比較可能な2023年調査からの改善幅でも、「大企業」では5.5pt低下したのに対し、「中小企業」では3.7pt、「小規模企業」では2.9ptと、小規模企業ほど後継者対策が進んでいない実態が判明した。


中小企業の後継者不在率を、企業の「主要取引金融機関(メインバンク)」別にみると、2025年では「メガバンク」が44.2%だったほか、事業承継支援に注力する「政府系金融機関」も42.3%と、いずれも低水準で推移した。他方、「信用金庫」(57.9%)、「信用組合」(56.2%)はいずれも全国全業種平均(50.1%)を大きく上回る水準だった。事業承継の局面では、後継者が株式や事業用資産を買い取る場合も多く、資金調達を含めた承継ノウハウのほか、承継に関心の高い企業・経営人材などを紹介するネットワークなど、金融機関の果たす役割は大きい。ただ、こうした機能を十分に提供するための専門人材やノウハウが十分蓄積されていない、あるいは人員不足から「事業承継支援まで手が回らない」といった金融機関では、潜在的な事業承継ニーズを掘り起こせていない可能性もある。

年代別:「40代・50代」で後継者不在率の大幅改善続く

社長年代別の後継者不在率では、「30代未満」が最も高く83.2%となった。「50代」(58.3%)までは全国平均に比べて高く、創業直後、または経営者が壮年期で活躍する企業では、後継者を選定する必要性・緊急性が低いことも、若手~現役世代の後継者不在率が高い要因となっている。ただ、前年・前々年に比べるといずれも後継者不在率は低下しており、現役世代の「40代」、事業承継が視野に入る「50代」の後継者不在率が前年に比べ2pt以上低下するなど大きく改善した。特に、先代社長から事業を承継した若手経営者などでは、事業承継の難しさなどを実際に経験していることから「早い段階で後継候補を策定、育成する」意識が醸成されていることも、若手・現役世代の後継者不在率が低下傾向にある要因の一つとしてあげられる。他方、「60代」以上では全国平均を大きく下回り、「80代以上」(22.2%)は全年代で最も低かったものの、今なお2割の企業が後継者を策定していなかった。

近時は経営環境の急激な変化により事業承継を中断したケースや、現代表者による後継者選びの見直し、あるいは後継者候補だった人物の辞退や退社といったケースなどもみられる。2024年→2025年の後継者策定状況が比較可能な企業で、後継者が「不在」だった約10万社の動向をみると、2024年以降に代表者交代を行ったことで後継者を決めていない「承継直後」が3.0%、2024年時点では後継者候補がいたにもかかわらず2025年に後継者不在となった「計画中止・取りやめ」が1.9%を占めた。なかでも、「計画中止・取りやめ」は前年調査(2.6%)から低下した。

年代別にみると、「計画中止・取りやめ」の割合は30代未満~50代まで1%台と低位で推移した一方、「60代」は2.3%、「70代」では3.3%と比率が上昇し、「80代以上」では4.7%と全年代で最高となった。事業承継が中断・頓挫した要因は多岐にわたるものの、高齢での事業承継では中断・白紙といったリスクがより高い傾向にある。


都道府県別:「秋田県」が唯一の不在率70%台

都道府県別で最も後継者不在率が低いのは「三重県」で33.9%だった。2021年以降、5年連続で全国最低水準となった。「地域金融機関などが密着して支援を行っていることに加え、経営や商圏が比較的安定している企業も多い」などの理由から、同族内で経営を引き継ぎやすい環境が整っていることなどが背景にある。同県では2018年にピークとなる69.3%を記録して以降、不在率の急激な低下がみられたものの、その後の改善幅は鈍化傾向で推移している。この他、不在率が全国平均(50.1%)を下回る都道府県は24に上った。

後継者不在率が全国で最も高いのは「秋田県」で、全国平均を大幅に上回る73.7%だった。同県が全国で最高となるのは2024年に続き2回目で、全都道府県で唯一不在率が70%を超えた。秋田県では2023年以降、全国で唯一後継者不在率が3年連続で上昇した。前年から不在率が上昇したのは秋田県のほか「佐賀県」(46.3%、+3.8pt)、「高知県」(63.2%、+3.2pt)など13県だった。後継者不在率の高い地域や、上昇傾向が続く地域では、総じて同族経営の企業が多く、親族以外の第三者に経営権を移譲することへの抵抗感が依然として根強いケースも少なくない。また、後継者候補となる若年層が都市部へ流出するなど経営人材の不足が深刻化しており、人口減少や高齢化など地域経済の活性化に課題を抱える地域などで影響が大きいとみられる。なお、2011-2020年の調査まで一貫して全国で不在率トップだった「沖縄県」(61.0%)は緩やかな低下が続き、全国で上位6番目となった。

業種別:全業種で不在率60%を下回る 調査開始以降で初

業種別では、2011年以降の調査期間で初めて、8業種すべてで不在率が60%を下回った。2025年の不在率が最も高かったのは「建設業」(57.3%)だが、過去最も高かった18年(71.4%)に比べて14.1pt低下、前年比でも2.0pt低下するなど改善傾向が続いた。

最も低いのは「製造業」(42.4%)で、現状のペースで改善が進んだ場合、2020年代に不在率40%を下回る可能性がある。製造業では自動車産業をはじめ、サプライチェーン(供給網)を構成する企業の事業承継問題が全体の供給網に影響を及ぼしかねないとの認識が広がっており、重点的な支援が行われてきたことも、後継者不在の改善に大きな役割を果たしたとみられる。

業種をより細かくみると(中分類)、最も不在率が高かったのは自動車ディーラーなど「自動車・自転車小売」の62.3%だった。不在率が60%を超えたのは他に、住宅建築などの「職別工事」(61.3%)の2業種にとどまり、2024年(5業種)から減少した。最も低い業種は「金融・保険」(31.4%)だった。

2025年の事業承継動向

就任経緯別:「脱ファミリー」が加速 「未経験でも」登板

2025年に代表者交代が行われた企業のうち、前代表者との関係性(就任経緯別)をみると、2025年(速報値)の事業承継は、血縁関係によらない役員・社員を登用した「内部昇格」によるものが36.1%となった。これまで事業承継の形式として最も多かった「同族承継」(32.3%)を速報値段階で上回った。以下、買収や出向を中心にした「M&Aほか」(20.6%)、社外の第三者を代表として迎える「外部招聘」(7.6%)など、外部から経営トップを迎え入れる事業承継が続いた。

2024年の実績では、「同族承継」が35.7%を占め最も高かったものの、「内部昇格」(35.0%)との差は0.7ptとなり、前年調査(1.6pt)から縮小した。このペースで推移した場合、2025年実績でも「内部昇格」が「同族承継」を上回る可能性がある。日本企業における事業承継は、これまで最も多かった親族間の承継から社内外の第三者へ経営権を移譲する「脱ファミリー」の動きが加速している。

この他、「M&Aほか」は19.2%となり、2023年実績を0.2pt下回った。前年を下回るのは、2020年(17.2%)以来、4年ぶりとなる。2024年には悪質な買い手企業により給与遅配や税金未納、経営者保証など健全な企業経営が行われない、契約通りに経営者保証の解除や債務の引き受けに応じなといったトラブルが相次いで表面化した。こうした影響も背景に、事業承継の現場においてM&Aを通じた第三者への事業譲渡に対し警戒感が広がった可能性もある。


2023-2025年の3年間で代表者交代が行われた企業のうち、後継者として就任した後任代表者の業界や経営経験の有無を分析した。その結果、2025年は業界経験が「10年以上」ある後任代表者が8割超(83.9%)を占め、業界に精通した人材が多く代表者として就任した。一方で、業界経験が「3年未満」の代表者就任が7.7%を占め、前年(6.5%)から拡大した。「経営経験の有無」では、「3年未満」(69.6%)が最も多く、多くがベテラン社員や役員として業界経験が長いものの、経営経験が少ない人材だった。

後継者候補属性:「非同族」が初の40%超え 「親族」が増加

2025年時点で後継者候補が分析可能な全国約13.8万社の後継者属性をみると、最も多いのは「非同族」の41.0%で、前年を1.7pt上回った。2024年調査に続き、後継者候補は「非同族」が4年連続でトップとなったほか、初めて40%を超えた。同族承継では「子ども」(29.7%)、「配偶者」(4.7%)はともに前年から低下した一方で、「親族」(24.6%)は前年から上昇した。長男や娘、娘婿など、家族間での事業承継は消極的な傾向が続く一方で、従兄妹や叔父・叔母などへの親族承継では上昇が続くなど、同じ親族承継でも傾向が分かれた。

現代表者の就任経緯別にみると、「外部招聘」によって現代表者が就任した企業では、後継者候補を「非同族」とする割合が9割に達した。「内部昇格」でも、非同族を後継者候補に据える傾向に変化はなかった。

後継者候補で「非同族」以外の割合が大きいのは、現代表者が「創業者」と「同族承継」の企業のみだった。ただ、こうした企業でも後継候補を身内以外の「非同族」に求める傾向が強まっており、「同族承継」における後継候補「非同族」の割合は前年比1.1pt、「創業者」は3.0pt、それぞれ上昇した。

ファミリー企業でも引き続き、親族外事業承継=脱ファミリーへ舵を切る動きが強まっている。


後継者問題 事業を「続ける」「畳む」の判断が分岐点に

コロナ禍以前から官民一体となって推し進めてきた事業承継への啓蒙活動や支援が中小企業にも浸透・波及し、後継者問題に対する代表者側の関心の高まりや意識改革は着実に進んでおり、後継者問題への取り組みは一定の成果をあげている。また、事業承継・引継ぎ支援センターや金融機関など各種の支援機関による相談窓口の広がり、事業承継税制の活用など、承継を促進する仕組みが整備されたほか、外部人材の招聘においても、働きながら事業継承を目指す「副業・兼業」の広がり、セカンドキャリアとしての事業承継など、従前に比べて経営人材の獲得ハードルが低下したことを背景に、経営者が早期に承継計画を立てやすくなったことも要因として大きい。

こうしたなか、後継者不在率は特定の年代や業種で不在率が上昇する傾向があるなど一部で偏りがみられるものの、全体では低下傾向にある。ただ、前年からの低下幅は過去10年の推移でみても小さく、急激な改善ペースが続いたコロナ禍直後(2020~2022年)と比較すると鈍化の兆しがみられる。特に地方において、当代限りでの「店じまい」を決断した高齢の経営者など「そもそも事業承継を望まない」層は多く、後継者不在率の押し上げ要因となっている。また、創業者や親族間で事業を代々引き継いできたファミリー経営の企業では、当初は子息への事業承継を模索していたものの、事業をさらに続けるためには老朽化した設備の更新などが必要で、現状の経営環境では新たな借入金を返済できるだけの収益力がなく、「負担をかけたくない」といった理由から事業承継計画を白紙にする、あるいは一時見合わせるといったケースもある。そのため、「後継者を決めて事業を続ける」企業と、「後継者を決めず事業を畳む」企業で二分される形で、後継者不在率は急激な低下は見込めず、当面は50%前後で推移するとみられる。

企業の約半数が「後継者候補を決めて事業を続ける」なかで、今後は株式や経営資産の引き継ぎ、取引先や金融機関との調整など、経営全般の具体的な承継ステージにおける支援の在り方が重要性を帯びてくる。現代表者が後継者候補を一旦は選定したものの、その後白紙化するケースが2025年調査にも一定割合で発生した。現代表者が能力面や素質面などから後継者への経営引き継ぎに消極的、または後継者候補と目した人材から事業承継を断られるなど、事業承継に携わる当事者の間で「認識の差=ミスマッチ」に端を発した、いわゆる「あきらめ」防止が課題となる。特に、現代表が70代以上と高齢の場合は、事業承継計画が何らかの形でトラブルに見舞われた際に「中止・取りやめ」となるリスクが高くなりやすい点は、承継当事者および支援機関において留意する必要があるだろう。

20251121_全国企業「後継者不在率」動向調査(2025年)

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